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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第四章

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没落令嬢フランセットは、思いがけない場所で目覚める

 ズキン! という、強い頭痛で目を覚ます。これまで感じた覚えのない、強い痛みだ。起き上がろうとしたら再び痛みに襲われ、体に力が入らない。

 瞼すら、開けられないくらいだ。

  周囲に漂う強い麝香ムスクの臭いに、鼻が麻痺しそうだ。スライム大公家に、この香水を使っている者はいなかったはずだが……。

 ふいに、人の気配を感じる。


「おや、目が覚めたのかい?」


 酒焼けしたような、女性の声。聞き覚えはもちろんない。麝香の香水をまとっているのは、彼女だろう。

 スライム大公家のメイドや侍女ではないだろう。瞼を開くと、部屋が暗くて確認できなかった。魔石灯で顔を照らされ、眩しくなって目を閉じる。


「顔色は悪いし、元気はないねえ。薬を盛りすぎたのかもしれない」

「……薬?」

「ああ、そうだ。あんたを大人しくさせるために、グリエットの旦那が部下に盛らせたようだ」

「グリエットの旦那?」

「クレマン・ド・グリエットだよ」


 クレマン・ド・グリエット――ガブリエルの大叔父の名前だ。

 ここで、ぼんやりしていた意識が鮮明になる。

 私は早朝、アクセル殿下を見送るときに、ガブリエルの大叔父に会った。

 そして、庭に潜んでいた男に羽交い締めにされ、無理矢理薬を嗅がされたのだ。


 目のチカチカが治まったので、瞼を開く。

 私を見下ろすのは、四十代くらいの化粧が濃い細身の女性だった。胸元が大きく開いた、派手なドレスをまとっている。


「ここは、どこ?」

「トンペットの花街の娼館、人気店の〝エトワール〟だよ」

「花街!? なぜ、そんなところに!?」


 トンペットと言えば、スプリヌ地方を抜けた先にある、商人達の宿町である。

 治安はあまりよくないと、以前誰かから聞いた記憶があった。

 起き上がろうとしたが、頭がズキンと痛んだ。うめき声をあげ、ごわごわした布団に沈む。


「薬が抜けきるまで、商売は無理だねえ」

「商売!?」


 魔石灯を持つ中年女性は、にんまりと笑いながら言った。


「あんたは、グリエットの旦那に売られたんだよ」

「なっ――!?」

「何をしたのか知らないけれど、腹を括ることだね」


 私が、娼館に売られた!?

 いったいどうして? と疑問に思ったものの、すぐにガブリエルの大叔父の言葉を思い出す。ディアーヌとリリアーヌのどちらかをアクセル殿下に嫁がせ、残ったほうをガブリエルの妻にさせると。

 その計画を実行するためには、私が邪魔だったようだ。


 勝手すぎる行動に、怒りがこみ上げる。

 けれども、怒っている場合ではなかった。


「私、無理矢理連れてこられたの! 騎士隊に連絡していただける?」

「騎士サマを呼べって、面倒ごとはごめんだよ」

「でも私、売りに出されるような者ではなくて――」

「知らないよ。うちはグリエットの旦那からあんたを買ったんだ。損になるような行為を、するわけないだろうが」


 大きな衝撃を受ける。まさか、娼館に売られてしまうなんて……。


「今日は薬が抜けきっていないようだから、客の相手は免除してやるよ。明日から、キリキリ働くんだ」


 食事を取るように言われる。寝台の傍にある円卓に、魔石灯とミルク粥が置かれた。


「ここから逃げようと、考えないことだね。用心棒を雇っている。地の果てまで追いかけるから、心しておくように」


 そんな言葉を残し、中年女性は部屋からいなくなる。

 コツコツコツという足音が消えてなくなると、特大のため息がでてきた。


「いったい、どうすればいいの……」

『フラ!』

「ん?」

『フラ、ここ!』


 手首に巻かれたリボンから、プルルンの声がする。魔石灯を手に取り、照らしてみた。

 すると、リボンが形を変え、プルルンの姿になった。


「プルルン!」

『うん!』


 布団の上でポンポン跳ねるプルルンを、抱きしめた。

 不安で締めつけられるようだった心が、和らいでいく。


「プルルン、どうしてここに?」

『フラが、にわにでたとき、いっしょに、ついていっていたの』


 なんでも私を驚かそうと、庭の木陰に隠れていたらしい。けれども、私が連れ去られそうになる場面を目撃し、慌ててリボンに変化して巻きついていたようだ。


「あ、そうだ! プルルンがここにいるなら、ガブリエルは私達の居場所がわかるわよね?」


 以前、ガブリエルが話していたのだ。プルルンとは契約で結ばれていて、どこにいても居場所がわかると。

 もしかしたら、今日中に助けてくれるかもしれない。

 だが、プルルンは申し訳なさそうな顔で俯く。


「プルルン、どうしたの?」

『ガブリエルとのけいやく、きのう、はき、した』

「え、どうして!?」

『けんか、したの』


 昨晩の出来事を、プルルンは語り始めた。

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