第七話 祭りを催すというのはいかがでしょう?
「まずはこの盛大なる歓迎に、シナノを代表致しまして、心よりお礼申し上げます」
澄んだ声は周囲の建物に反響し、多くの聴衆の耳に届いていた。シナノ王国第一王女、先は王妃となるオガサワラ・シズカは、傍らに妹二人を立たせて、悠然と集まった民衆を眺めた。
突然広場の噴水前に壇が築かれ、煌びやかな衣装を身に纏った他国の姫たちが姿を現すと、民衆の興奮は最高潮に達する。三人とも優雅で気品に溢れ、その上美しい。この時ばかりは四女のトモエも、ぬいぐるみは手にしていなかった。
「先にこの地に参りました末の妹、モモカのことは、ご存じの方もいらっしゃることでしょう」
モモカは今や、このタケダ王国にあってアイドル的存在である。シズカの言葉に対する群衆の応えは、割れんばかりの拍手だった。
「申し遅れました。私はシナノ王国第一王女、オガサワラ・シズカ。こちらが第三王女ユイカ、そして第四王女のトモエです。タケダ王国の皆様には初目見えとなります。どうぞ、お見知りおき頂きますよう」
「王女様、バンザーイ!」
「シズカ様ー!」
「ユイカ様ー!」
「トモエちゃーん!」
声援はしばらく続く。それを微笑みながら、落ち着くのを待ってシズカは言葉を続けた。
「此度、私たち姉妹がこの地を訪れたのは、まず一つに、タケダ国王陛下へのご挨拶。次に皆様にお会いすること」
ここで再び声援が大きくなった。社交辞令とは分かっていても、民衆にとっては嬉しい言葉なのである。
「そして、ついでにモモカを迎えに来ることでした」
本来の目的をついでとしたことで、拍手と笑いが巻き起こった。
「ですが、これほど多くの方々に歓迎して頂けると、もうシナノに帰りたくなくなってしまいます」
美人の姫が、少し甘えたような口調で言ったものだから、男たちのハートは一気に鷲掴みされてしまう。
「帰らなくていいよー!」
「シズカ様-、結婚して下さい!」
「ユイカ様ー、婿にして下さい!」
「トモエちゃーん!」
「あらあら、結婚して下さいだなんて、照れてしまいます」
シズカも心得たもの。その微笑みは、男たちにしてみればまさに天使のそれに見えたに違いない。
「ご存じの通り私たちは王族ですので、皆様にお会いしたくても、そう簡単にお会いすることは出来ません」
今度は落胆のため息があちこちから漏れる。しかし、彼女の言葉はさらに続いた。
「ですが、私はまた皆様とこうしてお会いしたい。そこで私たちの滞在中、もう一度皆様にお会い出来る機会を作って頂けるよう、タケダ国王陛下にお願いしてみようと思います。その時は、モモカも一緒となりましょう」
「うおーっ!」
ため息から一転、怒濤のような声援が湧き上がった。シズカは、姉妹の中でもずば抜けたモモカの容姿が、人々を魅了することを熟知していたのである。
「数日のうちに布令をお出し頂けるかと思います。それまで皆様、しばしお待ち下さいね」
この締めの言葉で、三人の姉妹は深々と腰を折り、馬車に戻っていった。
「王女殿下のお発ちである。道を空けぃっ!」
騎兵隊の先頭でマツダイラが叫ぶと、王女の登場に満足した民衆たちは、静かに左右に割れる。こうしてシナノ王国の一行は、沿道からの変わらぬ声援に送られて、改めて王城に向かうのだった。
「ほう、そのようなことを申したか」
俺はマツダイラ閣下から、いち早く報告を受けていた。シナノの姫たちはすでに王城に到着しているが、身支度を整えてからの謁見となるため、時間的にはまだ余裕があるのだ。
「いかがなさるおつもりですか?」
「機会は与えてやらねばならないだろう」
「しかし今度こそ危険が……」
「マツダイラ、これはお願いという名の領民たちとの約束なのだ。あの王女、なかなかやるな」
「本当に、許可なさるのですか?」
「とは言え、言うなりでは能がない。それに、ちょうどいいネタも入ったところだ」
「いいネタ、ですか?」
「薬価のことでな。先ほどモチヅキ・イズモが報告に来た」
「なんと! ではやはり城下の薬価は何者かによって吊り上げられていたと?」
「そのようだ。よって、こちらも策を練らねばならん」
俺はマツダイラ閣下にも、何かいい案がないか尋ねてみた。
「そうですね……では、祭りを催すというのはいかがでしょう?」
「祭り?」
「大きな祭りですと、かつてオオクボ王国で開かれた、アヤカ殿下の裳着の式典ですとか」
そうだ、あの祭りで俺はユキたんと初めて知り合ったんだ。懐かしい。
「面白いな。よし、祭りにしよう。布令の準備をさせろ。瓦版のシバ刷屋にも知らせてやれ」
「御意」
マツダイラ閣下は言うと一礼し、執務室を出ていった。ほどなくキミシマや、他の主だった者たちも忙しなく動き始めるだろう。
シナノの姫、特に義姉との勝負に悪党の大掃除か。一気に片を付けるには、祭りは好都合とも言える。どんな祭りにするかは、今夜にでも妻たちを集めて意見を聞いてみればいいだろう。
俺は一人、そんなことを考えながらほくそ笑むのだった。
次回、第八話『謁見』
11/28(木)更新予定です。
※この日は私の誕生日なもんでσ(^_^;




