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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

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没落令嬢フランセットは、カエル料理を味わう

 なんでも、アクセル殿下はカエルが大好物らしい。そんな話を聞いたからか、スライム大公家の料理人は気合いを入れて調理したようだ。

 晩には、豪華なカエル料理のフルコースがふるまわれる。

 突き出しアミューズはカエル肉の一口パイ。生クリームソースで煮込まれたカエル肉は、驚くほどやわらかかった。ソースも濃厚で美味である。

 続いて前菜オードブルは、カエルを煮込んだスープを固めたジュレにトリュフを添えたもの。

 上品な味わいの中に、スプリヌ産のトリュフが豊かに香る。


「今のシーズンに、このような薫り高いトリュフが味わえるとは……!」


 アクセル殿下は秋が旬であるトリュフが使われていることを、驚いているようだった。ガブリエルは嬉しそうに、保存魔法の技術と、トリュフが豊富に採れる環境について語っていた。


 ちなみに、ディアーヌとリリアーヌの姉妹は大人しいままだった。義母は安堵の表情で、カエル料理を食べている。


 スープはカエルと野菜を丁寧に煮込んだもので、旨みがぎゅっと濃縮されている。

 メインの魚料理ポワソンは、肉料理アントレがない代わりにふた品用意したようだ。


 一品目は、カエルのソテー。ナイフとフォークでは肉を完全に骨から剥がせないので、手づかみで食べるのがスプリヌ地方風だという。食卓には、柑橘のスライスが浮かんだフィンガーボウルが用意されていた。

 ガブリエルは各々好きに食べるようにと説明したのちに、手づかみでカエルのソテーを食べる。アクセル殿下は驚いているようだったが、ガブリエルに続いて手づかみで食べ始めた。


「手づかみのほうが、肉を残さずに食べられるのだな」

「そうなんです」


 ディアーヌとリリアーヌはアクセル殿下の前で手づかみで食べるのが恥ずかしいのだろう。もじもじしていた。一方で、義母はカエルをしっかり掴み、上品に食べている。

 なるほど、あのようにしたらよいのか。義母の食べ方を真似て、カエルを手づかみで食べた。


「あ、おいしい!」


 ソテーされたカエル肉はパリパリに焼けており、バターと香草が口の中で華やかに香る。

 ナイフとフォークではほんのちょっとしか食べられないカエル肉も、こうしてかぶりついたら存分に味わえるというわけだ。


 ふた品目は、もも肉の天火焼きプレゼ。バジルのソースが添えられている。これがまたおいしい。カエル肉にかぶりつくと、肉汁がじゅわっと溢れるのだ。


 そんなわけで、カエル料理を堪能させてもらった。旬のカエルは、とてつもなくおいしかった。

 満足している様子を見せるアクセル殿下に、義母が言葉をかける。


「アクセル殿下、よろしかったら来年も、カエル釣りにいらしてくださいませ」

「ああ、かならず訪れよう」


 それを聞いた義母は、満面の笑みを浮かべていた。

 一方で、ガブリエルは「またそんなことを言って」と胡乱な目で義母を見つめている。


 食後、話があると言って、ガブリエルと共にアクセル殿下に呼び出された。


「突然訪問し、何日も滞在し、迷惑をかけたな」

「いいえ、とんでもない。非常に楽しい日々でした」

「そう言ってくれると、嬉しいものだ」


 アクセル殿下は部下や秘書に休日を取るようにと強く言われたものの、どうしたものかと悩んだらしい。

 領地でカエル釣りでもしようかと考えたようだが、領民に囲まれた中でする状況が脳裏に浮かび、休むどころではないと思い直したようだ。


「領地へ行くことも重要だとわかっているが、あれは仕事の一環だな」


 どこかゆっくり休めるところはないのか。と考えたところ、私が滞在するスプリヌ地方について思い出したようだ。


「このように穏やかで、楽しい日々は初めてだったように思える」

「アクセル殿下、そのようにおっしゃっていただき、光栄です」

「先ほども話したが、迷惑でなければ再訪をしよう」

「ぜひ。いつでも大歓迎です。お待ちしております」


 明日の朝、王都へ帰るらしい。早朝なので、見送りは不要だと言う。

 話はこれで終わりと思いきや、そうではないようだ。


「本題へと移ろう」


 アクセル殿下は何を話しにきたというのか。ガブリエルと顔を見合わせ、同時に首を傾げる。


「フランセット嬢の父親が見つからず、いまだ婚約状態にないようだが、私が彼女の後見人となって、婚約及び結婚を認めることができる。どうだろうか?」

「それは――」

「ありがたいお話ですが、アクセル殿下の負担になるのでは?」

「ならん。気にするな」

「でしたら、お願いしたく思っています」


 私の言葉に、ガブリエルが待ったをかける。


「お父上の許しがないのに、結婚するというのは――」

「ガブリエル、よく考えて。愛人をはべらした挙げ句、行方不明になるような父よ。それよりも、品行方正なアクセル殿下に認められて、結婚するほうがはるかに幸せだと思うの。ずっと、このまま婚約も何も結んでいない状態で、ここに滞在を続けるのは心が苦しいと感じていたの」

「そう、だったのですね」


 ならばと、ガブリエルも理解を示してくれた。

 共にアクセル殿下へ頭を下げ、婚約及び結婚許可証の発行を願う。


「わかった。一か月ほどかかるが、完成しだい書類を送ろう」

「ありがとうございます」


 私とガブリエルの婚約及び結婚問題は、どうにかなりそうだった。

 アクセル殿下に、心から感謝する。

 

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