表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/55

プロローグ

 タケダ王国第七王妃であるミノリの部屋を、彼女の実の妹であるオガサワラ・モモカと、その侍女のユキガヤ・ショウコが訪れていた。久しぶりの妹との対面ということで、現在はミノリと共にシナノ王国からやってきた侍女のオリハラ・サナエも、この部屋担当のメイドも皆席を外していたのである。


「モモカ、ムネナオ殿下のご他界は、さぞや辛かったでしょうね」


 実はミノリがタケダに嫁ぐ前から、モモカの縁談は決まっていた。相手はスルガ王国の第一王子。つまり彼女は本来なら、末はスルガの王妃となる予定だったのである。


 ところが二年ほど前、そのスルガの王子が病で他界してしまった。スルガには他にも二人の王子がいたが、すでに彼らには妻がいたのである。それでも十五歳のモモカは超がつくほどの美少女だ。二人ともこぞって彼女を(めと)ると言い出したが、モモカはそれを良しとしなかった。


「そうでもありません、お姉様」

「え? だってムネナオ殿下はかなりの美男子だったと聞いておりますよ」

義兄(あに)上ほどではありません」

「まあ……」


 モモカの呟きに、ミノリは思わず笑ってしまった。


「それよりミノリ殿下、実はムネナオ殿下は大変に好色なお方で……」


 ショウコの話によると、王子の好色ぶりは目を覆いたくなるほどだったらしい。スルガの王城に仕える女性のうち、よほどの醜女(しこめ)でもない限り、そのほとんどが彼の相手をさせられていたというのだ。しかも相手が王子という立場上、彼女たちが結婚などしてもらえるはずもなく、全てが泣き寝入りだったそうだ。


「あるいはムネナオ殿下のご病気も、泣かされた女たちの恨みによるものかも知れません」

「ショウコ、滅多なことを言うものではありませんよ!」


 ミノリが慌ててショウコを(たしな)める。二人は知らないが、この城には本物の幽霊がいるのだ。しかもその一人は自分の夫の妻であり、序列は自分よりも上なのである。こんな話を聞かされて気分がいいはずはない。だが、さすがにショウコもそうは考えなかったようだ。


「これは失言でした。故人を悪く言うものではありませんね」

「そ、そうですよ。先ほど陛下も(おっしゃ)っていたではありませんか。相手を敬えと」


 ホッと胸を撫で下ろしながらミノリは心の中で、つい今し方の夫の言葉を何度も反芻(はんすう)していた。


「はい! 陛下のお言葉、私にはズシリときました。あのようなお方の許に嫁がれたミノリ殿下が羨ましくさえ思えます」

「私も、義兄上は本当に素敵な方だと思いました!」


 妹とその侍女にまで夫を褒められるというのはのは、気恥ずかしさがある反面、この上なく誇らしい。自分があの人を愛したことは間違いではなかったのだ。ミノリがそんな風に考えていると、扉をノックする音が聞こえた。


「はい」

「王妃殿下に申し上げます!」


 どうやら衛兵のようだ。


「許します。申しなさい」

「国王陛下からのご命令です。玉座の間に、シナノの王女殿下と侍女の方を伴って参るようにとのことにございます」

「陛下が? 一体何のご用でしょう」


 ミノリは小首を傾げるが、それとは裏腹に目の前の二人は青ざめている。


「ま、まさか貴女たち、他にも何かやらかしたのですか?」


 実はこの二人、ミノリの部屋に通される前に一悶着(ひともんちゃく)引き起こしていたのである。それは国王に刀を抜かせるほどの重大事だった。


 自分の知る限り、夫である国王はどこまでも寛大だ。しかしだからといって、罪を犯した者を看過(かんか)することなど決してあり得ない。隠し事で誤魔化そうとしても、あの幽霊王妃とその一族が見逃すはずはないのである。


「一緒に謝ってあげますから、何をしたのか正直に言いなさい」

「お、お姉様、実は……」


 そこで妹のモモカから語られた事実に、ミノリは頭を抱えることしか出来なかった。


「すぐに参りますとお伝え下さい」

「ははっ!」


 彼女は扉の向こうの衛兵にそう告げると、二人を伴って玉座の間に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ブクマ、評価頂けたら嬉しいです★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ