I LOVE HOW YOU LOVE ME
ロックウエルでエリカちゃんにハイボールおごりながら昼飲みした帰り、空はキラキラ晴れているが、暑さはまだ立っていなくて、楽しいおしゃべりのあとのほろ酔い気分の中、オールディーズはBGM以上の姿で顔を出し、穏やかな日曜日の昼下りを一緒に歩いて呉れた。その日のオールディーズはやけに匂いが先に立つ甘い曲ばかりと繋がっていた。
ロックウエルでエリカちゃんにハイボールおごりながら昼飲みした帰りだから、あれは去年の大型連休が終わったばかりの頃だったんだろう。店のドアからお見送りを受けて、ラジオのイヤホーンを挿したらサンデー・ソングブックのオールディーズが流れ始めていた。2時15分は少し回っている。通りの三番町から新川小路を川に向かって上がっていくと、空はキラキラ晴れているが、暑さはまだ立っていなくて、楽しいおしゃべりのあとのほろ酔い気分の中、オールディーズはBGM以上の姿で顔を出し、穏やかな日曜日の昼下りを一緒に歩いて呉れた。その日のオールディーズはやけに匂いが先に立つ甘い曲ばかりと繋がっていた。
それが感じられたのは、その医院の前を通ったときだ。川岸町の今はとうにしもた屋になっている小児科・内科の医院で、「あの先生は注射しないから」と、風邪を引くたびに連れていかれて飲まされてた粉薬の甘い匂いが鼻腔の上辺りを一緒に通り過ぎた。なで肩で色白で、よくお腹をこわしていた幼稚園児の顔が、割れそうに薄いくもりガラスの向こうに居るようだった。時間は、少しかき混ざっていた。
緩いカーブの先から見えてくるジョギングびとの姿が、いつもとは違う。何処か割れ目からでもひょっこり飛び出してきたようなひとたちばかりだ。最初のそれは親子連れで、お母さんとそのお母さんが手を伸ばせばいつでも掌を乗せてくる齢の男の子だった。本当に手を繋ぎながら疾走っていたが、その二人の格好が赤い帽子とTシャツに青いオーバーオール、スーパーマリオだ。アップに近づいたら、ふたりとも鼻ひげまで付けてる。アピール満載のなりきり。土手までたどり着けば、あれよあれよ。百人、二百人、三百人と走ってる全員が、赤T、赤シャツを着ていて、かつらやマントそのほか仮装用の小道具を手に手に走り回ってる。なりきりいっぱいに跳んでる、はしゃいでる。仲良しの女の子たちは互いのお尻を掴まえ、巴をかき混ぜるように泳いでる。昔は青春していたおじさんおばさんが一列のムカデになってジェンカのリズムで、前後ろ、前後ろを刻んでる。みんな、大小の見えないシャボン玉の中に掴まって、徒競走のスローモーションみたいにゆっくりと、たった一人のほろ酔い客のために通り抜けてくれてるみたい。一番うしろから、大群の羊を追い込むように、ハンドマイクもった男が「みなさん、あと少しです。もう少しです。あの橋の下にいっぱいのチョコレートが皆さんを待っていますよ」と、芝居がかったセリフのアナウンスでゴールへと誘う。
本当に、夢幻をみている心地だった。
オールディーズはパリスシスターズのI LOVE HOW YOU LOVE MEを鳴らし出した。綿あめのような甘い声が束になって、この昼下がりの酔い心地を盛り立てる。わたしは、あのアフロの女子高生三人たちよりも十センチ高く地上から浮かんでいた。
あれよあれよ。百人、二百人、三百人と走ってる全員が、赤T、赤シャツを着ていて、かつらやマントそのほか仮装用の小道具を手に手に走り回ってる。なりきりいっぱいに跳んでる、はしゃいでる。仲良しの女の子たちは互いのお尻を掴まえ、巴ともえをかき混ぜるように泳いでる。昔は青春していたおじさんおばさんが一列のムカデになってジェンカのリズムで、前後ろ、前後ろを刻んでる。みんな、大小の見えないシャボン玉の中に掴まって、徒競走のスローモーションみたいにゆっくりと、たった一人のほろ酔い客のために通り抜けてくれてるみたい。一番うしろから、大群の羊を追い込むように、ハンドマイクもった男が「みなさん、あと少しです。もう少しです。あの橋の下にいっぱいのチョコレートが皆さんを待っていますよ」と、芝居がかったセリフのアナウンスでゴールへと誘ういざなう。
本当に、夢幻をみている心地だった。
オールディーズはパリスシスターズのI LOVE HOW YOU LOVE MEを鳴らし出した。綿あめのような甘い声が束になって、この昼下がりの酔い心地を盛り立てる。わたしは、あのアフロの女子高生三人たちよりも十センチ高く地上から浮かんでいた。