第八話 謁見
「タケダ・イチノジョウ国王陛下に置かれましては、私の婚礼の折にお会いした時と、些かもお変わりなく。シナノ王国王家、並びに貴族、領民に成り代わりまして、心よりお慶び申し上げます」
王城の謁見の間には、シナノ王国の王女三人が跪いていた。本来はここにモモカも加わるべきだろうが、すでに彼女はこの城に滞在中である。従って謁見は目の前の三人のみ、というわけだ。
「長旅大儀であった。面を上げられよ」
長女、つまり第一王女のシズカは威風堂々とした佇まい。三女のユイカは屈託のない笑顔を浮かべ、四女のトモエは顔を赤らめて、ちらちらと俺を上目遣いで見ていた。
なお、彼女たちの傍らには、それぞれ侍女が一人ずつ付き添っている。
「改めまして、私はシナノ王国第一王女オガサワラ・シズカ。陛下からご覧になって右が第三王女ユイカ、左が第四王女のトモエにございます」
「うむ。覚えておる。皆、息災であったか?」
「はい。我が父王陛下も含め、病に伏せることもなく、安寧に過ごしております。これも偏に帝国を滅ぼし、シナノと同盟関係を築かれたイチノジョウ陛下のお陰と、日夜感謝の念に堪えません」
「義兄上様、モモカはご迷惑をおかけしておりませんか?」
「これユイカ、陛下とお呼びなさい」
「構わん。余もシズカ殿のことは義姉上と呼ばせてもらおう。ユイカ殿、モモカ殿のことは心配ないぞ」
「義兄上様、お会いしとうございました」
そこで声を上げたのはトモエだった。彼女の瞳はうっとりと潤んでおり、そこにはどうやら俺しか映っていないようだ。
「其方と言葉を交わすのは初めてだったな」
「いいえ、もう何度も愛を……うぐっ」
「し、失礼致しました」
何かとんでもないことを口走ろうとしたトモエの口を、慌ててユイカが塞いで頭を下げさせている。人見知りで夢見がち、その性格の後者の方が表に出てきたというわけか。
「そ、そうか。三人とも、夕餉は盛大に宴を催す。それまではミノリとモモカ殿と共に過ごされるがよかろう」
「陛下、私はお願いの儀がございますので、後ほど執務室をお訪ねしてもよろしいでしょうか」
「お願いか。構わぬよ、義姉上」
「姉上、私も!」
「なりません、トモエ」
「トモエ殿、時間はたっぷりあるのだ。今回は遠慮致せ」
「うぅ……義兄上様のいけず……」
いけずって。モモカといい、シナノの末姫は二人とも困ったものだ。
「では、また」
それ以上取り合わず、シズカがそう言って頭を下げると、トモエも渋々従うように頭を下げた。そんな妹を、ユイカが苦笑いしながら宥める姿は、何となく微笑ましくもある。そんなことを思いながら執務室に戻ると、先ほどの言葉通り、シズカが侍女を伴ってやってきた。
「失礼致します。ヤエはそちらに控えておりなさい」
「構わぬ、義姉上。侍女殿も入られよ」
「ははっ! 失礼致します!」
「この者はムツギ・ヤエと申します。我がシナノ王国の侍女頭で、槍術においては殿方にも引けを取らない腕前にございます」
「ヤエ殿と申すか。長旅大儀であった」
「勿体ないお言葉を賜り、このヤエ、恐悦至極にございます」
「うむ。二人とも、そこに座られよ」
俺はソファを指し示し、自分もテーブルを挟んだ反対側に腰かけた。その様子を見て、メイドのアマノ・カスミがすぐさま紅茶を運んでくる。初めの頃はおどおどしていた彼女も、何度か俺とのやり取りがあったせいか、今では堂々としたものだ。
「して義姉上、願いとは何かな?」
「すでにお耳に入っているとは存じますが……」
そこでシズカは、例の四つ辻でのことを語った。領民たちの前に、もう一度姿を見せる機会を作ってほしいという願いだ。
「確かに聞いておる。それについては余も異存はない。シナノ王国の艶やかな姫たちの姿を、我が領民に存分に見せてやるがよかろう」
「艶やかとは、陛下もお口がお上手ですこと」
ふふふ、と彼女は笑って続ける。
「陛下のお好みが、私たちではないことは存じておりますわよ」
「なんだ、気づいていたのか」
「ま、まあ! ここはたとえ嘘でも、慌てながら否定するところですのに」
「すまんな。相手が義姉上とは言え、余はこの国の王なのだ。簡単に狼狽えた姿を見せてやるわけにはいかんのだよ」
本当は少し驚いたんだけどね。まあ、オガサワラの義父にも気付かれているようだし、それが公になったところで、どうということはないだろう。
「そこでだ、義姉上。余は義姉上の願いを叶えるために、盛大に祭りを開こうと思う」
「祭り、ですか?」
「期間は三日間。義姉上たちには初日と三日目に露台に立って頂く。初日には祭り幕開けの号令を。三日目には締めくくりとシナノへの旅立ちの挨拶を頼む」
「正式にお披露目下さるということですね?」
「それだけではない。二日目には城下を馬車で行進だ。楽隊と護衛を引き連れて、な」
おそらくこのパレードは千人を超える規模となるだろう。当日は街道を封鎖し、沿道の警備も厳重にしなければならない。そのための人手の確保も、俺はすでにダイゼンに命じていた。
「まあ! ほら、ご覧なさい、ヤエ」
「は、はい……」
「うん? どうしたのだ?」
「いえ、シナノを発つ折に、こんなこともあろうかと、いくつかの衣裳を持って出ると申しましたら、このヤエが反対したのです。大荷物になるから、と。でも、間違っていなかったでしょう?」
「はい……」
それであの大行列になったというわけか。きっといくつかの、とは相当な数なのだろう。それも三人分だ。侍女が反対するのも無理はない。
「なるほど。時に義姉上、余からも一つ頼みがあるのだが、聞いてはもらえまいか?」
「あら、陛下からのお頼みとは、もちろん、聞かせて頂きますわ」
ここからは侍女のヤエを下がらせ、カスミたちメイドさんも扉の外に出して、俺は義姉にある計画を持ちかけるのだった。
次回、第九話『エチゴ屋の企て』
11/30(土)更新予定です。




