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ストップウォッチ⏱  作者: やごうまさはる
47/101

第47話

「・・・もしかしたら今日はとても長い一日になるかもしれない。」

和人はため息をつき、駅の入り口まで戻った。

「少し休憩してから、英の家の方へ行くとしよう。」

ちょうど3人掛けのベンチが、一人分空いている。


和人はそこに腰を下ろし、隣に座っている30代後半くらいの女性の方を見た。

女性の横の席には同年代の男性が座っており、女性の膝もとには小さい女の子が立っている。

どう見ても親子だった。


母親は娘の顔を見てほほ笑み、娘はまん丸い目で母を見上げている。


(僕にもこういう時期があった。お母さんはこの母親のようにいつも笑っていた。お母さんの笑顔が大好きだった。でもその優しかったお母さんはもういない。)

「お母さんにいっぱい甘えるんだよ。」

女の子に語りかけながら席を立ちあがった和人の目に、あるものがとびこんだ。

座っているときには女の子の手の甲でちょうど死角になって見えなかったが、女の子の手にしっかり握られている白くて四角い紙。

「まさか!」

和人は椅子の裏に回り、その紙がよく見える位置に立った。

まぎれもなく受験票だ。

「あった!ついに見つけた!」

和人の声が駅の中にこだました。


和人は女の子の指を拡げ、受験票を抜きとった。

やはり英の受験票だ。

「握っていた紙が消えたらびっくりするだろうな。そうだ・・・。」

和人はもう一度事務室の窓から中に入り、事務員が胸に付けている名札を取り外した。

そして、女の子の手にその名札をつかませた。

「これでよし、あとはあの駅に戻るだけだ。」


和人は駅を出て自転車に乗りペダルを漕いだ。

「この自転車のおかげでずいぶん楽になった。これがなかったらくたくたになっていただろう。」

和人は口笛を吹いたり歌を歌いながら帰路を楽しんだ。

八幡駅に着くと、自転車をもとの場所に戻し自分のカバンをつかんで時間を止めた場所へ向かう。

そして時間を止めた場所へ到着すると、石で描いた楕円に両足と左ひざを置いてストップウォッチを右手に持った。

「さて、時間再開だ。」


「おーい、英、もどってこい!あったんだ、道に落ちてた!」

和人が曲がり角のところまで走ってきて叫ぶと、英と徹也が踵を返して戻ってきた。

「なんだって?和人、本当か?」

「ほら見てみろよ、間違いなくお前の名前が書いてある。」

英は受験票を受け取ると、まじまじと見つめた。

「いったいどこに落ちてたんだ?」

「あそこだよ、こことさっきいた所の中間くらいだ。」

「なんでそんな所に・・・?」

「知らないよそんなこと。」

「鞄か学生服のどこかに引っ掛かっていたんじゃないか?英が走り出したことでそれが落ちた。」

徹也がそう推理した。

「でも残念だったなあ。『受験票なくしちゃう伝説』がもう少しでできたのに。」

「徹也!それ以上言うと本当に絶交だからな。」

英は徹也を睨んだが、口元は笑っていた。


その頃緑丘駅では ― 、


「ねえ、ママってばー、それじゃなかったんだって。」

「何言ってるの。」

「でも、駅員さんの写真なんてついてなかったよ。」

「そんなはずないでしょ。ほら駅員さんに届けましょうね。」

「それじゃなかったんだけどな~。」

女の子のふくれっ面はしばらく続いた。

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