ネクロノミコン
ぶつもりおもろい。
じかん とける だなも。
「ところでよ、街にその姿のまま入る気かィ?」
「え?どういうことです?」
ボナ鉱山を離れ街に向かう道中
銀侠の問いにセレナーデは首を捻る。
どういうことか分かってないらしい。
「ワタクシも今それについて考えていたとこ
でしてよ」
「え?え??何何なんですか??」
「ちょっくら考えりゃわかるだろィ
人間の街に魔族が入ったらどうなるかって
話さね」
セレナーデが生唾を飲んだ。
「ど、どうなっちゃうの?」
「まぁ・・・間違いなく討伐されますわね。
普通に考えていた魔族が街に来たなんて
脅威でしかありませんもの」
「わ、私死んじゃうんだ・・・
辛いばっかの生きざまだっなぁ・・・
今までありがとうねコリ・・・」
涙ぐんでコリにお別れを告げている。
コリと銀侠は(あ、バカだこいつ)と思ったが
口には出さないでおいた。
「何かいい案はありませんこと?」
後先考えないで感情に任せてセレナーデを
連れてきたので作戦なんてある筈もなかった。
「まったく、仕方ねェな・・・」
めんどくさそうに掌を空に向けると
銀侠の掌の上に本が出現した。
「それ、もしかてネクロノミコンですの?」
「おう、オイラ盲目だから荷物いれにしか
しちゃいねェがな」
「ねくろ?ですかそれ?何か不思議な物
なのはわかりますけど」
「あ~、そうですわね。人間の間でも珍しい
ですから魔族の貴方が知らないのも
無理はないですわね。
ネクロノミコンはみての通り本ですわ
ただセレナーデが言った通り
不思議な本でしてよ。
まず、使うのには契約が必要。
契約はネクロノミコンを持ってる人に
頼んで契約ページに血でサインしなければ
なりませんわ。それで契約成立。
契約者同士はネクロノミコンを通じて
どんなに離れた場所でも
会話できるようになりますわ。
あと白紙のページに文字を書くと手紙のように
相手のネクロノミコンに表示されますのよ。
それと一番不思議なのはこの本には
収納機能があることでしてよ。
ページの後ろの方が倉庫になってますわ
わかりまして?」
「ほぇ!?ふ、不思議なんだね!!」
ヨダレを拭いながら答えるセレナーデ。
「・・・バカナーデ?この短時間で
寝てましたわね??」
にこやかにセレナーデに詰め寄るコリ。
当然目は笑っていなかった
「ね、寝てないよ!!
瞼が重くなって閉じてただけ!」
「ね・て・ま・し・た・わ・ね???」
コリがセレナーデの顔に手を伸ばした。
「いはい!いふぁいよ!!コリ!!ごめん!!
ごめんらはい!!ほっふぇ
引っ張っらなひれェェェ!!!」
ムニムニしたセレナーデの頬はまるで
柴犬の頬のようにビローンと伸びる。
触り心地抜群で永遠に引っ張てられそうだ
まるで猫の肉球プニプニの如く。
「ガキンチョ、良く知ってやがるなァ
てェしたもんだ。
ま、百聞はなんちゃらでェ。ほらよ」
銀侠が二人の前に後半の部分倉庫のページを
見せる。
見せられたページにはゴチャゴチャと
色んな物が散乱している写真が写っている。
ゴミ屋敷の一角でも写し取ったかのような
汚さだ。
「うわぁ、汚い・・・ドン引きですわ・・・」
「そう言うな、本に入れちまうと音で
中身の判別が出来ねェから散らかっちまァのよ」
「で?これの中に何かセレナーデが街に
問題なく入れるような道具が入っていますの?」
「その中に確か全身覆い隠せそうなローブが
入ってた筈でェ、くれてやるから取り出しな」
銀侠が耳の穴を小指でほじりながら
地べたに座り込んだ。
探し出すのに時間が掛かると踏んだのだ。
自分でも何か探す時目当ての物を
引っ張り出すのに時間が掛かる。
「こ、このゴミ溜めのような場所に手を
突っ込めと言ってるんですの?」
コリの顏が露骨に引きつる。
やはりいいとこ育ちのお嬢様だから・・・
ではなく誰でも躊躇う位見た目が汚いのである。
これに手を入れるのは満杯になった
三角コーナーに腕を突っ込んでまさぐるのと
同じぐらい思い切りがいるかもしれない。
「・・・せ、セレナーデ、そのページに手を
触れてみなさいな、面白いことが起こりますわよ」
「本当!?興味ある!銀侠さんいいですか?」
セレナーデの無垢な笑みにコリの良心が
ゴリゴリに痛めつけられた。
(ごめんなさいコリ・・・!!
でもアレに手を突っ込むのは無理ですわ!!
ホント・・・マジで嫌ですの!!!)
しかしどれほど良心が痛もうが触りたくないから
仕方ない。セレナーデはノリノリのようだから
きっと大丈夫。と自身に言い聞かせている。
「じゃあ失礼します!」
ページにそっと触れると手が本のページの
中にスルリと入ってしまった。
「ひゃあ!?え!?私の手が中に入っちゃった!
わあ!面白い!!」
「ほ、ホントですの?実はワタクシもちょっと
興味が・・・」
「うん!やってみなよ!なんか生暖かくて
ちょっとネトネトしてる!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「コリ?どうしてそんなに後ろに下がるの?
興味あるんでしょ?」
「ソンナ コト ヒトコトモ イッテマセン
コトデスワヨ」
拒絶反応のあまり言葉が片言になっている。
「え~言ってたよ、変なの」
セレナーデがネクロノミコンから
いろいろな物を出しては戻すを繰り返して
ローブを探す。
本当に様々な物が入っていた。
カビたパン、潰れた卵から男女問わず下着や
服など。コリは終始目を覆っていた。
そして3分程して・・・
「あった!!これですよね!!」
薄汚れたボロボロのローブを手に
セレナーデが楽しそうにクルクル回っている。
「汚いですわ・・・臭そうですし・・・」
「着れリゃいいだろィ、ねェよかマシでェ
ほらさっさと行くぜ?日が暮れちまわァな」
銀侠がセレナーデからネクロノミコンを
取り上げると空気に溶けるように本が消えた。
「セレナーデ随分嬉しそうですわね」
「ふふ!人間の洋服、実は憧れてたの!!」
(ああ、だからか、
あんなボロ布であそこまでに喜ぶのは)
「コリ!どうやって着るの?教えて!!」
「まったく・・・仕方ありませんわね!」
彼女は純粋過ぎる。
自分ががちゃんと人からセレナーデを
守らねばと硬く決意し足を踏み出した。
ネクロノミコン補足
・所持者から5メートル離れると機能停止する。
・子供は契約できない。(魂が未熟な為)
・登録者リストがあり死亡した人物の名前は消える。
・通話拒否不能(登録者を増やし過ぎて絶え間ない連絡に発狂した人物が
いたりするので登録し過ぎには注意)
・倉庫ページの中は時間の影響を受けずしまった時の状態のまま。
(銀侠はカビパンをネクロノミコンにしまったのでありネクロノミコンの中でカビたわけではない。