『少女とお爺』
[前回のあらすじ]
剣士見習いの少女は不思議な猫少女と出会った。以上ッ!
翌日。少女は布団の上で目を覚ます。眠たい目を擦りながら体を起こし、欠伸をしながら軽く伸びをする。
寝ぼけた状態ながらも前をまっすぐ見据えていると、一人の小さな少女の姿を目にする。
「う…うわぁ⁉︎」
まさか少女がいるとは思わず、つい驚きの声を上げて後ずさりしてしまう。その様子を見た小さな少女は、首を傾げながら不思議そうに見つめていた。
「ななな、なんでここにいるの?」
「忘れたですの? 昨晩の出来事を」
「昨晩…?」
幼い少女に言われ、思い出そうと試みる少女。そして彼女は直ぐに思い出した。
「思い出した! 猫から変身したあの子だ!」
「当たりですの。普通の人間に非日常な出来事は刺激が大きすぎたですの」
そんな個人の話をしながら、猫の耳と尻尾を動かしながら少女ハナは目の前にいる人間へと近づく。いったい何をされるのか。分からない恐怖で目を瞑る少女。そんな彼女だったが、突如右手に温もりを感じた為、思わず目を開けた。
「な、何をして…」
「あなた様にお願いがあるですの。どうか私と——契約を結んでくれませんか?」
お願い…? 契約…? いったい何の話をしているのか、ハナの言葉に少女は全く理解が出来なかった。
「え…えっと、契約って、どんな…?」
「これは失礼したですの。私としたことが、説明をすっぽかしてしまったですね。私がお願いする契約とは、私に魔力を分けてもらう契約の事。こっちの世界に来て、魔力の回復が異常に遅く、魔法の使用に制限があって困ってるですの。だから、あなた様に頼まさせていただいたですの」
淡々としたハナの説明に、少女はポカンと口を開けながら話の終始を聞き終える。そして我に帰り、思考する。
——魔力の供給を手助けする契約…だが、彼女が本当に悪い奴じゃないという確証はない。もし私が彼女に力を貸した事で良からぬ事が起きてしまったら、私はその責任を取ることが出来るのか?
いいや、考えるのはもうやめだ。いつなんどき起こるか分からない目の前の出来事に目を背けるの止そう。今から行う行為は彼女を助ける行為だ。私は、人を救う。
「分かった、契約しよう。あと心配な事があるんだけど、私の体に害を及ぼす事は無いよね…?」
「ご心配無用。あなた様に危害が及ぶことは、心配しなくとも無いですの。それじゃあ早速、始めさせてもらうですの」
そう言ってハナは再び少女の手を握り、何かを詠唱し始める。眩しい光に照らされ、彼女は思わず目を閉じる。
「——終わったですの。契約成立ですの」
「え? もう終わり? 何か変化はあった?」
「それはもちろん。どんどん魔力が溢れてくるですの。本当に助かったですの。感謝するですの」
そう言ってハナは少女に飛び付き、飛び付かれた彼女は思わず地面に倒れてしまう。だが、彼女は決して悪い気分では無かった。寧ろ、ハナの喜ぶ様子を見て自然と嬉しさが込み上げた。
すると、突如部屋の仕切りである襖が開き、その先には一人の老人が立っていた。その老人は少々機嫌が悪そうに少女に言う。
「未沙よ、いつまで寝ておる。さっさと起きて朝の稽古を——」
「あ、お爺。ごめんなさい、今から支度するね!」
未沙と呼ばれた少女は体の上に乗るハナを持ち上げて横に置き、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
残されたハナと未沙の祖父であろう老人。ハナは興味深そうに老人の方へと視線を移して見つめる。見つめられた老人もまた、ハナの容姿に興味を示しながらも、横目で見つめていた。
そんな静寂な中での見つめ合いが起こっていたが、未沙が戻ってきた事により静寂は破られる。
「お爺、準備出来たよ…ってあれ? 二人とも、見つめあってどうしたの?」
彼女の問いにハッとした彼らは、彼女の方へと詰め寄った。そして、口々に聞いた。
「ねぇ! このお爺さんはいったい何者ですの⁉︎ 明らかに他の人とは違うですの!」
「未沙よ! この子供は何者じゃ! 獣の耳に尻尾、どうもこすぷれと言うものには見えん! 後どこで拾ってきた!」
その勢いのあまりに、未沙は順番に応える事が出来なかった。
ハナと未沙のお爺さんは仲良くなりそうですね。一方の未沙は大変になりそうですが、どうなります事やら。