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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

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没落令嬢フランセットは、確認される

 危うく、ガブリエルの前でなく、義母の前で告白してしまうところだった。

 顔が熱い。額にも汗が浮かんでいるだろう。ハンカチで拭っていると、義母が突然立ち上がる。瞳を、キラキラと輝かせていた。


「フランセットさん……ガブリエルのことが、好き、ですの?」

「え?」

「心から、愛していますのね!!」

「え……まあ、そう、ですね」


 義母は私のほうへと駆け寄り、勢いよく隣に腰かける。そして、私の膝にあった手をがっしりと握った。


「息子を愛してくださり、心から感謝します」

「は、はあ」

「そうではないかと、思っていましたの」

「ど、どういう時に、そう思われたのでしょうか?」

「息子が庭のぬかるみに嵌まって抜け出せず、そのまま転倒したとき、血相を変えて駆け寄った瞬間でしょうか」

「ありましたね……そういうことが」


 スライム大公家の庭には、底なし沼のようなぬかるみが数点ある。これまで見て見ぬふりをしていたようだが、ガブリエルは私のために埋め立てることを決意したようだ。

 ただ、作業中、不幸な事故が起きた。草むらで覆われていたぬかるみに、ガブリエルが足を取られて転んでしまったのである。


「その様子を見たわたくしは、あまりの鈍くささに大笑いしてしまったのですが、フランセットさんは心から心配していて。愛だと確信したわけです」

「まさかのタイミングでしたね」

「ええ」


 義母はスッと遠い目をしながら語り始める。


「貴族同士の結婚は、政略的な意味合いが強いです。そこに愛はありません」


 けれども共に暮らすうちに、相手に対して期待だけが高まっていくのだという。


「期待を寄せても、応えてくれなかった場合ガッカリするものです。見返りもなく頼りにするというのは、勝手な話なのかもしれませんが」


 ある日、義母は気づいたのだという。期待をしてそれに応えてもらえるというのは、相手への信頼と愛がないと不可能であると。


「フランセットさんとガブリエルならば、互いに期待し、それに応えられるような関係が築けると思うのです」

「ええ……。そうあればいいなと、思っています」


 義母は瞳を潤ませ、零れる瞬間に私を抱きしめる。

 耳元で「息子を選んでくれて、ありがとう」と言ってくれた。

 その言葉がなんだか嬉しくて、私も涙がこみ上げてくる。震える声で「こちらこそ、ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えたのだった。


 ◇◇◇


 ガブリエルとアクセル殿下は、すっかり打ち解けたようだった。

 食事の席だというのに、仕事の話で盛り上がっている。

 途中、義母の胡乱な表情に気づいたアクセル殿下が、話題を別のものに変えた。


「明日、カエル釣りに行こうと思っている。一緒に行かないか?」


 爽やかに誘ってくれたが、応じる貴婦人がいるものなのか。

 アクセル殿下に恋したという義母でさえ、眉間に皺を寄せている。

 調理済みのカエルはおいしいが、生きているカエルはヌメヌメしていて気持ち悪い。

 スプリヌ地方でも、カエルは貴重な食料だという。夏が旬で、脂が乗っているのだとか。


「わたくしは――せっかくですが、今のシーズンは晴れ間が覗くことがあり、日焼けが恐ろしいので、辞退させていただきますわ」


 義母は角が立たない言い訳を口にし、カエル釣りの誘いを見事に断っていた。


「フランはどうしますか?」


 ガブリエルは瞳を少年のようにキラキラ輝かせながら、私を誘ってくれる。断れるような雰囲気ではない。

 肩に乗っていたプルルンが、助け船を出してくれる。


『フラも、ひやけ、やだ?』

「私は……平気よ」

『ほんとうに?』

「本当。プルルン、心配してくれて、ありがとう」


 きっと、この空気の中で私が断れないのではと気づき、言ってくれたのだろう。プルルンはなんていいこなのか。よしよしと撫でると、嬉しそうにぷるぷると軽く跳びはねていた。


「私も同行するわ」

「大丈夫ですか? その、カエルなのですが。無理して同行する必要はないですよ」

「大丈夫。王都では、たまに食べていたわ。好物だったの」

「だったらよかったです」


 ガブリエルが満面の笑みを浮かべているのを見て、断らなくてよかったと思う。

 というか、あの子どもっぽい笑顔は反則だろう。いつもはすんとすましているのに、無邪気に微笑むなんて。

 頬が熱くなっている気がして、指先で冷やす。途中から、プルルンが触手を伸ばし、頬にそっと触れた。ひんやりしていて、気持ちよかった。


 和やかな空気のまま、デザートにさしかかる。

 コンスタンスが運んできたのは、私が昼間に焼いたニオイスミレの砂糖漬けを飾ったケーキだった。


 ケーキを切り分け、アクセル殿下の前に置いたあと、コンスタンスの動きがピクリと止まる。「失礼」と言って、急ぎ足で廊下へ向かった。

 何か忘れたのだろうか。首を傾げていたら、廊下より声が聞こえる。


「こちらに、ドラゴン大公アクセル殿下のドラゴンが着地したという話を聞きましたの」

「そこにいるのではなくって?」


 それは、聞き覚えのある声。

 ガブリエルや義母も、ピンときているようだった。


「使用人のくせに、私達を止める権利なんてなくってよ!!」

「おどきなさい!!」


 珍しくコンスタンスの「困ります!」という大きな声が聞こえた。

 それと同時に、扉が開かれる。

 突如として現れたのは、ガブリエルの再従姉妹、ディアーヌとリリアーヌだった。

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