第十四話 後は背後の貴族を突き止めるだけですな
長らくお待たせして申し訳ありませんでした(>o<)
「これはこれは、どちらさんかと思ったらマツダイラ様やおまへんか」
マツダイラ閣下がカズサ屋を訪れた時、応対に出たのは番頭のイエモンだった。
「まさか、ご紹介した二人が何かやらかしましたんか?」
「いやいや、そうではない。今日は頼み事があって訪ねたのだ」
閣下はそう言うと、共に連れてきたエマをまず紹介する。
「実はこの娘を娶りたいのだが、彼女の両親から反対されていてな」
「はて、娘が伯爵様に嫁げるなんて、親なら反対する道理がおまへんのと違いますのん?」
「それがこの娘の両親は大の貴族嫌いなのだ」
「あ、なるほど。そないな人もおりますわな」
そこですでに二人の間には子があり、孫を抱かせて結婚を認めさせようという考えであることを伝える。
「では男の子を譲り受けたいと?」
「孤児院を当たってもよいのだが、出来ればまだ生まれて間もない乳飲み児がいいのだ」
「確かに孤児院では乳飲み児はなかなか見つかりまへんやろな。それでこのカズサ屋に探してこいと言うことでっか」
「礼金は弾むぞ」
「ようございます。二、三日お時間頂戴出来まっか?」
「なに、心当たりがあるのか!」
「ちょうどそんな話が。マツダイラ様、ここだけの話にして下さいよ」
イエモンが声を潜めて閣下に耳打ちする。
「うむ、分かった」
「若い夫婦が生まれたばかりの赤ん坊を丁稚奉公させたいと言うてきとりましてな」
「赤ん坊を丁稚に?」
「お察しの通り、無理な話ですわ。ですがその無理な話、裏を返せば子供を売りたいということですねん」
「子供を売りたいだと?」
「シッ! 声が大きいです」
イエモンは自分の口に人差し指を立ててマツダイラ閣下を窘めた。
「こんな商売してますと珍しいことやおまへん。しかし考えてもみなはれ。生みの親言うても毎日食うや食わずの生活より、伯爵様のような裕福な家に貰われた方が、子供にとっても幸せなんとちゃいますやろか」
「なるほど、一理あるな」
「あちらの希望は自分たちの子を我が子として可愛がってくれること。そしたらその子とは二度と会わんでもいいそうですわ」
「変ではないか? 普通なら里子に出しても子供と会いたいと願うのが親だと思うぞ」
「貧しくて売り渡した子です。どんな顔して会うたらいいのか分からんのでしょう」
「そういうものか……」
「夫婦には大金貨三枚。申し訳おまへんがこのカズサ屋には仲介料として大金貨一枚頂きます」
「ずい分吹っ掛けてきたな」
「法に触れるすれすれのところですから」
「分かった。エマも、それでいいな?」
「はい、旦那様」
「くれぐれも、本当に自分たちの子が出来たからと言って、その子をぞんざいにせんといて下さいよ」
「分かっている」
「ま、それでも邪魔になったらホンマに丁稚奉公させたらよろしい。そん時はまた相談に来て下さい」
「何から何まですまんな」
「これも人助けやと思うとりますさかい」
イエモンはそう言うと、話がついたらつなぎを付けると言って二人を送り出したのだった。
「大金貨四枚とは、カズサ屋も阿漕なものだな」
「それで陛下、いかがなさるご所存なのですか?」
「カズサ屋ごときを捕らえたところで背後の貴族は痛くもかゆくもないだろう」
「ではやはり……」
「黒幕を獄門台に送るのが、殺された若い夫婦たちへのせめてもの供養となるはずだ」
そのために、俺はシラヌイ組のギンノスケと残った子分たちをアジトに帰らせていた。彼らにはスケサブロウ君からキュウゾウを通じて、黒幕を捕らえるのに協力すれば死罪は免れると伝えていたのである。無論厳重に見張りを立てているが、報告では今のところ彼らは大人しく従う素振りとのことだった。
「これでカズサ屋からシラヌイ組につなぎが行けば……」
「カズサ屋は完全に黒ということになる」
「後は背後の貴族を突き止めるだけですな」
しかしそれからしばらく経っても、カズサ屋が動くことはなかった。




