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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第四章

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没落令嬢フランセットは、スライムの話に耳を傾ける

 事の発端は、夜中に訪問してきたガブリエルの大叔父だったという。

 私と会ったときは早朝にやってきたような口ぶりだったが、実際には昨日のうちにスライム大公家に辿り着いていたようだ。


『じじい、ガブリエルに、いじわるいった!』

「大叔父ね」

『くそじじい!』

「悪化したわ」


 なんでも、ガブリエルの大叔父は、彼にも私との婚約を止めて孫娘と結婚するように言ったのだとか。最初は拒否していたようだが、あれよあれよと口車に乗せられたらしい。


『くそじじい、フラが、ガブリエルとけっこんしないほうが、しあわせっていった!』


 スプリヌ地方のような田舎の領地に嫁がせるのは気の毒だとか、王都育ちの者はきっと、いつかここを捨てるだろうとか、財産目当ての結婚だとか、好き勝手言ってくれたようだ。


 驚くべきことに、ガブリエルの紅茶に薬が盛られていたらしい。それで、だんだんと反抗しなくなっていったようだ。

 プルルンが気づいたときには遅かった。すでに、薬の効果が効いて、私との婚約予定を解消するとまで言いだした。

 ただそれは、薬だけのせいではないとプルルンは言う。


『ガブリエル、フラとのけっこん、ふあん、だった。フラにふさわしくない、ずっと、かんがえていた』

「どうして?」

『ガブリエルは、じぶんに、じしんがないから』

「彼は立派な男性ひとだわ。どうしてそんなこと思うの?」

『かぞくが、ガブリエルのがんばりを、みとめなかったから』

「そんな……!」

『フラはやさしいから、ガブリエルを、ほめたとおもっている』


 きっと、アクセル殿下のお言葉も、社交辞令か何かだと感じているのだろう。

 もっと、過剰なくらいに、ガブリエルの頑張りを称えておけばよかった。

 私が感じていた以上に、彼は後ろ向きだったようだ。


『そのあと、プルルンとガブリエルは、けんかした』


 殴る、蹴るの壮絶な喧嘩だったらしい。


『いつもは、プルルン、まけてあげるの。でも、きのうのけんかは、まけてあげられなかった』


 私と結婚しないのならば、プルルンはガブリエルとの契約破棄する。そう宣言し、喧嘩は始まった。

 ガブリエルは負け、プルルンが勝利を収める。

 そして、ふたりの友情とも言える契約は破棄された。

 ここにいるプルルンは、テイムされていない状態。すなわち、ただの魔物である。

 それでも、人を襲わずに変わらない状態を保っていた。

 昔、何かの本で読んだことがあるのだが、長い間テイムを維持し、契約者から多くの魔力を得た善良な魔物は〝精霊化〟すると。

 もしかしたらプルルンは、精霊になっているのかもしれない。この辺は、精霊に詳しい者でないと、判別は付かないだろうが。


『プルルン、しってる。ガブリエル、ずっとずっと、フラ、すきだった』

「ずっと?」

『にねんまえ、くらい』


 やはり、私達はプルルンを拾った以前に出会っていたらしい。なんとなく、ガブリエルの言動が怪しいと思っていたのだ。


 いつどこで出会ったのかは、私が思い出さなければならないのだろう。

 今のところ、まったく心当たりはないのだが……。


『ガブリエルは、ぜったい、フラとけっこんするのお』

「うん」

『だからフラ、プルルンといっしょに、ガブリエルのいえに、かえろう』

「ええ。みんな心配しているから、早く帰りましょう」


 プルルンは眦から涙を流す。つられて、私も泣いてしまった。

 この場にプルルンがいてよかった。独りだったら、絶望していただろう。


「プルルン、付いてきてくれて、ありがとう」

『いいえ』


 まずは、ここからどう脱出するか考えなければならないだろう。

 窓を覗き込む。ここは建物の二階のようだ。外はすでに真っ暗。魔石街灯に照らされた街は、多くの人達が行き来していた。

 娼館の周囲には、武装した強面の男達がうろついている。彼らが用心棒なのだろう。

 窓は蝋で固められ、開けられないようになっていた。

 扉も鍵が掛けられていて廊下には出られないようになっている。

 服も、朝着ていたモーニングドレスではなく、生地が薄い膝丈の肌着シュミーズだった。

 これも、逃亡防止の策なのだろう。

 下着から何から、私が身に着けたものではない。全部、ここで脱がされ、着替えさせられたようだ。


「服は勝手に脱がされたのね」

『ぬがしたの、ここの、おんなのひとだったよう』


 プルルンは必死になって、結び目が解けないようにしていたらしい。かなり長い時間引っ張られていたようだが、最終的にはプルルンの粘り勝ちだったようだ。


「このままの恰好では、脱出できないわね」

『プルルンが、ドレスになるー』


 そうだ。プルルンはさまざまなものに擬態できる。ここで、ピンと閃いた。


「プルルン、ドレスではなくて、男性が着ているような服に変化できる?」

『もちろん、できるよお』


 ドレスでは身動きが取りにくい。それに、貴族の娘が逃げたとひと目でわかるだろう。

 男装姿であれば、発見される可能性も低くなる。


『どんな、ふくがいいの?』

「庭師のおじさん達が着ているような作業服、わかる?」

『わかるう』

「それを、お願い」

『りょうかいっ!』


 プルルンは跳び上がり、私の肩に張り付いた。そして、一瞬にして服に擬態する。

 これで、服装はどうにかなった。

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