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第十九話 余に二言はない

「皆の者、(おもて)を上げよ」


 城の玉座の間で裁判が執り行われていた。


「さて目明(めあ)かしコウタ、お前は何故自分がこの場にいるか分かっているか?」


 俺が座る玉座の左右にはユキたんとアカネさん、その外側にマツダイラ閣下と騎馬隊長のババ・ノブハルさんが立っている。そして壇下の一番近いところに目明かしのキュウゾウが、与えられたばかりの刀を腰に差して犯罪者たちを睨みつけていた。


「こ、国王陛下に申し上げます」


 名指しされた目明かしコウタが(ひざまず)いた姿勢のままで、顔中に汗をかきながら声を上げた。その風貌は小太りで、顎から下が(たる)んでいるように見える。いわゆる二重顎というやつだ。


「私には何故犯罪者共と同様に訊問(じんもん)を受けなければならないのか、全く見当が付きません!」

「黙れコウタ! 貴様よくもぬけぬけと……」

「キュウゾウ! 勝手な発言は許さん!」


 キュウゾウが怒り心頭といった形相でコウタを怒鳴りつけると、それをマツダイラ閣下が(たしな)めた。ここは仮にも裁判の場である。親分の気持ちも分からないではないが、発言可否を決める全権者は俺である。その俺が許さない限り、キュウゾウを含めた壇下の者たちは発言出来ないのだ。この裁判が始まる前に、彼ら全員に宣誓させていたのである。


「キュウゾウ、以後慎め。コウタ、身に覚えがないと申すのだな?」

「は、はい!」

「ではカズサ屋キチエモンに問う。そこの目明かしコウタは存じておるな?」

「へえ。そら親分さんでっさかい、うちの店にも見回りに来てはりましたから」

「カズサ屋番頭のイエモンはどうだ?」

「存じておりますよ。うちは商売柄、荒くれ人足(にんそく)も出入りしますよって、何度か揉め事を治めてもろたこともおます」

「コウタも、それに相違ないか?」

「はい、間違いございません」

「うむ。ならば三人に()く。トウジョウ・モンザエモンという子爵のことは知っているな?」


 この中で子爵がすでに斬られたことを知っているのは、彼の手下だった五人だけである。


「トウジョウ子爵閣下、はて、聞いたことおまへんな」

「あたしも、お客様の中にそのような貴族様はおらなんだと思います」


 カズサ屋兄弟が揃ってそう言うと、コウタも知らないと応えた。


「そうか。シラヌイ組のシラヌイ・ギンノスケ、お前はどうだ?」

「はい、私もその名前は聞いたことがありません」

「では、あの五人の中に見知った顔はあるか?」

「ああ、それなら全員見覚えがあります」


 そこでトウジョウの手下たちが一斉にざわめく。彼らはすでにシラヌイ組がこちらの手に落ちていることを知らないのだ。慌てるのも当然だろう。


「ほう。どのような知り合いだ?」

「つなぎに来ておりました」

「つなぎ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ親分! 俺たちはどんなことがあっても知らない仲だと……」


 たまりかねた手下の一人が叫んだ。すでに冷静さを欠いているようで、自分から白状してしまったことにも気づいていないようである。


「黙れ! 貴様に発言を許した覚えはないぞ!」

「だ、だって……」

「だが語るに落ちたな」

「あっ……!」

「シラヌイ組の者たちはすでに子供を(かどわ)かした罪を認めている。そして拐かしはその生死を問わず死罪だ」


 それから俺は苦虫をかみつぶしたような顔で青くなっている五人を見回した。


「だがな、ギンノスケは捜査に協力したことにより、罪一等(つみいっとう)を減じて死罪を免れた。お前たちも、死ぬよりは遠島(えんとう)の方がよいと思わないか?」

「こ、国王様! それは本当ですか?」


 五人の中の一人が希望を見出したように顔を輝かせる。


「これから訊くことに正直に応えろ。そうすれば()にも情けはあるぞ」

「話します! 何でも話します!」

「うむ。ではトウジョウ家の者たち、お前たちの中に拐かされた子供の親を手にかけた者はいるか?」


 この問いに、恐る恐る三人が手を挙げた。だが、そのうちの一人が口を開く。


「あの、国王様……」

「どうした?」

「俺たち三人は確かに何人かを殺す場面にいましたが、ただ押さえつけただけで直接殺してはおりません」

「ほう、ならば殺したのは誰だ?」

「その……」

「正直に応えろと言ったはずだが?」

「も、モンザエモン閣下です」


 自分たちの雇い主であり、剣術の師範でもある子爵の名を出すのは心苦しいことだろう。それでも命と引き換えなら、死んだ者に罪を着せて追及を逃れるということも考えられる。しかし、背後に浮かび上がっているウイちゃんが肯いているので、彼の話は嘘ではないようだ。


(あい)分かった。次に、お前たち五人の中でそこのコウタやカズサ屋兄弟を見知っている者はいるか?」


 そこで名前が挙がった三人が息を呑むのが分かった。そのうちのイエモンが、こちらから見えているにも関わらず喋るなというようなサインを送っている。何とも間抜けな男だ。


「イエモン、どうした?」

「は? い、いえ、別に……」

「どうだ? 見知っている者はいるのかいないのか」

「国王様?」

「何だ?」

「ほ、本当に死罪は勘弁してもらえるんですか?」

「余に二言はない」

「分かりました。俺たち全員、その人たちを知ってます」

「三人とも、何度もモンザエモン閣下の屋敷に来ています」

「お、おい!」


 五人が口々に白状し始めたのを見て、コウタやカズサ屋兄弟が思わず彼らの口を塞ごうとする。それを衛兵が数人がかりで押さえつけた。


「見苦しいぞ! これより裁定を申し渡す」

「陛下のお言葉である。全員跪け!」


 マツダイラ閣下の怒声に、衛兵を除く壇下にいた全ての者たちが跪いて頭を下げた。もちろん、コウタやカズサ屋兄弟は衛兵に押さえつけられたままである。


 それを見た俺はゆっくりと玉座から立ち上がるのだった。

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