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没落令嬢フランセットは、スライムとの暮らしに感激する

 鏡を覗き込みながら、信じがたい気持ちになる。

 実家が没落して早くも二年。忙しく過ごすあまり、スキンケアは後回しにしていた。その結果、肌はガサガサ。目の下には隈が出現し、唇は荒れ放題だった。

 それがどうだろう。プルルンに体を洗ってもらった結果、全身がゆで卵のようにつるつるピカピカだ。

 侍女達がスキンケアしてくれたときよりも、肌は輝いていた。


「プルルン、ありがとう!」

『いいよう』


 お礼に水を張り替えようかと思っていたが、もう水はいいという。


『プルルン、ねむるう』

「そう」


 大きなカゴにクッションを詰めた寝床でもいいのか。用意しようとしていたら、プルルンは寝台に跳び乗った。どうやら、一緒に眠るつもりらしい。

 私も布団に潜り込み、毛布を被る。

 春とはいえ、夜は冷え込む。今日こそ、暖炉に火を入れたほうがいいのか。

 いかんせん、我が家は貧乏なので、毎晩暖炉を使う余裕なんてないのだ。 


『フラ、さむういの?』

「え、あ、うん」

『だったら、プルルンが、あたためてあげるう』


 そう言って、プルルンは毛布の中に潜り込む。何をするのかと思いきや、ぴったりと身を寄せたプルルンの体がどんどん温かくなっていった。

 冷たかった布団と毛布は、一気に温かくなる。


『いかがですかあー?』

「温かいわ。ありがとう」

『どういたしましてえ』


 プルルンのおかげで、温かい夜を過ごした。


 ◇◇◇


 翌日――今日は掃除の日だ。早起きして、張り切ってほうきを握る。

 古い家なので、定期的にワックスをかけないと、床が反り返って見るも無惨な状態になるのだ。

 腕まくりをしていたら、プルルンが起きてくる。


「おはよう、プルルン」

『おはよう、フラ!』


 目をショボショボさせていた。まだ眠いのだろう。


『なにを、しているのお?』

「お掃除よ。埃を掃いて、ワックスを塗るの」

『んー、それ、プルルンもできるよお』

「え?」


 プルルンは床に張り付き、薄く伸びていく。

 慌てて、椅子の上に避難した。


「なっ、えっ、嘘!」


 まさかの光景が広がる。プルルンは床全体に膜を張ったような状態になり、一気に元の球体に戻る。ぷっと、口から埃の塊を吐き出した。


『わっくす、ちょうだいー』

「あ、えっと、どうぞ」


 プルルンはワックスを呑み込み、再び床に膜が張ったような状態に薄く広がっていく。

 元に戻ると、床はワックスが塗られていた。一瞬にして、床はピカピカに輝く。


「わ、私が塗るより、かなりきれいかも……!」


 プルルンを抱き上げ、感謝しつつ撫でる。すると、嬉しそうに目を細めていた。

 それから、庭の除草作業、アヒルへの餌やり、調理補助など、プルルンは多才な才能を私に披露してくれた。


「こ、これが、テイムされたスライム!」


 万能スライムプルルン、一家に一体、欲しくなってしまう。

 一瞬、「プルルン、うちの子になりなよ」と言いかける。喉から出る寸前に、ごくんと呑み込んだ。

 プルルンにはご主人様がいて、今も探しているかもしれない。プルルンも、不安だろう。


 アヒルと戯れていたプルルンを抱き上げ、頬ずりする。


「私が、ご主人様を探してあげるからね」

『うん、ありがとう』


 プルルンの活躍もあり、仕事はお昼前に終わった。これから、街にプルルンのご主人様を探しに出かけようか。


 一歩前に踏み出した瞬間、ハッとなる。

 ご主人様の家名を聞けば、一発でプルルンの帰るべき家がわかるだろう。


「そういえば、プルルンのご主人様の名前って覚えている?」

『ガブリエル!』

「ガブリエルってことは、男性ね。家名は?」

『ガブリエル!』

「……」


 どうやら、覚えているのは名前だけらしい。なんていうか、非常に惜しい。


「プルルン、ガブリエルの家、わかる?」

『とおい! ここじゃなあい』

「つまり、王都にガブリエルの家はないと?」

『そう! いつも、ひゅん! って、こっちにきてる』

「ヒュン?」

『そう』


 ヒュン、というのは、ワイバーンか何かを使役し、空を飛んで王都まで来ているということなのか。よくわからないけれど、王都を拠点としている人でないことは確かだ。

 プルルンのご主人様は王都にやってきた商人か。それとも、社交期にあわせてやってきた貴族か。冒険者である可能性もある。

 そういえば、テイムされた魔物は冒険組合ギルドに登録されているという話を聞いたことがあるような、ないような。

 問い合わせに行ってみる価値はあるかもしれない。


 出かけようとしたそのとき、庭からアヒルの鳴き声が響き渡る。


「誰かしら?」


 窓から覗き込むと、手紙の配達人が門の前で右往左往していた。

 いつも夕方あたりにくるのに、今日はずいぶん早い。

 外に出て、手紙を受け取る。


「アヒルがごめんなさいね」

「い、いえ。その、速達です」

「速達?」


 受け取ると、いつもの父からのカードであった。

 速達を使ってまで、何を知らせようというのか。愛人と、旅行に行くとか?

 配達人にお詫びのチップを渡し、手を振って別れる。

 家に戻り、ペーパーナイフを探していたら、プルルンが伸ばした触手をナイフに変化させ、封筒をカットしてくれた。


「ありがとう、プルルン」

『いえいえー』


 カードを取り出すと、不可解な言葉が書かれていた。

 一言「ごめん」と。

 裏には何も書かれていない。なんに対する謝罪なのか。

 首を傾げていたら、再びアヒルがガアガアと騒ぐ。


「また、誰かやってきたの?」


 プルルンを腕に抱え、外に出る。同時に、怒号が響き渡った。


「おい、クソ公爵サマよお、いるんだろう? 出てこいや!!」


 門の前には強面こわもてで迫力がある、びょうがたくさん付いた服を着る無頼漢ぶらいかんが大勢いた。


「ん、なんだ、女ァ?」

「こいつ、たぶん公爵の愛人でっせ」

「マクシムサマの奥方に手を出していながら、こんな小娘も囲っていたと~!?」


 不可解な状況の中で、記憶の点と線が繋がる。

 昨日、養育院で聞いた「ガラの悪い男達が、誰かを探しているようで」というシスターの噂話。

 父の「ごめん」という謝罪。

 無頼漢の「奥方に手を出した」という一言。

 これらの謎から推測するに、おそらく父は豪商の奥方に手を出し、どこかへ逃げたのだろう。娘である私を置き去りにして。


「マクシムサマは、公爵サマに損害賠償を求めている」

「額にして、二十万フランだ!」

「なっ……!」


 ありえない金額を提示され、言葉を失う。

 二十万フランは貴族令嬢の親が用意する、持参金クラスの大金だ。

 財産を没収された父に、用意できるわけがない。

 こうなるのがわかっていて、父は逃げ出したのだろう。

 本当に、自分勝手だ。


 どうすれば……どうすればいいのか。

 迷っていたら、アヒルがガアーーーー!! と叫んで男達に飛びかかろうとする。


「だ、だめ!!」


  慌てて、翼を掴んだ。アヒルが無頼漢に敵うわけがないのに。暴れるアヒルを腕に抱き、押さえつけておく。


 そうこうしているうちに、プルルンが触手を伸ばし、立派な伝説の聖剣を作りだしていた。まさか、戦う気なのか。


「プルルンも、ダメ!」

『どうしてえ?』

「この人達を倒したとしても、なんの解決にもならないから!」


 そう。この場を乗り切ったとしても、父が訴えられることに変わりはない。


「よくよく見れば、いい女じゃないか。娼館に売り飛ばしたら、二十万フランくらいすぐに稼げるだろう」

「なっ――!?」


 無頼漢の男達は門を蹴り倒し、庭へ足を踏み入れる。

 恐怖で、声がでない。

 心の底から恐ろしいと感じたときは、物語のように悲鳴など上げられないようだ。


「大人しく付いて来い!!」


 太く、無骨な腕が伸ばされた瞬間、声が聞こえた。


「待ちなさい!!」

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