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エピローグ

「ユキはやはりさすがだな」


 やむを得ずせっかくの買い物が中断となり、俺たちは警備隊員に護衛されて市場(いちば)を出た。チョウキチ一味の連行は、キュウゾウが非番だったこともあり、警備隊に一任されることになったのである。


「あの太刀(たち)(さば)き、惚れ惚れしました!」

「キュウゾウ親分さん、あなたがスケサブロウ殿を負かす日がきたら、その時は私が稽古を付けて差し上げましょう」

「で、ではやはり王妃殿下はスケサブロウ様よりも……」

「本気で戦えば、万に一つもスケサブロウに勝ち目はないと思うぞ」


 トウジョウ子爵の一件でユキたんの太刀筋は目にしているはずだが、実際に奴を倒したのはアカネさんだった。だからキュウゾウの記憶には残らなかったのかも知れない。


「だがスケサブロウも騎兵隊の剣術指南役だ。まだまだお前では足許にも及ばんだろう」

「親分さん、私が応援してます。頑張って下さい!」

「カスミ殿、ありがとう」

「さて、我々は城に戻るしかないが、お前たちは続きを楽しむがよかろう」

「そんな、私も陛下の護衛を……」

(たわ)け者。お前はカスミを護っていればいい」


 それにな、と俺は続ける。


「騎士とは言え、目明(めあ)かしごときに()の護衛を任せられると思うか?」

「はっ! も、申し訳ございません。ご無礼を申し上げました」

「構わん。ほら、もう行け」

「そ、そうだ陛下」

「うん?」

「カスミ殿を、これからもよろしくお願いいたします」

「ちょ、ちょっと親分さん!」

「心得ておる。心配致すな」


 俺たちはキュウゾウカップルを見送りながら、警備隊に護衛されて城に戻るのだった。




 そんなことがあった翌日のことである。


「陛下、面白いものが城下に出回っておりますぞ」

「面白いもの?」


 言いながら家令(かれい)のキミシマ・ダイゼンが俺に差し出したのは瓦版(かわらばん)、現代で言うところの新聞の号外のようなものだった。四枚中、二枚が記事、残りが挿絵である。そこにはどうやら、先日の市場での出来事が書かれているようだ。


『城下の大掃除。天晴(あっぱ)れ国王陛下は我らの味方』


 そんな見出しが躍る中、同じくらいの枠、つまり丸々一枚を使ってモモカのことも取り上げられていた。


『驚いたのは陛下と共に御座(おわ)したシナノ王国の王女殿下だ。その姫の可憐さたるや、(まばた)き一つで世の男性ばかりか、女性すら虜にするほどだった。あれほどの美しさは王国広しと言えど、二人といないだろう。まさに天女様である』


 さらに記事は続く。


『一方、誰もが知る城下の鼻つまみ者。その名を聞けば美味い酒さえ不味くなる。そう、チョウキチだ。このゴミのような男に、天女様が鉄槌を下された。市中引き回しの上、獄門(ごくもん)である。いつ行われるかはまだ御触(おふ)れが出ていないが、近々であることは間違いないだろう』


 それとシナノ王国にも触れられている。


『シナノ王国とは、かつて帝国が西方諸国を統治していた頃、率先してタケダ王国に寝返り、我が国の勝利、()いては帝国の滅亡に大きく貢献した同盟国でもある』


 庶民は基本的にあまり国外のことを知らない。俺がタケダの王になる前、まだオオクボ王国で暮らしていた時もそうだった。だから瓦版を書いた探訪(たんぼう)員は、その辺りの事情にも精通していると思われる。


 そこで俺は瓦版の版元に興味を持った。通常の瓦版はほとんどの場合、探訪員が記事を書き、そのまま売り子も兼ねる。分かりやすく言うと、個人事業主ということだ。


 だが、(こと)この瓦版に関しては前日の出来事と共に、俺やモモカの姿がそれぞれ一枚ずつを使って描かれている。とても一人で出来る仕事ではないだろう。加えて内容が内容だけに、相当数売れたに違いない。刷るだけでも一苦労だったはずだ。


「ダイゼン、この瓦版の版元のことは知っているか?」

「最近、城下で開業したシバ刷屋(すりや)でこざいます。ニシ町にある、通常の倍ほどの広さの部屋を売りにしているヤジロウ長屋の一室で、主のシバ・タイゾウ含め四人で営んでおります」

「なるほど、四人か」

「他に何人かの売り子も雇っているようです」

「そんなに売れているのか?」

「領民には人気があるようです。内容も()る事ながら、絵が美しいと」


 確かに俺とモモカは、かなり写実的に描かれている。ダイゼンも、その描写力に驚いているほどだ。


「領民の関心事を知るにはいい材料かも知れんな」

「まさか陛下、瓦版のために城下にお出になる気では……」

「そんなことをしなくても、届けさせればよいではないか」

「しかし瓦版は、時に(まつりごと)への批判を書きたてることもございます」


 それは分かっている。政に対する批判は王族に対する批判、つまりは反逆罪に問われてもおかしくない。しかし俺は、そんなものをいちいち取り締まるつもりはないし、実際に命じたこともない。領民の鬱憤(うっぷん)が晴れるなら、可愛いイタズラ程度にしか考えていないからだ。


 もっとも、瓦版を売る方にしてみれば、俺の考えなど想像もつかないだろう。だから彼らは、基本的に顔を隠して売り歩く。目明かしたちに目を付けられないようにするためだ。


 ところがシバ刷屋という版元は、どうやらそれらと根本的に違う動きをしている。このことに、俺は深く興味を抱いたというわけだ。


「すまんがダイゼン、一度そのシバ・タイゾウという者と会ってみたい」

「ご命令、ということで呼び出せばよろしいでしょうか?」

「いや、無理強いはするな」

「それですと応じるかどうか……」

「応じれば、四人で城の中を見学させてやると伝えろ。無論機密に関する場所には入れてやれんが、見た物は記事にして構わん、とな」

「陛下!」


 特集として定期的に刊行させるのも悪くないと思う。それが売れれば、彼らにとってもメリットになるはずだ。さらに、城内のことを瓦版という手段で領民に(しら)せれることにより、孤児たちの里親も見つかるかも知れない。


「ダイゼン、頼んだぞ」


 俺の言葉に、ダイゼンは渋々という感じで頷き、執務室を出ていくのだった。

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