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第二話 手討ちにせよと仰せなら私が……

「どうしたキュウゾウ、今日は登城する日ではなかったはずだが?」


 城門を入ったところで声をかけてきたのはスケサブロウだった。キュウゾウは騎士の称号を得ると同時に、自分の雇い主であり王国騎兵隊剣術指南役の彼から週に一度、剣術を習っていたのである。だが、今日はその日ではない。


「迎えに来たにしては早過ぎるんじゃないか? アマノ殿はまだ仕事中だから会えんぞ」

「い、いや、違いますって。俺だってそのくらい分かってますよ」


 しかし、毎日彼がカスミを家まで送り届けるために、彼女の仕事が終わる時間を見計らって迎えに来ていたのは事実である。それはカスミと知り合うきっかけにもなったのだが、帰宅途中に彼女が襲われたことがあったからだった。


「ん? その二人は誰だ?」

「何でも城に知り合いがいるとかで、案内してくれって言うから連れてきたんです」

「知り合い? 女、知り合いとは誰だ?」

「お姉様です」

「お姉様? 名前を言ってくれなきゃ分からんぞ」


 怪訝(けげん)な顔をしながらスケサブロウが少女、モモカに言うと、彼女はショウコの後ろに隠れてしまう。


「無礼者! モモカ様に何たる振る舞い」

「い、いや、ショウコさんだっけ? スケサブロウの旦那は騎兵隊の方だから……」


 キュウゾウが慌てて間に割って入る。


「それに名前を言ってくんなきゃ、誰を呼んだらいいか分からねえじゃねえか」

「ミノリ……」


 するとモモカが消え入りそうな声で呟いた。


「え?」

「ミノリ!」

「ミノリって、それだけじゃ分かんねえって。家名(かめい)は?」

「控えなさい!」


 突然ショウコがモモカを庇うように立って大声を出した。


「こちらはシナノ王国第五王女、オガサワラ・モモカ殿下にあらせられます!」

「は?」

「え?」


 スケサブロウとキュウゾウは揃って唖然としていた。今、王女って聞こえたような気がするが。


「は! ま、まさかミノリとはミノリ王妃殿下のことか?」

「そのまさかです。無礼は許しません!」

「お、お待ち下さい。すぐにお取次させて頂きます!」


 スケサブロウはそう言うと、慌てて城の方に駆け出していった。彼の姿を見送りながら、キュウゾウと子分二人がその場に平伏(ひれふ)す。


「お、お、王女殿下とは知らずご無礼の数々、ど、どうかお許しを!」

「知らなかったことは致し方ありません。それより先ほどのならず者たち、必ず捕らえてモモカ殿下の前に連れてきなさい」

「は、はい! 必ず!」

「しかと、命じましたよ」

「ははっ!」

「モモカ? 本当にモモカなの?」


 その時、腰まで届く長い黒髪に、ほっそりとした色白の女性が駆け寄ってきた。ところが彼女を見たキュウゾウは目を疑ってしまう。このブサイクな女性が、異次元の美少女の姉とは信じられなかったからだ。もっとも相手は王妃である。口が裂けてもそんなことを言えるはずはない。


「お姉様!」

「モモカ!」

「お、キュウゾウ、久しいな」

「こ、国王陛下!」


 俺の登場に、キュウゾウたちは再びその場に平伏す。


「国王陛下? では貴方様がタケダ・イチノジョウ陛下であらせられますか」

「いかにも。其方(そなた)は?」

「はっ! 申し遅れました。私はモモカ殿下の侍女、ユキガヤ・ショウコと申します」

「そうか。随伴(ずいはん)大儀(たいぎ)。ところでスケサブロウが無礼を働いたそうだな」

「へ、陛下!」


 スケサブロウ君が抗議の声を上げるが、俺はそれを目で制した。


「はい。こう申し上げるのは失礼かと存じますが、配下の教育はきちんとなされた方がよろしいかと」

「なるほど」

「ショ、ショウコ、陛下に何ということを!」


 そこに会話を聞いていたミノリが慌てて口を挟んできた。俺はそれも目で制する。


「ユキガヤ殿と申したな」

「はい」

「では聞くが、其方は誰の許しを得て()に話しかけておる?」

「は……はい?」

「其方、爵位は?」

「ご、ございませんが」

「うむ。そうか」


 俺は腰から刀を抜いた。


「侍女風情(ふぜい)が、一国の王に許しもなく言葉をかけていいとでも思っているのか!」

「そ、それは……」

「へ、陛下!」

「ミノリは黙れ! あまつさえ余に苦言を(てい)すなど(もっ)ての(ほか)である。手討ちに致すからそこへ直れ!」

「お、お待ち下さい、義兄(あに)上!」


 俺とショウコの間に飛び出してきたのはモモカだった。


「義兄上……陛下! 何卒(なにとぞ)、何卒お許しを!」

「ならん!」

「ならば侍女の不始末は私の不始末! 手討ちにせよと仰せなら私が……私が……」


 モモカはガタガタ震えながらも、必死で侍女を(かば)おうとしている。その後ろで、ショウコは青ざめて焦点が定まらないまま身動き出来ないようだった。


「あ、あの、こ、国王陛下」

「ん? キュウゾウか。許す。申せ」

「わ、私からもお願い致します。その人は私の無礼を許してくれました」

「ほう?」


 これは意外だった。単に王族に仕えているから自分も高貴という、平民にありがちな勘違いをしているというわけでもなさそうだ。だが、一瞬の感心はキュウゾウの次の言葉で(はかな)くも帳消しとなってしまう。


「その代わり、殿下を襲った破落戸(ごろつき)共を捕らえて差し出せと」

「な、何だと?」


 俺は再びモモカの侍女、ショウコに厳しい視線を送るのだった。

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