作戦会議をしましょう
それから二日後、サラは再び王宮へと訪れていた。
「殿下は間もなくおいでになります。こちらで少々お待ちくださいませ」
そう言ってメイドに通されたのは、全面がガラス張りになり、色とりどりの花が鮮やかに。けれど煩くなく飾られたサロンだった。
奥の庭園が望める位置にはティーセットが用意され、殿下がこの場所を指定したのだとすぐにわかった。
ーーーまるでデートするみたいな場所ね。
そう思いつつ椅子に手をかけた瞬間、トントントン、と扉が叩かれる。
「ごめん、待たせたね」
ガチャッとサロンの扉が開き、入ってきたのは殿下だ。
「殿下、本日はお時間をいただきありがとうございます」
すかさずカーテシーで礼を告げると、殿下は少し困ったような笑顔を浮かべた。
「かしこまらないで、楽にしてよ。僕とサラの仲じゃないか。さあ、お茶を楽しもう」
そう言うと、後ろに控えていたメイドがティーセットを用意し始める。
最近、王都で人気のあるシリーズだ。しかも一番高いやつ…。
「ありがとう。あとは自分でやるから大丈夫。…アル、キミは扉の前で誰も入らないように見張ってて」
紅茶を入れ終わったメイドに告げ、入り口で待機していた同い年の少年に殿下が声をかける。
見ると、藍色の髪に、どこまでも澄んだ水色の瞳をした少年がそこに立っていた。
「御意」
短く告げた彼は、ゲームの面影がある。アルフォンソ・ホワードだ。思わぬ攻略キャラの登場に、ドキリと胸が鳴った。
そして、婚約者同士とはいえ未婚の男女が密室に二人きりになっていいのか…とも思ったが、まあサロンはガラス張りなので大丈夫だろう。廊下からは見えずとも、庭からは丸見えなわけだし。
「それで、良いアイディアを思いついたって書いてあったけど…」
メイドとアルフォンソが下がり、扉が閉まってすぐ。期待とわくわく感で瞳をキラキラと輝かせた殿下が、早く聞かせてほしいと逸る気持ちを抑えきれずに切り出した。
「…ええ。私、昨日帰ってから今後どうしたら良いのか考えまして…一つの結論に辿り着きましたの」
「……なに?」
ごくり、と生唾の音が聞こえそうなほど神妙な殿下に、私はぐっと(まだない)胸を張ってみせた。
「私がヒロインになればいいんですの!」
堂々と宣言すると、殿下の口が「え?」と形作った。
あ、これ多分伝わってない感じですわね。うーん…
「つまりですね、私がヒロインになって、フラグを先に回収すれば良いのだと気付きましたの!」
またもやドヤァと胸を張ると、殿下は困ったように眉を下げた。
「サラ、ヒロインになるっていうのは…その、サラが他のキャラクターを攻略するってことかな?」
言葉を探しつつ眉間にシワを寄せて聞いてくる殿下に、私は首を振って「そうではありませんわ」と告げた。
「私が断罪されるルートに関わる攻略者は三人。レオ様、ツヴァイ様、アルフォンソ様。レオ様は転生者というのもありますし一度候補から外させていただいて……残るは二人」
ぴっと指を二本立てる私に、殿下は「それで?」と続きを促す。
「まず、ツヴァイ殿下は自己肯定感が低く、ヒロインによって自信を取り戻します。そのフラグを先に回収させていただくのです」
「フラグ……なるほど、学園に入学する前。つまり今の段階であればゲームのツヴァイにはならない。という訳か」
察しの良い殿下に、私は頷く。ゲームの反抗期真っ只中のツヴァイはレオナルドと比較され続けてああなってしまった。
つまり、学園が始まる前…入学する15歳までは約5年ある。その5年の間になんとかツヴァイ殿下の性格改善が出来れば、そもそもヒロインに惹かれる事もないのではないか。というのが私の考えだ。
「幸いにして、まだツヴァイは素直で良い子だ。多少、引け目を感じているのか距離があるけれど…今なら何とかなると思う」