それは河童のみぞ知る
は!もしや俺って無能なのでは!?
・・・その知ってるって顏やめてよ。
傷ついてふて寝して寝不足解消するぞ!!
「もう独りは嫌ですわ・・・」
新緑色の羽毛を濡らしながらコリは
絞るように言葉を漏らした。
「・・・ごめんね、コリ
寂しい思いさせちゃったんだね」
あたたかい翼がコリの金髪の上を
やさしく滑る。
「お取込み中悪ィがそのガキンチョ腕に怪我してる
だろィ?早く人間のいる所で診て貰ったほうが
いいぜ、人間は魔族みたいに頑丈じゃねェからよ。
ネズミに嚙まれて死んじまうこともあるぐれェだ」
「ええ!?ネズミに嚙まれても!?
う、嘘ですよね・・・?いくら何でもネズミに
嚙まれた程度で・・・」
銀侠は神妙な面持ちで首を振る。
「え?え??本当なんですか!?そんな!!
コリが死んじゃう!!どうしよう!
どうしよう!私に血をくれたばっかりに!!」
セレナーデが動揺して銀侠とコリの顏を
交互に見る。余程焦っているのだろう
首を振る一連の動作は高速である。
「グス・・・ワタクシはセレナーデが
来てくれないとこのまま
死んでしまうのですわよ・・・」
鼻をすすりながらポツリとこぼした嘘が
顔面蒼白のセレナーデの度肝をブッこ抜いた。
「えぇぇぇええぇえ!?」
セレナーデの顎が外れそうなぐらい開いている。
今に白目ひん剥いて倒れてもおかしくなさそうだ。
少なくとも泣きそうではある。
「銀侠さん助けて下さい!!お願いします!!
なんでもしますから!!尻子玉ですか!?
尻子玉差し出せば助かりますか!?」
完全にパニック状態である、自分で
何言ってるのか分かっていない。
「そうそう、オイラに尻子玉くれれば
助「おやめなさい!すけこまし!!
ていうか魔族に尻子玉ってありますの!?」
「どれ、オイラが確認してやらァ
ほれ、尻見せ『ガン!!』
セレナーデに後ろを向かせて屈んだ所で
脳天に拳サイズの岩が降って来た。
「痛ェじゃねェか」
「黙らっしゃい、人間としての品格を疑いますわ
いい年して恥ずかしくありませんの?」
立ち上がった銀侠を見上げるその目は
失望という仄暗い光に満ち溢れていた。
「あのあの!早く抜いてください!!」
「あなたもお黙り!バカナーデ!!」
お尻を突き出したまま待機している
セレナーデの頭を引っぱたいた。
「痛い!!」
コリは息を大きく吸い込んで不満を爆発させた。
「なんでワタクシだけがまともなんですの!?
言っておきますけれどワタクシ9歳ですのよ!?
9歳に説教垂れられる大人と魔族って
この構図頭トチ狂ってますわ!!
もしかしてバカなんですの!?ねぇ!?
常識なさすぎませんこと!?」
「女がいたら触るもんだろィ、何が悪ィ」
「『じょーしき』って鳥の名前か何か?」
「聞いたワタクシのがバカでしたわね!!
スイマセンデシタァ!!
さっきの涙返してくださいませ!!
うきぃぃぃぃ!!」
コリが両手で自分の頭をガリガリ
搔きむしっている。
「銀侠さん、コリ元気そうですけど
本当に危ないんですか?猿のモノマネするほど
余裕あるみたいだし・・・」
「人間の体は複雑なんでェ、今大丈夫でも後々
影響が出やがる、だから早く尻子だ・・・うごッ!?」
銀侠が尻を抑えて地面に膝を着いた。
尻には折れたツルハシの柄が
深々とぶっ刺さっていた。
「セレナーデに手を出したら貴方の尻子玉
ぶち抜きますわよ」
「きゃああぁ!銀侠さんの尻子玉が!!」
「あぁぁ!!尻子玉尻子玉うるさい!!
この短時間で何回尻子玉言ってますの!?
人生で尻子玉って単語使う機会
そうそうなくてよ!?もう一生分の尻子玉
言い尽くしましたわ!!!」
「コリなんてことを!!銀侠さんの尻子玉が!」
「尻子玉アレルギーになりそうですわ・・・」
「お、オイラァ・・・アブノーマルなプレイは
あんま好きじゃねェんだがなァ・・・」
尻に突き刺さった棒を引き抜いて
尻をさする。解放感よりも痛みの方がエグイ
なんせ折れたギザギザの方で
深く刺されたのだから。
「銀侠さん!お尻・・・いえ、尻子玉無事ですか!?」
「別の玉が縮んだぜェ・・・」
「貴方一回死にさらして下さいませんこと?」
道端の虫を踏み潰すかのような冷酷な眼差しで
コリは言い放った。
「コリ、この人恩人なんだよ?
そんなひどい事言わなくても・・・」
「感謝はしていますわ、でも人間としてこの方は
信用に値しなくってよ」
「いい人なのにな~・・・」
不思議そうな顔をして首を傾げている
セレナーデを見てコリは呆れてため息をついた
しかしその口角は僅かに上がっている。
「貴方は人を信用し過ぎですわ・・・
まあ・・・そこが貴方のいい所ですものね。
ねぇ、セレナーデもう一度聞きますわ
一緒に来て下さらない?」
晴れやかな笑顔で両手を広げセレナーデを
誘う。無邪気な顏だ。
服の袖から腕の傷が見え隠れする。
その傷を見ると心が締め付けられた。
二人の間を一筋の風が通るとセレナーデが
口を開いた。
「・・・うん、わかった一緒にいくよ」
コリの手を取ったセレナーデも口角を上げる。
本当は他のハーピーの様子が気になるけれど
命を張ってまで助けてくれた子の願いを
無下にすることなど誰にできようか。
「話はまとまったかィ、で?
何所か行く当てはあんのか?」
「ワタクシはハーピーに襲われる前
ブラッドタウンなる場所を目指していましたわ。
地理的にそこまで離れていない筈ですけれど」
コリが視線を落とす。流石に初めて訪れる
場所で土地勘があるはずもない。
「私も知らないなぁ・・・」
二つの視線が銀侠の顏に向けられる。
「・・・はァ、オイラ新しい土地目指して
旅立つ所だって言っただろうがよォ」
後頭部をガシガシ引っ掻くと銀侠は踵を返す。
「こっちでェ、付いてきな」
二人が銀侠を追いかけて後ろについていく。
「言っておくが馬車なんざねェからな
かなり歩くぞ」
「はい!大丈夫です!お願いします!!」
「感謝しますわ!ありがとう!!
まだ侮蔑してますけれど!」
「へへ、手厳しい嬢ちゃんだなァ・・・
コリャ将来大物だ」
「ところで今更何ですけれども尻子玉って
なんですの?抜かれたらマズイものなんですの?」
銀侠と言い出しっぺのセレナーデは
だんまりを決め込んだ。
「・・・知りもしない単語をあんなに
皆で乱発してたんですの?」
コリのツッコミにコリ本人も含め何も
言えなくなり。無言のなんとなく気まずい
空気がしつこく漂い続けていた。
『どうしたの?カテーナ』
「気にするな、失敗しただけだ」
『あらあら、失敗なら気に
することじゃないのかしら?』
「ハーピーを使った遊戯だ、問題はない」
『そうねぇ、貴方がここぞで失敗するはずが
ないものね。
いい報告を期待してるわ怪盗零面相』
「期待しててくれパンドラ」
何も描かれていない白い仮面を付けた人物が
本を閉じるとその本が空気に溶けるように消えた。
「運がいいな、コリ・スフェラ・ケーラ
だが逃がしはしない。
お前の箱は必ず盗んでやろう」
仮面とは正反対の黒い装束が風に揺れる。
我が名はカテーナ、何者でもない者
666S『変異』の零面相
青龍教7聖人貪食の席の代理。
最後はまぁ・・・知ってる人はいないか。
万が一魔王の花見てくれた人いても覚えてないだろうなぁ・・・
期間が空き過ぎたんや・・・