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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

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37/65

没落令嬢フランセットは、ドラゴン大公と面会する

 アレクサンドリーヌは庭師に預け、ニコとともに客間を目指して急ぐ。

 なんでもアクセル殿下は客間に通しているらしい。

 直接訪問するなんて、何事なのか。もしかして、父が見つかったとか?

 特に、私に会いにきた以外の話はなかったようだ。


「現在、大奥様が応対しております」

「ガブリエルは?」

「大奥様に突き飛ばされ、眼鏡が割れてしまったそうで」

「いったいふたりの間に何があったの?」

「さ、さあ?」


 息を切らしながら、客間に辿り着く。息を整えてから入ったほうがいいだろう。

 胸に手を当てて、息を吸って吐いて――。


「あ、フランセット様、服に葉っぱがついています」

「え、どこ?」

『プルルンが、とってあげるう』


 背中と肩と、腰の三カ所に葉がくっついていた。いつのまに付いたのか。

 プルルンはぽんぽんと床を跳ねて、大きく跳び上がる。そして、ニコの手のひらに着地していた。


「ありがとう、プルルン」

『いいえー』


 プルルンは取った葉を、扇のように持っていた。ここでハッと気づく。

 家族以外の男性と会うときは、扇が必要になるのだ。話すとき、微笑むときは口元を隠さなければならないから。


『フラー、どうかしたの?』

「はっ!」


 そういえばと思い出す。以前、プルルンがリボンに擬態していたことを。

 プルルンに扇に変化してもらえばいいのだ。さっそく頼み込む。


「プルルン、お願いがあるの。少しの間、扇に変化できる?」

『できるよお』


 プルルンはニコの手のひらの上でうねうね動き、形を変えていく。ものの数秒で扇に変化した。

 ただ――極彩色の派手な扇だったわけである。孔雀の羽根を使った扇で、ギラギラと輝いていた。

 お願いした手前、別のものに変えてくれとは言えない。


「プルルン、ありがとう」


 覚悟を決めて、極彩色の扇を握る。

 色合いだけでなく、羽根のふわふわ感も再現されていた。


 息も整ったので、中へと入る。扉を叩くと、中にいたコンスタンスが開けてくれた。

 まず、満面の笑みを浮かべる義母と目が合った。

 あれは、作った微笑みではなく、心から浮かべる笑顔だろう。

 アクセル殿下の訪問が嬉しくてたまらない、といった感じか。


「ああ、アクセル殿下、フランセットさんがいらしたようです」


 たかが私がやってきただけなのに、アクセル殿下は立ち上がって振り返る。


「フランセット嬢、突然押しかけて申し訳なかった」

「いえ」


 ひとまず、落ち着こう。アクセル殿下が腰かけたあと、私も義母の隣に座る。


 なんでも、ワイバーンの討伐任務があったようだ。その帰りに、ここに立ち寄ったと。

 父関連の訪問ではなかったようだ。

 よかった……と言っていいのか。


「フランセットさん、アクセル殿下、ワイバーンをおひとりで十頭も倒したのですって」

「十頭も、おひとりで!?」


 髪の乱れもなく、涼しい顔で座っている。とても、ワイバーンの討伐帰りには見えなかった。


「あの、お怪我とかは?」

「ないな」


 無傷で、ワイバーンを十頭も倒したと。信じがたい気持ちになる。

 ワイバーンは魔物の中でも凶暴で、体も大きく倒しにくい。毎年、ワイバーンに襲われて命を落とす人も報告される。

 魔物との戦闘に慣れている傭兵や冒険者、騎士でさえ、苦戦するような強力な魔物である。

 そんなワイバーンが、十頭も出現したという報告がアクセル殿下のもとまで届いたという。

 ワイバーンが出現したのは、国の北方にある山の麓。近くに街があり、騎士隊も駐屯していた。傭兵をも雇い、倒そうとしていたようだが歯が立たなかったと。

 このままでは市民に被害が出てしまうということで、アクセル殿下が直々に足を運んだというわけだったらしい。


 スプリヌ地方からワイバーンが出現した土地は、馬車で一か月ほど移動した先である。

 いったいどうやって行き来していたのか。疑問に思ったところに、義母が移動について解説してくれた。


「移動はドラゴンに乗って、颯爽と空を駆けたのですって」

「ドラゴンに? さすが、ドラゴン大公です」

「ワイバーンが出現した北方の現場からここまで、五時間ほどで来られたとか」


 テイムしたワイバーンよりも、ドラゴンはさらに速く空を飛ぶことができるようだ。


「ドラゴンに跨がるアクセル殿下、とってもすてきなんでしょうねえ」


 歴代のドラゴン大公の全員が、ドラゴンをテイムしているわけではないらしい。

 アクセル殿下は幼少時、狩猟に出かけたさいに子どものドラゴンを発見。そのままテイムしたという。


 私がやってくるまで、義母はアクセル殿下から根掘り葉掘り話を聞いていたのだろう。

 アクセル殿下よりも、義母のほうが口数が多いくらいだ。


 会話が途切れたタイミングで、気になっていた疑問をぶつけてみる。


「あの、ここへは何か用事があったのでしょうか?」

「部下からしばし休むように言われたので、ここにやってきただけだ」


 なぜ……? と思ったものの、そういえば王都での別れ際に遊びにくるとか言っていたような気がした。

 まさか、有言実行するとは。


「フランセットさんに会いにきたのですよね!」

「まあ、そうだな」


 アクセル殿下を交えて、いったい何をすればいいものか。

 プルルンの扇を広げ、苦笑する口元を隠す。

 どうしたものかとため息をついたのと同時に、客間の扉が開かれた。

 ガブリエルがやってきてくれたようだ。

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