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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第二章

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没落令嬢フランセットは、馬に乗る

 プルルンもお出かけに同行するらしい。ベルベットのリボンに擬態ぎたいし、ドレスの装飾と化す。


「プルルン、そんなこともできるのね」

『うん、できるよお』


 ペンダントに擬態してもらったら、夜会のとき楽かもしれない。装飾品は地味に重たいのだ。


 アレクサンドリーヌと今朝方産んだ卵をニコに託す。

 ニコは卵は温めたらアヒルがかえるかも! と喜んでいたが、残念ながら無精卵だ。期待させてはいけないので、しっかり教えておく。


「あの、よろしければ、なのですが、アレクサンドリーヌ様をお見合いさせてもよろしいでしょうか? 村に、アヒルを飼っている家がいくつかあるので!」

「雛の面倒をあなたがしっかり見るのならば、問題ないわ」

「ありがとうございます!」


 アヒルを増やしてどうするつもりなのか。

 まあ、幸いにも飼育スペースはたくさんある。ニコが責任を持って育てるというので、許可した。


 そろそろ出発の時間である。

 見送りには、三つ子の末っ子らしいココがやってきた。


「フランセット様……こちらを」

「ありがとう」


 ニコやリコに比べて、のんびりとした喋りのココから傘を受け取る。外に出る際、スライムを倒す武器として傘を持ち歩かなければならないのだ。

 ココは腰に鞭を吊り下げていた。あれで、スライムを倒すのだろう。

 彼女は夜更かしが趣味だと言うだけあって、朝から眠そうだ。目も開ききっていない。

 こうして見ると、三つ子はパッと見てそっくりだ。けれども個性豊かなので、見間違えることはないだろう。


 ガブリエルはエントランスで待っていた。今日はモスグレイのフロックコートをまとっている。私を見るなり、眼鏡のブリッジを押し上げた。


「フラン、おはようございます」

「おはよう」


 階段を下りようとしたら、ガブリエルが颯爽さっそうと駆け上がってくる。ごくごく自然に、手を差し伸べられた。そっと指先を重ねると、優しく握り返される。

 ガブリエルの導きと共に、階段を下りた。

 非常にスマートなエスコートである。こういうことを異性からされた覚えがなかったので、盛大に照れてしまった。

 階段を下りるだけで、少々過保護なのではないか。そう思ったものの、悪い気持ちはしない。

 昨日、跳ね橋を渡ったときのように、胸がドキドキと高鳴っていた。

 この気持ちはいったい、と考える暇もなく、ガブリエルに話しかけられる。


「そのドレスは、たしか――」

「ええ、リコから聞いたわ。村の職人に頼んで、作ってもらったと」

「すみません。もっと華やかなドレスを作っていただこうと思っていたのですが」

「いいえ、すてきよ。ニオイスミレ、好きなの。ありがとう」


 ニオイスミレが丁寧に刺繍されたスカートを軽く摘まみつつ、感謝の気持ちを伝えた。


「お気に召していただけたのならば、何よりです」


 早速出発する。外に出て、庭を通り過ぎる。庭師が作業の手を止めて、会釈していた。

 朝も早くから、汗水垂らして働いているようだ。


 門を抜け、跳ね橋を渡る。ガブリエルは優しく手を引いてくれた。

 ここでも、ドキドキしてしまう。今日は動悸が激しい。


 村までは馬に乗って行くようだ。森は馬車が通れるほど広くはないため、騎乗して向かうという。


 馬丁が馬を用意し、待機していた。黒くて大きな馬が、私達を見下ろす。


「お、大きい馬ね」

「この辺りでは、これくらいが普通です」

「そうなの」

「フラン、馬に乗った経験は?」

「小さなときに、お父様と」

「そうでしたか。では、そのときの記憶を思い出して、乗ってみてください」

「できるかしら?」

「大丈夫です。難しくはありませんから」


 馬に乗ることなんて、まったく想定していなかった。姉が馬術を習得するときに、一緒に習いにいっていたらよかったと、今更ながら後悔する。


 傘や杖は鞍に吊り下げるようだ。ベルトがあって、そこにしっかり固定される。


 ガブリエルは軽々と馬に乗り、私に手を差し伸べた。


あぶみに足をかけて、一気に上ってください」

「ええ、わかったわ」


 ガブリエルの手を握り、鐙に足をかける。意を決して、踏み込んだ足に力を込めた。

 すると、ぐいっと強く手を引かれ、馬の背に上げられる。

 腰を下ろし、ストンと横乗りに座った。


「けっこう、高いのね」

「すぐに慣れますよ。鞍の握りを持っていてください」


 鞍にドアノブのような突起があった。これを掴むだけでは不安だと思っているところに、腰にガブリエルの腕が回される。

 馬上の高さにおののいていたものの、今、彼とかなり密着しているのではないか。

 そう意識したら、恥ずかしくなった。


 これまでにないくらい、ぴったりくっついている。

 清潔感のある、ハーバル系のさわやかな香りをほんのり感じた。


 他人の匂いをかいで、ハッとなる。そういえば、香水の類いは付けていない。

 強い匂いが苦手で、お風呂に入ったあと軽く香油を髪に揉み込む程度だった。

 自分の匂いがどんななのか、自覚しにくい。

 変な匂いがしていませんようにと、祈るほかなかった。


 馬はゆっくりと歩き始める。


「大丈夫そうですか?」

「ええ、まあ」


 言葉とは裏腹に、ぜんぜん、まったく大丈夫ではなかった。

 馬の相乗りがこんなに密着するなんて、知らなかったのだ。

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