『責任感』
[前回のあらすじ]
キャリー王国城では、キキの手から逃れ四匹の賢者たちが転移による脱出を果たす。一方の人間界、実連達は彼らの苦労も知らず呑気に一日を終えていた。
日は変わって翌日。昨日同様、まだ眠っている実連を起こしに一人の人物が彼女の寝室に入ってくる。その人物はカーテンを開けて太陽の光を取り入れる。そのカーテンを開けた音か、将又眩しい太陽の光によってか、実連は眼を覚ます。
「うーん…もう朝…?」
「おはよう実連。もうとっくに朝だよ」
実連に挨拶をしつつ、彼女の問いに答えた人物は、京佳である。彼女の答えを眼をこすりながら聞いた実連は、時計に目をやる。時刻は七時。長い針は十二を回っていた。
「昨日より三時間早いや…」
「はあ⁉︎ あんた、昨日十時に起きたの⁉︎ ダメだよ実連。夏休みだからって遅くまで寝てちゃ。生活リズムはしっかり整えておかないと、学校始まったら大変だよ?」
彼女の説教とも思える言葉に耳を痛めつつも、実連は布団から出て着替えを始めた。
私服に着替えて洗面をし、朝食を取るべく食卓へと来る実連。ここも昨日同様、いい匂いが広がっていた。
「ん、おはよう実連。もうすぐ朝ご飯が出来るから、席に座ってて」
そう言いながら朝食であろう食事を料理するミユ。実連は頷いて、彼女に言われたように席に着く。そこでもう一度台所を見ると、慌ただしくする二人の姿があった。その二人を見つめ、彼女は考える。なんだか賑やかになったなと。
「——じゃなくて! 二人共、私も何か手伝うよ! 私の家だし、任せっきりは良くないし!」
彼女の言葉に作業を一度止める二人。彼女らはお互いに顔を見合わせ、一緒に笑い声を上げた。そんな二人の反応に、実連はポカンとしてしまった。
「ごめんごめん、そう言えばそうだったね。実連は気にしなくていいよ。私達も一時的とは言え、住ませてもらってるわけだし」
「うんうん。私も自らやってるし、実連はそんなに気を使わなくてもいいよ!」
二人に言われ、渋々席に着こうとする実連。だがその時、異常事態が起こった。
「な、なに⁉︎」
突如大きな揺れのようなものが起こり、彼女らは明らかに異変を感じる。地震ではない、何か。実連は慌てて家を飛び出した。
階段を駆け下り、道路へと飛び出す実連。彼女は左右を見渡し、周囲の状況を伺う。すると、遠くの方で爆発音が響き渡る。
「あそこは…神社か!」
彼女の指す先は、山の表面に位置する神社。そこから爆発が起こった為に発生したであろう、爆煙が上がっていた。
「よし、早速——」
「みれーん!」
彼女が走り出そうとしたその時、誰かが彼女を呼び止める。その声の主は、京佳であった。更には彼女の頭の上に座っている猫の状態のミユの姿もあった。
「またそうやって自分だけで行こうとする。少しは私達を信用しろと言ったじゃろ」
「ミユ、口調が戻ってる…」
「まあまあ。それで、さっきの爆発音は山から?」
「う、うん。あそこの神社から上がってる煙がそうだと思う。だけど、走って行ったら遅くなっちゃうよ」
そう言って頭を抱えて悩む二人。そんな彼女らを見て、ミユは怪しい笑いをしてみせる。
「お二人さん、忘れたのかい? 私が魔法を使えるということを」
「——あ、そっか! ということは、神社まで一瞬で行けるってことだね!」
「ご名答。さあ、私に捕まって」
そう言って彼女は京佳の頭から離れて人の姿に変わる。そして腕を伸ばして彼女らに捕まるよう命じ、そして唱えた。
「[転移]」
その言葉の直後、彼女達は姿を消した。
一方、先程爆発が起こった神社では、一人の少年が走り回っていた。その原因は、追われていたからだ。
「待ちな小僧! 逃がさないぞ!」
追いかけていた二人組のうちの背の高い一人が、そう叫びながら必死に少年を追う。もう一人の人物はというと、まるでランニングでもしているかのように走りながら、また声も掛けていた。
「えっほ、えっほ、えっほ」
「にっしっし、こりゃ好都合だったな、トム! 俺たちがちょうどこの辺りを探索している時に、脱走した賢者のうちの一人が降ってきたんだからよぉ!」
「ですね〜、ポルーの兄貴。ですけど、見た感じ他の賢者は見当たらなかった事を考えると、バラバラに散らばって転移した可能性が高いですね〜」
呑気に考察しながら話すトム。だがそんな彼に呆れる様子などなく、ポルーは黙々と少年を追いかけ回していた。
「それにしても兄貴、バテてきてませんか? 僕より遅れてますけど」
「ば、バカ! 言うんじゃねぇ! それよりも、二人で追いかけ回してても拉致があかねぇ。挟み撃ちするぞ! 俺は反対側から回るから、お前はそのまま追いかけ回せ!」
「えぇ、だったら兄貴が追いかけてくださいよ。僕は疲れてきたので、バテてない兄貴に変わりたいんですけど」
「う、うるさい! いいからちゃんとやるんだぞ!」
そんな風にして彼らは何故初めから行わなかったのかと言わせるようにして、挟み撃ちを行う事に。因みに彼らは、ずっと神社の建物の周りをグルグルと回っていた。
「マズイな。流石に疲れてきた…」
走りながら後方の確認をし、呟く少年。だがその後方確認が命取りとなり、前方を見ていなかった為に足に躓いてしまう。
「あっ!」
彼はそのまま転けて、体を地面にぶつける。痛がりながらも体を起こすが、そうしている間に彼は追い込まれてしまっていた。
「な、しまった!」
「ふっふっふ、残念だったな、賢者よ! 大人しく俺たちに捕まりな!」
「おー、兄貴悪役っぽーい」
「お前は冷かさずにさっさとそいつを捕まえろ!」
返事を二回ほど続けてし、少年へと手を伸ばそうとするトム。彼は悟った。ここで終わるのだと。だがその閉ざされた道は、ある者によって切り開かれる。
「ちょっと待ったぁ!」
一人の女の声。その声のした方を見てみると、声を出したであろう人物に加え、もう一人の同年代ぐらいの少女と、その少女の頭の上に乗った猫が居た。
「幼い子供に酷いことする奴は、どこのどいつだぁ!」
「実連…なにその台詞…」
若干笑いを抑えながらも問いかける猫を頭に乗せた少女。何かおかしいかと慌てた様子ながらも焦る実連であったが、首をブンブンと振って声の調子を整えて言い直した。
「子供に手を出す奴は許さないぞ!」
「なんだ嬢ちゃん、ヒーローごっこでもしてるのか?」
「ひ、冷やかしは無用! お、大人しくその子を解放しなさい!」
そんな震えた声ながらも、必死に呼びかける実連。だが、怯えた様子である事を悟った二人組の兄貴ポルーは、怪しい笑顔で言った。
「ははーん、お嬢ちゃん、もしや怖いのか?」
「だ、だから冷やかしは無用だと——」
「冷やかしじゃないさぁ!」
彼女の言葉を遮って走ってくるポルー。そんな彼の行動を見て呆れるトム。実連は慌てて逃げ出した。
「やれやれ…困った兄貴ですよ全く…」
「ねえあんた、悪い事は言わないからあの変態男と一緒に帰ってくれない?」
気を強く持って、残ったもう一人の男に声を掛ける京佳。トムは暫く彼女を見つめる。すると彼は、彼女の頭の上にいた猫へと視線を向ける。そして何を思ったのか、溜息を吐いて言った。
「分かりましたよ。ここは引き下がらせてもらいます。どうやら貴方は武術家か何かのようですし、僕じゃ適いそうにありませんしね」
彼はそう言い残して、実連を追いかけるポルーへと声を掛ける。
「兄貴、ここは下がりますよ」
「はぁ? トム、何言ってやがる。ここで逃したら、俺たちの報酬が…」
「大丈夫です。機会はまだありますから」
そんなよく分からない説明を聞きながらも、ポルーは渋々トムの方へと戻り、そのままその場を去っていった。
残された彼女達は、思い出したかのように少年の方へと寄り添う。
「大丈夫? だいぶ酷い怪我だけど…」
「あ、ああ。これはさっき転んで…って、何でお前達は俺の事を助けてくれたんだ?」
少年もまた、思い出したかのようにして問い返す。彼の質問に二人は顔を見合わせつつ、何と答えようか考えていると、京佳の頭の上にいた猫が少年の元へと降り、近付く。
「な、何だよ…」
若干怯えつつ、近付いてきた猫に威圧を掛ける少年。彼の反応を見た猫は、溜息の様なものを吐いて、その場で一回転して姿を変えた。
「え…? もしかして、ミユ…?」
「もしかしなくともそうじゃ。何故分からんかったのじゃ?」
「そりゃあ、ミユの猫の姿を一回も見た事ないからに決まってるだろ」
彼の答えに、はてと疑問符を浮かべるミユ。だが、彼らにのんびりしている時間は与えられなかった。
「な、なに?」
突如騒めき出す森。鳥達が一斉に飛び立ち、不気味さを醸し出す。そして何かを感じた二人は、実連と京佳に行った。
「魔物が来るぞ」
「姉ちゃん達は下がってな!」
彼女らは言われるがままに近くの茂みに姿を隠す。そしてそのタイミングと同時に、木々の奥から異様な魔物が姿を現した。
ポルーの兄貴と子分でもあり相方でもあるトムの二人組は、今後も登場致します。
なんとか少年を助けた実連達でしたが、どうやら魔物が襲ってきた模様。無事撃退できるのでしょうか?