正直、日本人感覚です
「……大丈夫?」
しばらくして声をかけると、レオは抑えていたハンカチで鼻血を拭い取って笑顔を浮かべた。
「ごめんね。つい可愛くて……もう治まったから大丈夫」
可愛い…。いや、自分で可愛いとか言うのもなんだけれど、確かにサラは悪役令嬢としては可愛らしい部類だ。しかもそれが、まだ幼さの残る幼女とくれば、サラ・アーガイル好きとしては萌えるだろう。
ただ…せっかくイケメンなのに推しの可愛さで鼻血出すって残念過ぎる…。
絶対に二人きりの時以外はレオのこの姿を周囲に見せてはいけない。それから、次からはちり紙を持ち歩こう。
「さて、本題に戻ろっか。アルフォンソの件だよね」
心の中でそっと決意をしていると、先程までの痴態を物ともせずにアルフォンソの話へと戻される。切り替えが早い…。
「どうしても嫌なのよね?」
「うん、どーしても嫌」
改めて訊くと、笑顔で断られた。笑顔なのに圧がすごい。本気で嫌らしい。
「それに、アルフォンソは放っておいて良いと思うよ」
「…なぜ?」
ただヒロインと恋愛ルートを進めたくないってだけではないようで、真剣なレオに聞き返す。
「別にヒロインとくっついたとしても僕とサラが婚約破棄しなければ良いだけだし、それにアルは忠義に厚いんだ。入学までにサラの事を次期王妃として認めればなんの問題もないよ」
「簡単に言うけど、アルフォンソ様が認めてくれない可能性もあるんじゃない?」
そう。認めてなかったからこそアルフォンソはレオに婚約破棄を進言したのだ。確かにレオが私との婚約破棄をしなければいい話だが、少し心許なく感じる。
「今のサラなら大丈夫だよ。だって“出自で差別”なんてしないでしょ?」
その言葉にハッとなる。確かにアルフォンソルートでは、サラが平民の出であるヒロインを快く思っていない表現が多々あった。
それは「平民の出とはいえ挨拶もまともに出来ませんの?」とか「気安く話しかけないでもらえます? 最低限のマナーさえなってない方とは話したくありませんの」などの嫌味だが
まあ、貴族の感覚で言えば、貴族の通う学校で大きな声で挨拶したり、攻略キャラを見かけて笑顔で駆け寄ったり、家格が上のサラに対して「サラさん」と呼んだりすれば貴族からは疎ましがられるのは当たり前だと思うが……。
けれど前世の記憶が戻ってから私は、平民だからとか、貴族だからとかの差別はなくなった。というのも、日本ではいわゆる平民だったわけだし、権利に対する責任はあれど貴族も平民も同じ人間じゃない。と思っているからだ。
「確かに、日本人の感覚からすると平民差別がどれだけバカバカしいかってのはあるわね。そっか、アルフォンソ様は平民差別をする人間は王妃に相応しくないって判断したのね」
「うん。おそらくゲームではそういう理由だったんだと思う。アルは正義感も強いから、きっと許せなかった。でも、今のサラは違う。そこでだ」
一旦区切ると、レオはイタズラを思いついた子供のように笑った。
「三人で市井に遊びに行こう」