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エピローグ

 犯罪者共の裁定はかねてからの約束通り、シラヌイ組とトウジョウ子爵の手下たちは死罪から(つみ)一等(いっとう)を減じた遠島(えんとう)。ただし事の重大さを加味して期限は終生(しゅうせい)とした。そしてコウタは、目明(めあ)かしという立場だったことを加味して市中引き回しの上獄門(ごくもん)。カズサ屋兄弟にも同様の罪を与えたが、カズサ屋そのものはなくなると人足(にんそく)たちが困る。だから闕所(けっしょ)にはせずに、血縁以外の者に継がせるということで兄弟のみを獄門に処すこととした。


「一件落着でございますな」


 執務室で一息ついているところに紅茶を運んできたダイゼンが言う。今はこの場にユキたんとアカネさんもいる。


「そう言えばカメキチという男はどうなった?」

「その男でしたら、捜索を願い出た貴族の女が殺してしまっておりました」

「何だと!」

「どうやら自分のものにならないと嘆いたその者が、ならばいっそのことと(やいば)を突き立てたようで……」


 愛憎の悲劇ということか。しかしそれで捜索願いを出すとは太々(ふてぶて)しいこと極まりない。無論その貴族は家名(かめい)取り潰しの上、財産は全て没収となったらしい。


 なお、ヒョウドウ・ナミエという中年女性に関しては、遠島ではあるが島で飯炊きの役割を与えた。これは彼女自身が寝食(しんしょく)に困らないようにするためで、役割を担うことで三年の刑期が一年に短縮される。また、刑期を終えれば帰るも残るも自由で、残る場合は職員待遇というおまけ付きだった。


「それはそうと陛下」


 ユキたんが待ちきれない様子で語りかけてきた。


「うん?」

「マツダイラ殿とエマさんのことなのですが」

「そう言えばあの二人、うまくやっているのか?」

「陛下はお気づきになりませんか?」

「気づく? 何にだ?」

「マツダイラ殿の最近の身だしなみです」


 言われてみれば茶髪の癖毛は相変わらずだが、太い眉もそれなりに整えられ、口髭(くちひげ)にも気を遣っている様子が窺える。


「確かに、以前と比べて小綺麗に感じるな」

「やはり陛下もそうお感じになられますか?」

「うむ」

「エマさんがなさっているそうですよ」

「そうなのか?」


 これは驚いた。あの無骨(ぶこつ)さが鎧を着ているようなマツダイラ閣下が、まさか女の子に眉や髭を整えてもらっているとは。


「ならばエマがこの城を去る日も、そう遠くないということか」

「さあ、それはどうでしょう」


 クスクスと笑うユキたんに、釣られてアカネさんも微笑んでいる。


「時に陛下、九人の赤子はいかがなさいますか? やはり孤児院にお入れになるご所存で?」

「それなんだがな、ダイゼン」

「はい」

「あのヒョウドウとか申す女子(おなご)のような者は他にも大勢いるのだろう?」

「恐らくは」

()は城の敷地の一角に新たに孤児院を造って、そこで雇って子供の面倒を見させてはどうかと思うのだが」

「なんと! この敷地内に、でございますか」

「うむ。城下の孤児院に預けるのも悪くはないと思うが、余が知るところではそれも一つ。しかもすでに多くの子供たちを抱え、何かと困窮していると聞く」

「確かに、仰せの通りにございます」


「ならいっそのこと、その孤児院の子供たちも集めてしまうというのはいかがですか?」


 ユキたんが顔を輝かせながら言う。


「そうだな。孤児院で働いている者たちもまとめて召し抱えれば、新たに雇う者の教育係にもなるだろう」


 王国にはエンザンという金鉱がある。金に困ることはないのだ。


「では早々に取りかかることと致しましょう」


 それから数ヶ月後、敷地内に孤児院としての大きな施設が建設された。城下から雇い入れられた女たちは約二十人。その誰もがこちらの世界では男とは縁遠い容姿で、そこそこの年齢の上に日々の生活にも困っている者たちだった。


 だからこそ彼女たちは、俺のこの決定に心から感謝してくれているようだった。また、元から孤児院にいた子供たちも始めこそ戸惑っているようだったが、以前より格段によくなった生活のお陰で明るい笑顔を振りまいている。九人の赤ん坊もすくすくと育っているようだし、俺は子供の未来が少しでも開けたような気がして嬉しかった。


「陛下、少々ご相談したき()がございまして」


 そんな折である。珍しく朝早く、マツダイラ閣下が執務室を訪れた。何やら神妙な面持(おもも)ちで、彼にしてはいつもの覇気(はき)が感じられない。一体どうしたというのだろう。


「どうした? エマと喧嘩でもしたのか?」


 何気なく言った俺の顔を、彼は信じられないという表情でまじまじと見つめるのだった。

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