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第二話 な、なんてぇ綺麗な人なんだ

 このところ目明(めあ)かしのキュウゾウは上機嫌だった。腰にはあの日、国王から贈られた一振りの刀がある。


「目明かしキュウゾウ、其方(そなた)に今この時、騎士の称号を与える」

「つ、つつ、謹んでお、お受け致します」

「うむ。城下の治安を守るため、一層励めよ」

「ははっ!」

「それでなキュウゾウ、これは()からの贈り物だ」


 そう言って家令(かれい)のキミシマを通して受け取ったのが、腰の刀というわけである。


「例の事件ではよい働きを見せてくれた。その褒美だ」

「も、もったいなきお言葉! ありがたく頂戴致します」

「弱きを助け強きをくじく、お前にはそんな目明かしになってもらいたい」

「身命を()しまして!」


 あの事件以来、城下は平和だった。ケンカや盗みがなくなったわけではないが、凶悪な事件というのは起こっていない。口入れ屋のカズサ屋も、主が代わってからは真っ当な商売をしているようだ。


「亭主! メシだ。今日はお墨付き料理はあるかい?」

「ああ、キュウゾウ親分さん。運がいいな、あと一人前だがあるよ」


 彼はとある一膳(いちぜん)飯屋(めしや)に入った。そこはかつて国王が墨付きを与えた店で、今でもその野菜料理は人気が高い。だから毎日食べたくても、週に一度食べられればいい方なのである。それが今週はこの日で三度目だった。少しは運が向いてきたのかも知れないと、キュウゾウは一人ほくそ笑んだ。


「はいよ、お待ちどおさま」

「おう、これこれ!」


 じっくり煮込まれた野菜と、その旨味がわずかも逃されずに溶け込んだスープ。肉は申し訳程度に入っているだけだが、それでも十分に満足出来る味だった。


「亭主、メシお替わりだ」

「親分さん、うちは一膳飯屋なんだけどね」

(かて)えこと言うな。金は払うからよ」

「はいはい」


 亭主が空になった丼を受け取って奥に下がった時、キュウゾウは店の裏の方から女の悲鳴が聞こえたような気がした。気がした、というのは声があまりに遠く、聞き違いかも知れないと考えたからだ。だが、目明かしになってからの、特に犯罪に対する勘は今まで外れたことがない。彼は器に残っていたスープを一気に飲み干すと、小銭を投げるように卓に置いた。


「亭主、お替わりはなしだ。金、置いとくぜ」

「あ、ちょっと、親分さん!」


 せっかく飯を盛り付けたのに、慌てて出ていくキュウゾウの背中を見送りながら、卓の上の小銭を見て亭主はつぶやいた。


「お替わりの分までちゃんと置いてある。律儀なお人だよ、まったく」




 確かこっちの方だった。


 一膳飯屋の裏手から延びる路地に入って、キュウゾウは辺りを注意深く、耳を澄ませながら歩いていた。するとそこで彼は髪留めが落ちているのに気づく。赤いビー玉ほどの大きさの丸い飾りが二つ付いたものだ。捨てられたというわけではなさそうで、薄汚れてもいないから落としたのはつい今しがただと思われる。


「間違いないな」


 彼はその髪留めを拾うと、足早に更に奥へと進む。すると、何やら人が争うような物音が聞こえてきた。


「やめて下さい! 返して!」

「ぎゃあぎゃあ(わめ)くんじゃねえ!」

「それは陛下から頂いた大切なお皿です! 返して!」

「へえ、アンタお城の人かい。こりゃあいいや」

「きゃあ!」


 男はおもむろに女の膝丈ほどのスカートを(まく)りあげた。白い下着がさらけ出され、慌てて彼女はスカートを押さえる。


「国王様からの頂き物ならさぞや高価な品なんだろうな」


 男は二人。一人は女の腕を掴み、やがて羽交い締めにする。もう一人の男はそれを見て、彼女から奪い取った包みを開けようとしていた。


「何をしている!」


 ただならぬ様子に、すでにキュウゾウは刀を抜いて構える。


「何だあ、お前。貴族か?」

「俺は目明かしのキュウゾウってモンだ」

「げ、親分さんかよ」

「大人しくその人を放して奪った物を返せ!」

「おやあ?」


 だが男たちは悪びれる様子もなく、脇差しを抜いて女の喉元に突きつけた。


「親分さんにしちゃ一人っきりかい? 子分はどうなさったんで?」

生憎(あいにく)俺は今日非番でな。見回りをしてたわけじゃねえからアイツらはいねえ」


 目明かしは基本的に一人では行動しない。最低二人の手下を連れて見回るのが普通なのである。


「そりゃご苦労なこって。非番なら非番らしく、俺たちに構わねえ方がいいんじゃありませんか?」

「何だと?」

「俺たちは二人、親分さんは一人だ。それにこっちには人質もいる。どう考えても親分さんに不利でしょう」

「貴様!」

「大人しく引き下がってくれりゃ、女は無事に返してやりますよ。ただし、お宝は頂きますがね」

「ふざけるな!」

「おっと、それでもやるってんなら女の喉をブスリとやりますぜ」


 脇差しの先がわずかに女の首を傷つけたようだ。赤い血が雫となって刀身を伝う。女はそれに気づいてガタガタと震え始めた。


「た、助けて……!」

「お前たち、その人がお城の人だと言ったな」

「それがどうかしやしたか? このお宝は国王様からもらった物らしいですぜ」

「ほう、奇遇だな」

「はい?」

「俺のこの刀も、国王陛下からの(たまわ)り物だ!」


 言うとキュウゾウは一気に踏み込み、振り上げる刀で女の喉に脇差しを突きつけていた男の、その手首を切り落としていた。


「へ? あれ? 俺の右手は?」


 勢いよく噴き出した血を見て、支えを失った女は顔面蒼白になって気絶する。キュウゾウは女という盾を失った男の腹に刀の峰を思い切り打ちつけ、一瞬で卒倒させていた。そして残るもう一人の男を壁に追い詰める。


「大人しくそれを渡せ」

「ひ、ひぃっ!」

「早くしろ! それとも貴様も手首を斬られたいか?」


 ブルブル震えながら、男はゆっくりとキュウゾウに包みを差し出す。それを受け取ってから、彼は男の首元に刀を振り下ろした。無論峰打ちではあるが。


「おい姉さん、しっかりしな」


 キュウゾウは女を助け起こしてギョッとした。


「な、なんてぇ綺麗な人なんだ」


 そこに騒ぎを聞きつけた近所の者が呼んだ警備隊が駆けつける。そして、我を忘れたキュウゾウ共々、全員が城へと連行されるのだった。

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