『現れた怪物』
[前回のあらすじ]
京佳が実連のアパートに遊びに来る事になった。だが、彼女の部屋には黒猫少女のミユがいる。いったい彼女はどうするのかッ!
翌日。仕方なく昨夜は考える事なく眠ってしまった実連。ふと目を覚まし欠伸をして時計に目をやると、時計の針は既に十時を指していた。
「ああ! 寝すぎたぁぁあ!」
頭を掻き回しながら後悔の念に押しつぶされそうになっていた彼女。そんな彼女のいた寝室にエプロンをした一人の少女が入ってくる。
「いつまで寝とる。ご飯にするぞ」
「あ、ミユ。私のお母さんみたいになってるな〜」
トホホ…と溜息を吐きながらも、着替えを始めた。
着替えを終えた彼女は欠伸をしながら食卓へと向かう。するとそこには、ホカホカの白御飯に味噌汁、焼き魚にサラダが置かれていた。
「冷めないうちに食べるように」
ミユはコップに注がれたお茶を置いてから言った。実連は笑顔で彼女に礼を言って挨拶をする。そんな彼女が食事を半分くらいした時、ふと思い出したようにミユに問う。
「ミユは御飯食べないの?」
「儂はもう食べた。それにマナがある限り、食事を摂らなくても大丈夫じゃからな」
へーと言いながら焼き魚の身を口に運ぶ。そしてまたもや思い出したかのようにして彼女は問う。
「そういや、どうやって料理したの? ミユの背だと届かないでしょ?」
「ん。そのことか。なに、儂専用の調理場を設けただけじゃ。こう言うのを確か、きぎょーひみつ? とか言ったかな」
そんな不確かな言い方で説明するミユであった。実連はいつの間にか食事を終え、食器を洗っていた。その台所の上に猫の姿になったミユが上って来て彼女に問う。
「それで、お主の友人はどうするんじゃ? 儂が会っても大丈夫かのう?」
「うーん、その事なんだけど。あの子動物苦手でさー。あと面倒見は良いんだけど、人一倍真面目で。ペット禁止の事も言われかねないし…例えミユが人の姿になってたとしても、なんて説明すれば良いのやら…」
悩みながらも手を動かす実連。ミユも猫の状態ながらも悩む仕草をしていたが、ふと思いついたように人の姿へと変わる。
「儂を隣人か誰かの子供にすれば良い。親が仕事で面倒を見ていると言えば、彼女も納得するのではないかな?」
「おお! だけど大丈夫かなー。不安だ…」
そんなこんなで作戦は成立。約束の時間まで彼女らは暇を潰した。
時刻は午後一時過ぎ。時間が過ぎても来ない京佳に、不安を抱く実連。そんなソワソワした様子の彼女に、ミユは呆れながら言う。
「そんな慌てるでない。少々遅れる事だってあるじゃろ」
「そうなんだけど…京佳に限って遅刻なんて珍しい。あの子いつも数分前には来る計画上手な人なんだけど。連絡しても帰ってこないし…もしかしたら、何かあったのかも!」
不安が彼女の心に押し寄せ、居ても立っても居られなくなってしまい外へと飛び出す。だが、ミユは追いかける事なく正座をしてお茶を飲んでいるだけであった。
「京佳に何かあったら、私…!」
息を切らしながら道を走る実連。そんな時、突如として雲行きが怪しくなる。
「な、なに⁉︎」
辺りの景色は一転して、薄暗い森のような場所へと変わる。なにが起こったのか理解が追い付かなかった彼女は、尻餅を付いて辺りを見渡す。するとその木々の間から何体かの人間ではない何かが現れる。
「なんなのいったい!」
彼女はそこから離れようと腰を上げようとしたが、何かが足と手を拘束して離さない。身動きが取れなくなってしまった彼女は、絶望感に晒されてしまう。
——殺される…!
死を悟った彼女は目を瞑って心の中で思う。だがその時、彼女の目の前にいた化け物達が爆発に飲み込まれる。
「[爆発]。全く、厄介な事になった」
「ミユ…! 助けに来てくれたんだね!」
絶望の淵に立たされていた彼女は、ミユの助けにより希望を取り戻す。そしてミユは彼女を拘束していたものを破壊し、彼女は自由の身となる。だが、休んでる暇は無い。先程現れた木々の間から、またもや化け物達が姿を現してくる。
「此奴、どんどん姿を現しよる」
何か案はないかと思考を巡らせる実連。すると、ある答えを導く。
——こう言った時は、だいたい化け物達を出す何かがいる。つまり、それを倒せばこの騒動を抑えられる。
その考えをミユに告げると、彼女はニヤリと口を動かした。
「なるほど。なら強行突破じゃ!」
化け物の群れを超え木々の間に向けられたその杖は、眩い光を帯びる。そして彼女は言う。
「しっかり付いてくるんじゃ。[爆発]!」
直線上に起こったその爆発を追うようにして、彼女らは走る。そして木々の間を通ると、又もや景色が一転した。そこはまるで下の見えない塔の上の様な景色だった。
「どこ? ここ…」
先程から景色が一転するばかりで状況をイマイチ追えていない実連。そんな彼女とは対照的に辺りを見渡し警戒するミユ。そして突如自分達を覆う影が現れ、注意を促す。
「避けるんじゃ!」
実連は判断が遅れてしまったが、ミユに背中を押され間一髪危機を流れる。だが、彼女は目を疑った。降ってきた鳥籠のようなモノの中に、自分の知る人物が閉じ込められていたのだから。
「京佳! 目を覚まして!」
その人物は、彼女の友人である京佳であった。しかし、彼女は気を失っているのか強制的に眠らせているのか反応は無かった。するとその鳥籠の後ろから植物の怪物が姿を現す。
『ぐっふっふっ…この女はマナを回復するのに丁度良い。オマエらにこの女を救えるかな?』
その台詞を言ったと同時に薙ぎ払われる植物の腕。実連は跳んで回避し、ミユもまた回避した直後に杖を怪物に向けて言う。
「植物にはこれじゃ。[火炎玉]」
その呪文と共に放たれる炎の玉。怪物は避けることが出来ず、呆気なく燃やされ跡形も無く姿を消した。そんな一瞬の出来事に、実連は目を点にしていた。
気付けば景色は元通りに。先程までの景色が変わった面影は一切無かった。すると、彼女は思い出したかのように言う。
「あ! 京佳、大丈夫⁉︎」
地面に倒れ込んだ京佳を揺すり起こそうとする実連。すると、彼女は唸りながら瞼を開く。そして先程まで眠っていたかのように目を擦り、伸びをして実連に聞いた。
「あれ? 私なんでこんな所で寝てたんだろう?」
「えっと、それは…」
「それは此奴の家で話すとしよう」
「ちょ、ミユ…!」
言い訳を考えようとした実連であったが、ミユは無理矢理割り込んできたことによりそれは止められる。そしてミユの存在をどうにか誤魔化そうとしていた実連であったが、彼女自ら姿を現してしまった為、今更言い訳することも出来なかった。
「実連、この子誰?」
「え…えーっと、その…」
「ほら、早く行くぞ」
悩む実連の事を気にせずに、ミユは二人の手を引っ張った。
再び登場、主人公ちゃんの一番の仲良しでもある京佳さん。彼女は少々めんどくさい性格でもありますが、優しくて頼りのある人でもあります。
主人公ちゃんの話をちゃんと聞いてくれるのでしょうか?