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アヤカ

夕方になり、陽が落ちて空は暗くなっていたが、

遊園地内はイルミネーションなどで、

どこもキラキラしていた。


夕飯はホテル内のレストランを予約していたので、

予約時間が近づいていたため、

まだ遊びたがっていたナオトを何とかなだめ、

レストランに入った。


このレストランもナオトが好きなキャラクターのメニューがいっぱいあって、

ここでもナオトはどれにしようか、

すごく迷っていた。


数分悩んで、やっとメニューが決まり、料理が運ばれてきて、

ある程度食べ終わりかけた時、

店内の照明が少し暗くなり、どこかからハッピーバースデーの曲が流れてきて、

どこかからぞくぞくとナオトの好きなキャラクターの着ぐるみ達と、

ケーキを持った店員さんが私達のテーブルへと来てくれた。


ケーキをテーブルに置くと、みんなが声を揃えて、

「ハッピーバースデー!ナオト君!」

と言って盛大に拍手をしてくれた。


ナオトは少しビックリした様子でキョトンとしていた。


そのうちキャラクター達がナオトの肩を組んだり、

頭を撫でてくれたりしてくれると、

ナオトも慣れたようでだんだんと嬉しそうにしていた。


「ナオト、お誕生日おめでとう。」

そう言うとナオトは満面の笑みで、

「このケーキ、ナオトの?食べていいん?」とまたワクワクしていた。


私はそんなナオトを見て、嬉しさと少しの寂しさで泣きそうになっていた。


離婚してから毎年こうしてナオトの誕生日を一緒に過ごせるわけではなかった。


今年は私の願いを何とか元旦那に無理を言って叶えてもらった。

そのおかげで、こんな素敵な誕生日を、

クリスマスイブを過ごすことができた。


3人で美味しい食事とケーキを食べてから部屋に戻った。

部屋に戻ってからも、ナオトは私のそばを離れなかった。


「ナオト、お母ちゃんとお風呂入る。」と言ったので一緒に入ることにした。

2人でお風呂に入るのは数年ぶりだったからか、

初めナオトは少し照れくさそうにしていた。

お湯に浸かりながら、いろんな話をした。


「ナオト、今日楽しかった?」

「うん!楽しかった!グルグル回るやつとか、

ジャンプするやつも楽しかった。」


今日乗ったアトラクションやゲームのことを思い出しながら話していた。


話してるうちに眠くなってきたのか、

目をこすりながらナオトが私に抱きついてきたので、

優しく抱きしめながら、

ナオトの肩にお湯を手でかけ続けてあげた。


「ナオト?眠たくなってきた?」

「・・・ううん、眠たくないよ。」

明らかに眠そうなのに、まだ入っていたいからか、

無理をして返事をするナオトが可愛くて、

もう少しだけこのままでいようと思った。


でもあまり長く入ってるとナオトも私ものぼせるから、

出ることにした。

ナオトはもう半分寝ていて目がトロンとしていた。


「ナオト、もう出よう?のぼせたらあかんから、

お風呂出て、お布団入ろう?」

「うん、ナオト、お母ちゃんと寝る。」

寝る時まで私を求めてくれるのが嬉しかった。


部屋はベッドが2つの部屋にしてたから、

ナオトは私が寝るほうのベッドで寝転んでいた。


お風呂から出て髪を乾かしていたら、

先ほどまでの眠気がどこかへ行ったのか、

寝る時になってもナオトはまだ寝ないと言って、

キャラクターのぬいぐるみなどで遊んでいた。


「ナオト、早く寝ないと明日朝ご飯の時またあのキャラクター達来てくれんのに、

会われへんようになるで?」

と言うとさっきまではしゃいでたのが嘘みたいに、

私のベッドにサッと横になって、

「お母ちゃん、早くお布団にねんねして。」

と、まるで私が逆に叱られた。


腕まくらをして背中をトントンしながら、

小さめの声でナオトが好きな歌を歌ってたら、

ナオトも合わせて一緒に歌っていた。


ナオトを抱きしめていると、何とも言えない気持ちになって、

つい腕に力がこもってしまってギュッと抱きしめたら、

「お母ちゃん、苦しいよ。」って言われて、

「あ、ごめんね。」と言って腕の力を弱めて、

また背中をトントンしたり、

頭を撫でたりしながらまた一緒に歌を口ずさんだ。


そのうちナオトの歌声が聞こえなくなって、

ふと顔をのぞくと、ナオトはもう眠っていた。


私の腕の中で天使のような、

それはもう何よりも可愛い顔をして眠っているナオトの寝顔を見ていると、

愛おしくて愛おしくてたまらない気持ちと、

普段離れている寂しさで胸が締め付けられて、

声を殺して泣いていた。


それに気づいた元旦那が「大丈夫か?」と声をかけてくれた。

「うん、大丈夫。ナオトの寝顔見てたら嬉しさと辛さでちょっと…」

「泣かんでええやん。今日ナオト、あんなに楽しそうにしててんから、

喜ばせてあげれたって思えばええやん。」


「そうやな。ナオトが楽しんでくれたなら、

私も嬉しいわ。

今さらやけど、あの時私の勝手で家出て、

ナオトのこと任せっきりでごめんな。

私にできることは、なるべくこの先もするから。」


「別に謝らんでええわ。ナオトは俺の子でもあるんやから面倒見るのは当たり前や。

過ぎたことはもうどうしようもないねんから、

アヤカも無理しすぎんように、

ずっと元気な母ちゃんでおったれ。」


「うん…ありがとう。」


そんな会話を薄暗い常夜灯の優しい灯りの中で話していると、

私達も眠くなり、私は可愛く眠るナオトを優しく抱きしめながら眠った。


眠りに落ちてどれくらい経ってからか、

私は不気味な夢を見た。

手術台のような所に寝かされていて、

目を開けると周りには黒い手術着みたいな服を着た人が何人かいた。


何を言ってるのかは聞き取れなかったが、

何か話しながらその不気味な人達が私の体を手術していた。


私は何をされてるのかわからなかったけど、

すごく怖かった。

声を出したくても出せず、体を動かしたくても全く動かなかった。

怖くて怖くてたまらなかった。


すると、どこかからナオトの呼ぶ声が聞こえた。

「お母ちゃん!お母ちゃん!起きて〜!」

ナオトがどうやら先に起きてたようで、

私のことを起こしてくれていた。


(救われた…)

内心すごくホッとして、私は目覚めた。

あまりにもリアルで気持ち悪い夢はナオトのおかげでかき消された。

(今のは一体何やったんやろ?)

そう思いながら、寝起きから元気なナオトを見ていたら、

夢のことなどすでにどうでもよくなって頭から消えていた。


朝ご飯までまだ少し時間があったので3人でスマホのゲームをしたり、

写真や動画を撮ったりして遊んでいた。


今日ナオトと別れたら、私はまたとうぶん、

こうして撮った画像や動画を見て過ごす。

だから、いっぱいいろんなナオトを撮った。


可愛いナオト。面白いナオト。コロコロ表情を変えるナオトをとにかくたくさん撮った。

ナオトとの思い出をたくさん。


そうこうしているうちに、朝ご飯の時間がきたので、

私達はレストランに向かうことにした。


「今日もナオトの好きなやつ来るん?」

と楽しみな様子でナオトが聞いてきた。

「うん、ちゃんとご飯食べてたら来てくれるよ。」

と言うと、

『ナオトな、ご飯ちゃんといっぱい食べるもん!」

と、何とも可愛いドヤ顔で話していた。


レストランに着いてメニューを選んでいると、

早速キャラクター達が現れた。

「来た〜〜〜!」ナオトがすごく嬉しそうにしていた。


私と元旦那は2人で顔を合わせた。

(来るの早くない?今来たら、料理来た時、

ナオト食べへんかもしらんやん。)

たぶん2人とも同じことを思っていたのだろう。

だからお互い同時に顔を見合わせたんだと思う。


そして案の定、料理が運ばれてきても、

ナオトは早く遊びに行きたくて、

少ししかご飯を食べなかった。


「タイミング悪ない?」

私と元旦那は全く同じことをつぶやいた。

まぁでもこればっかりは、仕方がなかったので、

食べるだけ食べてレストランを出て、

一度部屋に戻った。


「ナオト、ちょっとしか食べへんかったけど、

お腹足りたん?」と聞くと、

「もうお腹いっぱいやもん。早く昨日行ったとこ行こう!」

やっぱりナオトは早く遊びたくてウズウズしていて、

あまり食べなかったのだ。


「お腹空いたら遊園地で何か食べればいっか。」

と私が言うと、

「そうやで!後で食べたらいいねん!」と急に大人びた返事が返ってきて、

私も元旦那も2人で思わず吹き出して笑った。


今日夕方にはホテルをチェックアウトして帰らなければいけない。


後数時間、この楽しい3人での時間を私も目一杯楽しもうと思った。


遊園地に着いたら、ナオトは前日に遊んだアトラクションと同じ物でまた遊んで楽しんでいた。

その様子を私はスマホにたくさん収めた。


そして夕方になり、まだ遊びたがっているナオトを何とかなだめようと元旦那と2人で必死だった。


あの手この手で何とか遊園地を出た。


ホテルをチェックアウトして、車に乗ってからもナオトは、ずっと文句を言っていた。


「ナオトまだ遊ぶんやった。まだ乗りたかった。

ゲームもしたかった。」

ずっとブツブツ言っていた。


私もまだ遊ばせてあげたかった。

そしてまだ一緒にいたい。

許されるなら、私もナオトみたいにグズりたい気分だった。


でもそういうわけにはいかないから気持ちをグッと堪えて、車の中でずっとナオトの手を握っていた。


帰りは新幹線の駅まで送ってくれた。

車から降りて、新幹線の乗り口まで、

私はずっとナオトを抱っこして歩いた。


乗り口に着いて、抱っこしていたナオトを降ろそうとしたら、

ナオトが離れるのを感じとっていたのか、

「イヤや!」

と言って、私から離れようとしなかった。


その瞬間、一気に泣きそうになり、私もナオトを思いきり抱きしめた。

でも泣いてしまうと余計にナオトをも悲しませてしまうと思い、

涙を堪えてナオトに言った。


「ナオト?お母ちゃん、またお仕事がんばって、

ナオトにいっぱいおもちゃとか買ってあげたいから、

ナオトも保育園とかお勉強がんばって待ってて?

またすぐ会いに来るから。

次は仮面ライダーおるとこ行こう?わかった?」


そう言うと、ナオトはしぶしぶといった感じで少しふてくされたようだったが、

私の腕から離れた。


「お母ちゃん、絶対またナオトのとこ来てね。」


「うん!また来るから、ナオトもちゃんとご飯食べて元気でおってな。」

それ以上は涙が出そうで何も言えなかった。


「ありがとうな。アヤカもあんまり無理せんと、

体気をつけろよ。」


「ありがとう。そっちも体気をつけてね。またね。」

はたから見たら素っ気ない会話だったと思う。


けど私が泣くのを堪えてたことを元旦那も察してくれていたから、

それ以上の会話はできなかった。


そして乗車時刻が近づいてきたので、

少しスネてるナオトと元旦那に精一杯の笑顔を作って

「またね!」と言って、

後ろ髪をひかれる思いで2人にバイバイをした。


新幹線に乗り、席に着くと堪えていた涙が一気に溢れてきた。

幸い、隣の席に人はいなかったので、

声を殺して泣きまくった。


さっきまで腕に感じていたナオトの温もりを思い出しながら…


自分が降りる駅に着く頃には、涙はもう止まっていた。

駅に着いて新幹線から降りて、電車に乗って最寄りの駅に着いてから、

元旦那に電話をかけた。


「もしもし?今やっと着いた。昨日、今日ありがとう。楽しかった。ナオトもう寝た?」


「うん、疲れたんやろ。もう寝てるわ。

こっちこそありがとうな。

家まで気をつけて帰れよ。」


「うん、ありがとう。ゆっくり休んでな。また連絡するわ。」


「うん、じゃあな。」「じゃあね。」

短い会話をして電話を切って、家までの道を歩いていた。


もうすっかり陽が落ちて、外灯の灯りがポツンポツンとある暗い道を、

トボトボと歩きながら歩行者側の信号が青になったので進んだ。


その時だった。

止まる気配がないほど、スピードを出した車が、

赤信号を無視して走ってきた。


私の視界にその車が入ってきた瞬間から、

意識がなくなった・・・


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