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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第三章

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没落令嬢フランセットは、魔物大公についての話を聞く

 年に一度、各地を領する魔物大公が王都に集まり、会議をするのだという。

 そのため、ガブリエルは三日ほど家を空けるらしい。


「毎年毎年、憂鬱になるんです。魔物大公の面々は、無駄に偉そうで」

「大変なのね」


 毎年、騎士隊を交えて、国にはびこる魔物について話し合うのだとか。

 強力な魔物が目撃されたら、討伐に行くらしい。


「魔物大公って、どんな方がいらっしゃるの?」

「濃い面々ですよ」


 私が会ったことがあるのは、ドラゴン大公であるアクセル殿下のみ。

 他の魔物大公は、滅多に社交場に現れないという。


「セイレーン大公は女性です。年齢は、三十歳くらいだったか。魔法研究局の局長で、才能溢れる人物らしいですよ。とてつもなく気が強くて、〝魔法研究局の金獅子〟なんて異名があるそうですが」

「金獅子……」


 会ってみたいような、恐ろしいような。

 ガブリエルのスライムに関する研究に興味を示しているようだが、情報提供は断固拒否しているようだ。


「研究目的で、スプリヌの地を荒らされたら困りますので」

「それもそうね」


 ガブリエルの研究は人の暮らしに役立つものばかり。しかし、その技術が広まったら、スライムを得るためにスプリヌの環境が破壊されるのは困る。

 彼の意見には完全同意だ。


「ハルピュイア大公は、異端審問機関の長で、睨まれた者は地の果てまで追いかけられるという噂です」


 話すだけで相手を震え上がらせるほどの、貫禄ある人らしい。


「毎回、スライムを神とする宗教を信じているのではないかと、疑われています」

「酷い話ね」

「本当に」


 トレント大公は、御年七十七歳のお爺さまだという。


「聖祭教会の枢機卿なのですが、笑顔で近づいてきて、寄付をせがんでくるのですよ」

「油断ならないわね」

「そうなんです」


 フェンリル大公は魔物大公の中でも最年少、十二歳の少年だという。


「とんでもない美少年なんですよね。なんていうか、自分の顔の良さを知っているのでしょう。実に生意気な少年です」

「どれほどの美少年なのか、気になるわ」

「会わないほうがいいです。毒されます」

「どんな子なのよ」


 最後に、オーガ大公はこれまで一度も出席していないらしい。どこの誰が継承しているというのも、伏せられているようだ。


「噂では、オーガの呪いを受けて、人前に出られない、と耳にしています。しかしながら、真実は明らかになっておりません」

「そうなの」


 同じ魔物大公であるガブリエルでさえ知らないというのが、余計に興味を抱いてしまう。

 話を聞いてみると、魔物大公の面々はたしかに濃い。


「ガブリエルは、誰かと仲がいいの?」

「仲がいい人がいるわけないでしょう。会議が始まる前なんか、議題が届かない限り無言ですよ」 

「ふうん」


 唯一、アクセル殿下とは夜会で言葉を交わしたことがあるらしい。


「アクセル殿下は偉ぶった様子は欠片もなく、同じ魔物大公として敬意を示してくれるようなできた人です」

「ええ」


 マエル殿下の婚約者である姉だけでなく、私にまで優しく声をかけてくれるような御方だった。


「実は、実家が凋落したさい、アクセル殿下の宮殿にくるように言われたの」

「な、なんですって!?」


 突然叫ぶので、驚いてしまった。ガブリエルはガタガタと震えながら、問いかける。


「そ、そそそそれは、その、アクセル殿下が、あなたを娶ろうとしたゆえのお誘いだったのですか?」

「まさか! 行く当てがないだろうから、宮殿で働くように誘ってくださったのよ」

「直接、アクセル殿下がおっしゃったのですか?」

「いいえ。ガブリエルと婚約する前に、後見人になると提案してくださったのだけれど」

「後見人、ですか」

「ええ」


 私を気の毒に思い、援助しようと手を差し伸べてくれたのだ。


「なぜ、フランはアクセル殿下の援助を受け入れなかったのですか?」

「申し訳ないと思ったの。あとは、姉が婚約破棄と国外追放される様子を見て、王族との関わりを恐ろしく感じたから……なのかもしれないわ」

「そう、だったのですね」


 父が失踪したあとは、ひとり暮らしも限界を迎えていただろう。

 偶然にも、ガブリエルが私に助けの手を差し伸べてくれた。感謝してもしきれない。


「ガブリエル、私を助けてくれて、ありがとう」

「どうしたのですか、突然」

「二年前のことを思い出して、私なんかを助けてくれる人がいるんだって思ったら、なんだか嬉しくなって」


 ガブリエルは私の手を、そっと握る。これまで頑張ったと、暗に言ってくれているようで胸がいっぱいになった。


「あなたが王都で食べるお菓子を、作ってもいい?」

「もちろん。嬉しいです」

「よかった」


 食べやすいクッキーがいいかもしれない。明日出発するというので、さっそく取りかからなければ。


「あ、そうだわ。アクセル殿下にも、お菓子を渡していただける?」

「アクセル殿下にも、ですか?」

「ええ。ここへ来る前に、私を心配してわざわざ家を訪問してくださったの」

「アクセル殿下が、家に?」


 感謝の気持ちと、ここで元気でやっているという近況を伝えたい。頼めるかと聞いたら、ガブリエルは急に表情を歪ませる。


「あ――ごめんなさい。あなたに頼むことでは、なかったわね」

「いいえ、大丈夫ですよ。運びますので、用意しておいてください」

「いえ、王宮に送ればいいだけの話ですから」

「個人的に送ったら、検閲で引っかかります。一か月以上かかるという話も耳にした覚えがありますので、菓子がダメになる可能性もありますよ」

「だったら、お願いしようかしら」

「わかりました」


 妙にとげとげしい返事だった。


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