第九話 野郎共、行くぜ!
「キュウゾウ親分はいるか?」
アカネさんとスズネさんを伴ってヒガシ町の番屋を訪れた俺は、その後カメキチがどうなったのか気になっていた。
「お、旦那じゃねえか。連絡したかったのにどこに住んでるか聞いてなかったからちょうどよかったぜ」
「ということは何か分かったのか?」
「カメキチの奴、女の許を逃げ出したぞ」
「ほほう」
「何だ、驚かねえんだな」
「あの様子じゃそれも肯けるからな」
「そうかい。だがその後がいけねえ」
「どうしたんだ? 捕まってしまったのか?」
「いや、女が結婚の約束をした証文を城に届け出たんだ。でもって亭主が行方知れずになったから探してくれだとよ」
なるほど、その貴族の女性はあくまで合法的な手段に打って出たというわけか。
「それで親分もカメキチを探す羽目になったということなんだな」
「スケサブロウの旦那からつなぎが来てな。西の方を当たれってことだ」
「西? この前のワクイ村の近くか?」
「近くってほど近くはねえが、ここからだと一里弱ってところだな」
一里は約四キロの距離である。それからキュウゾウはアカネさんとスズネさんに不審な目を向けた。
「あれ、そっちのお姉さん、仕事はどうした?」
「私は今日はお休みです」
「へえ、そうかい。で、もう一人のお姉さんもコムロの旦那の奥方さんかい?」
「はい。スズネと申します」
「旦那、一体何人奥方がいなさるんだ? もっとも旦那なら十人でも二十人でも不思議はねえけどな」
「はっはっはっ! 七人だよ」
「七人か! まあいいや。で、どうする? 付いてくるかい?」
「そこには何があるんだ?」
「廃墟みてえなところさ。人の住んでねえ、いつ崩れてもおかしくねえ長屋があってな。お尋ね者が隠れるにはもってこいのところだ」
ただし、食糧や水は人が住んでいる村まで行かないと手に入らないから、便利なところではないらしい。
「親分はカメキチがそこに隠れていると思っているのか?」
「どうだかな。見てこいって言われたから見に行くだけさ」
「そうか。今日は時間もあるし、一緒に行ってみるか。アカネ、スズネもいいか?」
「はい、構いません」
こうして俺たちはキュウゾウとその手下二人と共に、西にあるという長屋を目指すことになった。
「そう言やコムロの旦那、カズサ屋の仕事はどうするつもりなんだ?」
「受けても意味がなさそうだからな。やめておくよ」
「何です、その仕事って?」
事情を知らないスズネさんが尋ねてきたので、俺は簡単にこれまでの経緯を話して聞かせた。
「ヒコザさん、夜はいけません」
「分かってるって」
「でもそうですね。そのカズサ屋という口入れ屋はちょっと気になりますね」
「と言うと?」
「男性を求める女性は貴族なんですよね?」
「そうだな。金を持て余してる貴族の行かず後家がほとんどだと思うぜ」
スズネさんの問いに親分が応えた。
「でも、貴族の女性が直接口入れ屋などに出向いたりするのでしょうか?」
「スズネ、何が言いたいんだ?」
「貴族女性とカズサ屋を橋渡しする別の貴族がいるとは考えられませんか?」
「しかし俺もユキやアカネもカズサ屋には行ったぞ」
「旦那、それは俺が連れていったからじゃねえか。スズネさんって言ったっけ、なかなかいいところに目をつけたな」
言われてみれば確かにそうだ。キュウゾウに連れていかれなかったら、口入れ屋などに出向く道理がない。
「その貴族が裏で糸を引いているから、カズサ屋も堂々と男性を売り飛ばしたり出来るということか」
「口入れ屋はほとんどが平民や奴隷相手の商売だ。貴族のしきたりなんて知るわけがねえからな。カメキチに証文を書かせたのだって、その貴族の入れ知恵なんだろうよ」
「だとすると若い夫婦や子供の拐かしも……」
「子供と見てくれのいい夫なら売られた可能性が高いだろうな」
「そんな……母親はどうなるのです?」
「よくて岡場所、だがおそらくは口封じで」
「それが本当なら許せん」
「シッ!」
その時スズネさんが皆の足を制して物陰に隠れるように合図した。俺たちが目的地としていたタロウ長屋はもう目と鼻の先である。親分の話ではそこには誰も住んでいないはずだったが、彼女はカメキチの気配にでも勘づいたのだろうか。
「人がいます。それも四人ほど」
「四人? カメキチ一人ではないということか?」
「四人の中にカメキチという人がいるかどうかは分かりませんが、辺りを警戒しているようです」
「ご主人さま、何か聞こえませんか?」
アカネさんの言葉に耳を澄ましてみると、俺たちの耳に予想もしなかった声が聞こえてきた。
「親分、あれは……」
「コムロの旦那、どうやら俺たちはとんでもねえところに来ちまったようだぜ」
そう言うとキュウゾウは手下二人に目で合図を送った。
「旦那は済まねえがスケサブロウの旦那を呼んできてくれ」
「いや、待て親分」
「野郎共、行くぜ!」
俺が制止するのも聞かず、三人はあっという間に飛び出していってしまった。やれやれ、仕方がない。
「アカネ、スズネ、頼めるか?」
「はい!」
俺は二人の妻と共に、キュウゾウたちの後を追うのだった。




