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アンタの良心は5%しかないのか。

キャラクターによって、「蜂」、「ハチ」と表記を使い分けています(/・ω・)/

 学舎を出る直前に、ちょっとした有名人に捕まった。


「お2人さん、時間があるならちょいと付き合ってほしいわさ」


 から揚げを食べながら話しかけてくる、変な語尾のイド先輩。体型もから揚げみたいで、90kgを超えているらしい。急な勾配のアカデメイアの男坂を、この体型で毎朝どうやって登ってこれるのか本気で謎だ。


この丸い人はウラプト先輩の盟友にして、アカデメイアの要注意人物(有名人)だ。とはいえ、アカデメイアにとってのブラックリストであって、僕たち下級生にとってはおもしろい先輩だったりする。


一応生物学的には女性に分類されるんだけど、僕的には「珍獣」ってカテゴリが一番しっくりくる。


「お茶とから揚げをごちそうするから、取材に協力してほしいわさ」


まだ食うんか。から揚げでベトベトになった指を僕の服でぬぐいながらでなかったら、少しは誠意ってものを感じたかもしれない。あと、お茶とから揚げって、食べ合わせはどーなんだろう。


「あの畑にいたんでしょ? 詳しい話を聞かせてチョーだいよ」


 から揚げ先輩は、ゴシップを集めて記事にしている。アカデメイア非公認の「過激報道愛好会」のリーダーだと名乗っている。

 パパラッチ(やぶ蚊)がハチのことを()ぎまわってるってのもオモシロい構図だな。

 まあ、話していいか。箝口令(かんこうれい)敷かれたわけじゃないから、アカデメイアに怒られたりしないだろう。


「いいですけど、嘘八百書かないでくださいよ」


「アタシにも報道の良心はあるわさ。ウソ七百六十ぐらいで抑えておくから安心してちょーよ」


 アンタの良心は5%しかないのか。「誇張粉飾20割増し」と言われている記事を書くだけある。いや、褒めてちゃダメだ。


 カメを降りた先のカフェに入って、先輩が飲み物を注文する。ちなみに、無料で水とかは出てこない。よっぽどの高級店にでも入らない限り、水も有料だ。家庭用の「飲み水」が不足なんてことはないけど、飲料に適した「いい水」となると貴重なのだ。


 出された飲み物は、干した果物を原料にしたものでローズヒップティーみたいな味だった。前世で2回ぐらいしか飲んだことないんだけども。ちょっと酸味が強いけど美味しい。



 めでたくワイロももらったことだし、起こったことを説明する。僕がやったことはもちろん伏せて。倒したハチについては、「みんなで撃退した」って言っとけば疑われないだろ。


 隣で姉さんは大げさな身振り手振り一生懸命「ショウくんが、ショウくんが」って解説しているけど、いつの間にか「地下百階のダンジョンに潜って、魔王倒しました」みたいな冒険譚になっていた。



「あの様子だと、今後第3農園に入るのは危なそうですね」


 と言うと、


「危なそうもなにも、第3農園(あそこ)はただいま蜂で満員御礼だわさ」


から揚げをほお張りながら答えるから揚げのような体格のフライド《からあげ》先輩。共食いだな。


「イドせんぱい、よく知ってますねー」


 飲み物のお代わりを注文して質問する姉さん。育ちが良いせいか、割と遠慮がないよな、姉さん。


「午後に講義サボって覗きに行ったんだわさ」


 胸を張ってるのやら腹を張ってるのやら。しかし、見た目に反してフットワーク軽いな。


「ハチさんたち、愛の巣を作ってるのかなあ?」


 姉さん、「愛の」はいらんとおもう。営巣はただの本能だろ。これは、決して、断じて前世で愛の巣(マイホーム)が持てなかった孤独男のひがみでない、と信じたい。


「そうそう、不法占拠して、()みつくつもりだわさ」


「なんであんな(ひら)けた場所に?」


 スズメバチとかなら、木の根元とか草陰とか、見つかりにくい場所に作るんじゃないか? 農園は森に面してるとはいえ、ほとんど丸裸だ。


「多分、あそこの土壌が変わってるから気に入ったんだわさ」


 なるほど。

 霊薬に必要な薬草は、特殊な土壌でしか育たない。農園は、アカデメイアが何年も特殊な肥料と莫大な資金を投じて、今の土壌に“改造”したものらしい。自然界的には不自然に歪めちゃってるから、“改良”とはいいにくいかな。

 あんな人造土地が気に入るなんて、変わり()だな。


「でもあそこだと、ごはん大変じゃないですかー?」


 そうか、エサの問題もある。集団を維持するには、かなりの量のエサが必要だ。肉食ならハーブや薬草は喰えないもんな。


「占拠してれば人間(エサ)の方からやって来てくれる、って考えたら、けっこうな良物件じゃないわさ?」


 そ、そうきたか? でも、ハチのおつむでそこまで計算できるもんなんだろーか。


「さすが悪質報道愛好会の首魁(しゅかい)。考え方がえげつない」


「過激報道愛好会、だわさ」


20個目のから揚げをまるで飲み物のように喉を鳴らして呑みこむ。余計なお世話だろうが、ダイエットとかに興味はないんだろうか。僕がやぶ蚊(パパラッチ)だったら、ぜったいこの先輩の血は吸いたくないな。血管に、血の代わりに脂が流れてるかもしれない。





 朝に約束した通り、帰り道に露店で売られていた串焼きを2本買ってみる。連続の寄り道になるけど、朝に約束したからな。

 学生の身分では、1本銅貨5枚の安さがありがたいな。前世の相場で50円ってとこか。

 甘辛いタレがなんとも食欲をそそる。フローレンス商会が売ってる調味料に独自の改良を加えてるようだ。ここまで味のこだわりが徹底してくると、買い食いも楽しい。生まれた直後の食生活は地獄だったからなー。

 ただこの串、道々食べるには口元の汚れが気になるところだ。


「おいしー♪」


 あっという間に串焼きを平らげる我が従姉。から揚げも食べてるのに。このあと、普通に晩ごはんも完食するんだよな。成長期とはいえ、あの体のどこに収まるんだろう。あ、胸か。

 口の周りにタレがベタベタついている。


「ほらほら、きれいにしてあげるから」


 口元を()いてやる。しまった、教育上自分でやらせるべきだったか。ちょっと過保護になってるな。



 フォウ姉さんの家に寄る。ささやかな僕の家の隣にある大きな店舗が、ブンセ伯父(おじ)さんのフローレンス商会だ。

 アカデメイアに入ってからは、伯父さんの家で夕食をごちそうになるのが習慣になっていた。



「ショウ、娘はちゃんと勉強しとるかね?」


 フルポンドステーキを食べつつ、ブンセ伯父さんが訊いてくる。約453g。いつもながら肉肉しい食卓だ。朝も昼も夜もあのステーキなんだよな、伯父さん。見てるだけで胸やけしそうだ。


「アナタ、お肉ばかり食べていると死にますよ。もっと野菜を召し上がれ」


 隣でシス伯母(おば)さんが大盛りの野菜皿をぐいぐい押し付けている。いや、皿を顔に押し付けなくても。伯父さんの髪の生え際が、最近後退しはじめているからだろうか。

 伯母さんは30代半ばのはずだが、20代で通じるぐらい若く見える。若いころ、って、今も外見は充分若いけど、美人で有名だったとか。


「姉さんも勉強頑張っていますよ。アカデメイアが遠いのが難点ですけど」


 実際、姉さんはよく頑張っているし、同級生たちともうまくやっていると思う。裏表がない性格だからだろうか。

 カロアンズみたいな大人げないのもいるけどな。アレは人徳があろうがお構いなしにいちゃもんをつけてくるタイプだから、野良犬に噛まれたようなもんだ。ミジンコサイズの超絶ミニチュア犬だけどな。


 豪商フローレンス商会のやり手会長も、影の支配者と(ささや)かれてる奥方も、家族の前じゃあただのいい両親だ。

 どーでもいいハナシだけど、「シス」って聞いたら、僕の知識では暗黒卿がどうしても思い浮かぶ。影の支配者なんて言われてるように、おばさん怒ったらけっこう怖いしな。


 はっきり確認したことはないけど、伯父さん夫婦がこうして僕の面倒を見てくれるのは、親同士の取り決めがあったらしい。

 アカデメイアへついていくことのお返し、みたいなものか?

 まあ、それまでも家の行き来は頻繁にあったけど。


 おかげで両親は喜んで、僕を留守番にして遺跡調査に出て行ったのだからお気楽なものだ。

イド先輩、メリハリがいろんな意味で効いてて好きです(/・ω・)/

良心は5%なので、政治屋の7億倍は良心的ですね。

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