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宣誓されました


「市井に? それは良いけど…なんでまた?」



「まあ、表向きは市場調査。本命は市井を満喫することで、アルに差別意識がないことをアピールする為かな」



 なるほど。確かに口先だけで「差別意識ないですよー」と言うよりも、実際に市井に出て見せた方が早い。レオの言うことは一理あるわね。



「それにね、あるらしいんだ…」



「あるって…なにが…?」



 妙に真剣な眼差しに、ドキリとする。



「焼き鳥」



「………え?」



「市井では焼き鳥が売ってるらしいんだ。いや…鳥肉以外にもあるらしいけど、とにかくお肉を串刺しにして焼いたものが売ってるって騎士団の人たちが言ってたんだよ。記憶戻ってからそれ思い出したら、妙に食べたくなって」



 瞳を輝かせながら熱弁するのは、焼き鳥。……え、アルフォンソの時以上に熱量持って語るのが、焼き鳥……?



「レオ……ただ食べたいから行くんじゃ…」



「ち、違うよ!」



 あやしい…。ジトっと見つめると、居心地悪そうにコホンとひとつ咳払いをしてレオは苦笑する。



「まあ、確かに食べたい気持ちも嘘じゃないけど……アルの事も真剣に考えてるよ。それに、二人きりじゃないとはいえサラとデート出来るんだもの。少しくらいはしゃいじゃうよ」



 まあ、王太子とその婚約者が二人きりでデートなんて絶対に出来ないだろうけど…。


 ていうか、食べたい気持ちも嘘じゃないのね。



「はぁ…良いわ。それに、確かに市井へ行くのは良い案だと思う。論より証拠って言うしね。レオの言うとおり、説得力はあると思う」


「でしょう? ということで、次の土曜日はどうかな。それまでに僕からツヴァイの方にもアクションを起こしてみるから、その報告も兼ねて」



「そうね。いきなり私がしゃしゃり出るよりも、レオにお願いした方が良いだろうし……」



 年齢的にも王族とは交流がなく会ったこともないので、さすがに初対面の兄の婚約者にズカズカと家庭の事情に踏み込まれるのは嫌だろう。ここは兄であるレオに頼むのが無難だ。


 納得すると、レオはにっこりと笑って頷いてくれた。



「さて、じゃあ作戦会議はここまでにして残りの時間はデートしようか」



「え?」



「え?って……もしかして作戦会議だけの為に僕に会いに来たの…?」



 思いがけない発案に思わず聞き返すと、呆れたような残念なような悔しいような……いろいろな感情が綯い交ぜになった複雑な表情を浮かべたレオが肩を落とした。前世で役者やってた私でもその複雑な表情は瞬時には作れないわ…。と、変なところで感心してしまう。



「えぇ…。というか、レオは王太子だから忙しいだろうし、あまり時間を取ってしまうのも申し訳ないと思って、用件が済んだら早々にお暇しようと思ってたわ」



 そう告げると、レオはそのままテーブルに突っ伏す。マナーが宜しくないけれど、注意するべきだろうか…。


「あのね、サラ…」



 逡巡していると、ポツリとレオから呟きが洩れる。



「僕は本当に頑張ったんだ……。サラから手紙が来て、良いアイディアが浮かんだからお話したいって書いてあったからきっと今後のことだろうなとは思ったけど……それでもデートには変わりないから今日の分の授業を会うまでの2日間に無理やり組み込んだり、授業内容を進めてもらったりして、今日を丸々サラのために使えるようにしたんだよ…。なんでだと思う…?」



「えっと…私が推しだから…?」



 淡々と突っ伏しながら訴えかけてくるレオはジトっとこちらを見てくる。なんだか圧を感じて、少しだけ身体が引けた。



「推し…うん、推しだよ? でも僕がサラのことを好きなのを推しだからってだけだと思ってたりする?」



「え、違うの?」



「はぁー………」



 思わず聞き返すと、とてつもなく深いため息で返された。え、でも推しだから私のこと好きなのよね…?



「あのね、サラ」



 困って「どういうことかしら」と考えていると、身体を起こしたレオが立ち上がって私の前へと歩いてきた。


 顔立ちは幼いものの、その真剣な表情はしっかりと男の子で胸がドキドキしてしまう。


 ついついその顔に見入っていると、そっと手を取られた。



「確かにサラは()の推しではあるけど、()はそんな事だけで君を婚約者にしたりしない。あの日、同じ転生者だと分かった時に僕は懸念したんだ。もし君がレオナルド推しで、ヒロインを蹴落としてでも僕との結婚を望んだらどうしようか。とか、ミーハーな子だったらどうしようか、とか。


 でもサラは違かった。元々サラのことは年齢の割にしっかりとしたご令嬢だと聞いていたけれど、会って分かったよ。君はちゃんと現状を見て動ける人だ。あの状況で混乱してもおかしくないのにちゃんと貴族だった。


 僕は、王太子だ。望まない婚約も仕方がないと思っていたし、恋愛結婚なんて諦めていた。無縁だと分かっていたしね。でも、そこでサラと出会えた」



 レオナルドの紅い瞳が私を映す。買い被り過ぎだと口に出したいけれど、その瞳に囚われてしまったかのように言葉が出てこない。



「まだ僕は今のサラのことを知らない。知らないことの方がずっと多い。


 けれどあの時、僕は王になった時にこの子が隣りに居てくれたら心強いと思ったんだ。そして今日、新たな一面を知ってさらに惹かれてる。


 だいぶ醜態を晒してるから信用ならないかもしれないけど……これだけは忘れないで。僕が惹かれているのは、()の好きなゲームのサラじゃない。今のサラ・アーガイルだ」



 そう言って手の甲へと唇が落とされる。だが、私はレオの瞳から目が離せなかった。どんどんと赤くなっていく自分の顔が、そこにはくっきりと映り込んでいた。



「もちろん、今のサラに恋愛感情は求めないよ。でもいつか……。そうだね、学園を卒業する頃までには振り向いてもらえるよう、努力するよ」



 覚悟しておいてね。



 そう言って彼は、挑戦的に微笑んだ。



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