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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

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没落令嬢フランセットは、カエル釣りに挑戦する

 完全復活したディアーヌとリリアーヌが、ずんずんと大股でこちらへやってくる。ガブリエルが前に出ようとしたので、手で制した。

 女の敵は同じ女なのだ。そこに他の者が介入したら、面倒な事態になる。

 この諍いは、私と彼女らで解決するしかないのだ。


「私達に助けの手を差し伸べて、さぞかし気分がいいでしょう?」

「お礼を言って差し上げましょうか?」


 予想のど真ん中の反応である。

 どんな目に遭っても、彼女らが神妙な態度で謝るとは思えなかったのだ。


「お礼は結構よ」

「なっ、どうしてですの?」

「わけがわかりませんわ」

「私への感謝の気持ちはいらないから、私以外で困っている人がいたら、助けてあげて」


 親切の輪は、なるべく広げたほうがいい。感謝の気持ちを述べてしまったら、その場で終わってしまうから。

 彼女達が誰かに手を差し伸べたあと、同じように他の人へ親切にするよう伝えてほしかった。私はそう願う。


「あなた、変な人ですわ」

「本当に」

「否定はしないわ」


 だって、実家が凋落したあとも、社交界に復帰したくないという感情だけで、母や姉について行かずに下町暮らしを始めたのだ。

 変わっていないと、できないだろう。


「あなたのこと、好きになれそうにありません」

「私も」

「それでいいわ。人間、一度嫌ったら、どうがんばっても好きになることは不可能だもの。嫌いな人に時間を費やすよりも、好きな人達に時間を使ったほうが賢いわ」


 つまり、私達がこうして関わることは、まったくもって時間の無駄なのである。


「空を飛ぶ鳥が、水の中の魚と仲良くなれるわけがないもの。息がしやすい場所で、お互いのびのび暮らしましょう」


 返す言葉が見つからなかったのか、ディアーヌとリリアーヌは無言で踵を返す。そのまま、立ち去った。

 そのあと、彼女らは大型日傘の下で大人しくしていた。アクセル殿下にしつこくつきまとう行為も止めたようだ。


 と、このような騒ぎを経て、カエル釣りは再開される。


「フランもやってみませんか? 釣り上げたカエルは近づかないよう、スライム達にキャッチさせるので」

「そうね。挑戦してみようかしら」


 ガブリエルが餌を付けてくれる。釣り竿の投げ方を教わり、同じように湖へ釣り糸を放った。

 手首を聞かせ、カエルを誘導する。

 すると、食いついた。釣り竿の先端が、大きくしなる。


「フラン、今です! 竿を引いて」

「え、ええ!」


 力いっぱい釣り竿を引いたが、カエルは強く抵抗しているようだ。

 釣り竿の先端が、折れそうなくらいしなっている。


「フラン、手伝いましょう」

「あ、ありがとう」


 ガブリエルは私を後ろから抱きしめるような体勢で、釣り竿を掴んだ。

 乗馬のときのように体がぴったりと密着しているわけではないのに、なんだか恥ずかしい。

 耳元で、ガブリエルの声が聞こえるからだろうか。

 と、ドキドキしている場合ではなかった。カエル釣りに集中しなくては。

 ふたりがかりで引っ張っても、カエルはなかなか陸へあがってこない。


「ガブリエル、これ、スライムを釣っているわけではないわよね?」

「魔物避けの魔法を湖全体に展開しているので、スライムが釣れるのはありえないでしょう」

「そ、そう」


 足を踏ん張り、釣り竿を力の限り引っ張る。こうなったら、カエルとの体力勝負なのだろう。

 奮闘すること五分、ついに――。


 カエルは水しぶきを上げながら、大きく跳躍した。

 私の頭よりも大きな、巨大カエルだった。


「今です!!」


 ガブリエルの命令と共に、水色のスライムが跳躍する。もう一匹の緑色のスライムは触手を伸ばし、水色のスライムと連結しているようだった。

 水色のスライムはパクリとカエルを飲み込む。そして、緑のスライムが水色のスライムを引き寄せた。

 無事、地上へ着地する。


「やった! やったわ!」

「ええ、なんとか釣れましたね!」


 私達は抱き合い、カエルが釣れたことを喜ぶ。そこに、いつの間にか接近していた義母がぼそりと呟いた。


「まあ、仲がよろしいこと。スライム大公家は、今後も安泰ですわね」


 その言葉を聞いて、我に返る。ガブリエルも同じだった。

 跳びはねて喜んでいた私達は、そっと離れた。


「そろそろ、昼食の時間にしましょう」


 義母の提案に、私とガブリエルはこくりと同時に頷いたのだった。


 ニコとリコ、ココがガブリエルとふたりで使う大型日傘と敷物を用意してくれていた。

 魔石保冷庫で冷やした紅茶も用意されている。

 朝作ったバゲットサンドを、ガブリエルと共にいただく。


 ガブリエルはまず、王道のチーズとトマトのバゲットサンドから食べるようだ。

 お上品に食べるのだろうと思っていたら、がぶりと豪快にかぶりついている。サンドイッチはこの食べ方が大正解なのだ。

 ガブリエルはバゲットサンドを口にし、もぐもぐと食べると、しだいに笑みを浮かべる。


「とってもおいしいです。バジルが利いているのが、いいですね」

「よかった」


 気持ちがいいくらい、ばくばくと食べてくれた。

 どれもおいしいと言ってくれたので、ホッと胸をなで下ろす。

 ガブリエルと楽しく食べる一方で、アクセル殿下がいるほうはほぼ無言だった。気まずい空気が流れている。

 一応、ディアーヌとリリアーヌは反省しているのだなと、気づかされるような光景であった。


 昼食後、結果発表となる。

 釣ったカエルを、湖のほとりにずらりと並べた。義母が一匹一匹数えていく。


「――アクセル殿下が十五匹、ガブリエルが十二、最後にフランセットさんが一匹、と」


 アクセル殿下が優勝だが、大きさでは負けていると主張する。


「フランセット嬢が優勝でいいのでは?」

「そうですね」


 アクセル殿下を差し置いて優勝するなんて……。

 そもそも、いつカエル釣り大会になっていたのか。

 皆の拍手を受けながら、どうしてこうなったのだと思ってしまった。 

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