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あの世は国のまほろば  作者: 和太鼓
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星空に手をかざす「スターダストシェイクハンド」。それは不幸を呼ぶ合図。

寒空に無数に広がる星の海。

昼間は暖かかった世界は、夜が深まるにつれ少し肌寒く感じる。


「ここは、宇宙のどこかなんだろうか……」


そんな世界で、タケルは何かに問いかけていた。


この空に浮かぶ無数の光の中に、地球を抱える太陽があるのだろうか。

もしそうだとしたら、死んだはずの世界に戻れる可能性があるのだろうか。


そんな、答えの出ないとわかっている問いを、何とも知れない何者かに問いかける。


「……」


答えはやはり返ってこない。

分かっていた結果に小さく息をつき、彼は視線を前方に戻す。

あるのは何も見えない、ただの暗闇。

何も変わらないのを確認し、左手を見るとユウキと視線が合う。

退屈そうなその様子に思わず警戒が緩みそうになる。


見張りの配置は洞窟を背に右側をタケル、真ん中がユウキ、左側にユイナ。

距離を開けそれぞれが闇夜に注意を払い続けて数時間、見張りの任務にも飽きが来始めていた。


「用心に越したことはないけど暇なんだよなぁ」


「任務中の私語は厳禁だぞ、タケル二等兵どのっ」


再び視線を前方の暗闇に戻してそうボヤいていると背後から可愛らしい声が聞こえてきた。


「どーせ俺は下っ端ですよ。どうした、ミク? 見張り交代の時間はまだだぜ?」


「どんな感じ? 何も問題ない?」


タケルの質問にミクが質問で返す。


「今のところはな。ミクはまだ寝る時間があるんだから今のうちに寝ておけ」


「目が覚めちゃって眠れないの」


そう言うとミクはタケルの隣に腰掛ける。

タケルが羽織っていた学ランをミクに投げ渡すと一瞬驚いたような表情を浮かべ、ありがとうと呟いた。


「随分と真っ暗ね。これ、見える?」


「なんも見えない」


「それって見張りの意味あるの?」


「……」


タケルが何も答えられず仏頂面になると、それを見て彼女は少し笑いそれっきり口を閉じた。


空には相変わらず星の海が広がっている。


「タケルくん」


「ん?」


「さっきは助けてくれてありがとう……」


「いや、大したことはしてないよ。こちらこそ、ミクさんを巻き込んで悪かった」


「ううん、それこそ大したことじゃなかった……本当にありがとう……」


そういうと彼女は天を仰ぎ、再び無言になる。

1分か10分か、しばらく時間が経ったのち彼女がまた口を開いた。


「……ねぇ」


「どうした?」


「あの星空の中に、地球ってあるのかな」


驚いて横を見ると、意外なほどに沈んだ表情をした少女がいた。

手を星空にかざしながら彼女は言葉を続ける。


「分かってるの。私は一度死んだ。目を閉じるとその時の様子をハッキリ思い出せる。

いきなりお腹が燃えるように熱くなって、私自身が炎になったみたいで。その後は逆にどんどん寒くなっていって……凍りついていくみたいだった」


「ミクさん……」


「私ね、死んだ後に真っ白な部屋の中で思ったの。私は死んだんだって。もう、家族にも会えないし友達にも会えないんだって。

でも、異世界の存在を知って思ったんだ。私が私であり続ければ、いつかみんなに会えるんじゃないかって。

そしてそれは正解だった。嬉しかったんだよ、みんなに会えて」


話し続ける彼女の目には涙が浮かぶ。


「でも……いきなりみんなと喧嘩別れして、希望を持って登った山の上からはあの景色……」


「……」


「あの星の海のどこかに地球はあるのかな……あるとしたらいつか、帰れるのかな……辛い……辛いよ……帰りたいよ…………」


泣き崩れるミク。

山の上から見た景色を共有できるのは二人しかいない。

だからこそ彼女はタケルに心を打ち明けたし、そんなことを彼も分かっていた。

だが、彼は何も言えない。言葉が浮かばない。


「……何よ……ばか…………」


タケルの胸の中で少女が呟く。

彼女を抱きしめ、彼は口を開く。


「大丈夫。ここには俺がいる。みんながいる。きっといつか、△達とも仲直りできる」


静かに少年は呟く。


「俺たちは今生きてる。一回死んで、新しい世界で第二の人生を送るチャンスを手に入れた。特別な力まで手に入った。

あそこから見た絶望的な景色を、希望に溢れた世界にすることが出来るかもしれない力を」


身体を離し、タケルは少女の顔を見つめる。


「泣きたい時は泣いていい。迷った時は僕に相談してくれたらいい。

悩みを晴らすことも不安を取り除くことも出来ないかもしれないけど、それでも僕は一緒に向き合うことは出来る。

だから、もう絶望するな。みんなで希望に満ちてるって思える世界を一緒に作ろう」


少女の目にはいっぱいに涙が溢れている。

しかし、その表情はどこか晴々としていた。


「カッコつけないでよ…………」


内容とは裏腹にその声色は柔らかい。

笑顔を浮かべ、再び口を開くミク。


「ありが……」


だが、その言葉は最後まで紡がれることは無い。


「何かが柵の外にいるお!」


闇夜を切り裂くようにユウキの声が響き、ミクの言葉を遮る。

ハッと柵の外を注視するとその瞬間、一斉に柵の外に灯りが広がった。


「なに……これ……」


口を開いたまま呆然とするミク。

その光に照らしだされたのは、あまりにも醜悪で邪悪な顔。

長く垂れた耳にギョロッとした大きな目、そして口と鼻は突き出している。


「お、鬼だお!」


「おい、走って洞窟へ行ってくれ! みんなを起こしてきてくれ!」


タケルはパッと立ち上がり、怯えるミクを引き上げる。


「落ち着け、大丈夫だ。ただ走ってみんなを起こすだけでいい。出来るな?」


「うん……」


「よし、行け! 今だ! ゴー!!」


震える手を胸元に抱き、踵を返して洞窟へと駆けるミク。

視線を移すと、ユウキもユイナを洞窟へ走らせているところだった。


「ユウキ! 俺たちは広場の中央へ!」


「り!」


ユイナが洞窟へと走りだすのに合わせて、二人も広場の中央の焚き火のもとへ。


「どうするつもりなん?」


「火を大きくする。暗いのは動きにくい」


木を火に投げ入れながら柵の方を見れば、奴らはすでに柵の破壊を始めていた。

ビシビシと音を立てる柵があまり長くは持たないことは目に見えている。


「こ、これはやばいお……」


逃げるべきか闘うべきか、突然の出来事に思考が回らない。


「ちょっと行ってくる」


「え、ちょ、何する気なん?」


タケルが突然燃え盛る焚き火の中から一本、火のついた木を抜き出し構える。


「これで時間を稼ぐ。その間にみんなを連れて逃げてくれ」


「は? いや、流石にそれは危険だろ、常考!」


「だからって、このまま手をこまねいているわけには!」


「馬鹿! 単独先行が危険なことくらい小学生でも分かるだろ! 落ち着けよ、タケル」


珍しく声を荒げるユウキに、慌てていたタケルも正気を取り戻す。


「す、すまねぇ……」


「謝るのは後だお。今はやることがある。焦りは禁物なんだぜ」


「すま……いや、ありがとう」


「いいってことよ。じゃ、冷静な考えをクレメンス」


「敵戦力の武装を鑑定魔法を使って解析してくれ」


「オーキードーキー! 出来るか分からんけどやってみるお! あと、魔法じゃなくてスキルだろ、常考」


軽口を叩きながら解析を行うユウキ。

その間にも敵は柵を破壊しようとしてくる。


「ユウキ! まだか!?」


「もうちょい……完了! 敵種族は……ゴブリン! 敵戦力は23体! 武装はなし」


「魔法とかは?」


「能力とかは解析できないお」


能力の習熟度の問題か、ユウキの解析能力でわかることは少ない。

素手でゴリ押しか魔法を使う技巧派か。

武器などがあれば戦い方の予測がつくが、素手で、さらにもし魔法を使うのならどんな戦い方か想像もつかない。


「なんとかみんなが起きるまで柵が止めてくれるといいんだが……」


「止まらねぇかぎり、その先におれは……」


「なに死亡フラグ建ててんだ!」


「思わず希望に満ちた花を咲かせたくなったんだお」


「その先にあるのは壊滅エンドだけだよ!」


ユウキを慌ててたしなめるタケル。

その瞬間、柵が破壊された。


「うぎゃ! 入ってきたお!」


「このバカ! いらん事言ってるからだ!」


混乱する二人へ驚異の脚力で接近するゴブリン。

それに対抗するため、慌てて構える二人。

その瞬間、身体に電流の流れたような感覚がタケルを包み込む。


「!!」


今まで感じたことのない、自分に向けられた殺意。

それを感じた途端、タケルの中で何かのスイッチが入った。


「殺らねば、殺られる……」


「タケル!?」


足に力を込める。

木の棒を握りしめ、ゴブリンに向かって駆け出すタケル。


「うおおおおお!!」


ゴブリンが拳を振り下ろすより早く、突き出した木の棒がその腹部にめり込んだ。


「グゲッ!」


倒れるゴブリン。

その頭部に間髪入れず木の棒を振り下ろす。


「あっ……?」


だが、攻撃は倒れたゴブリンに届かない。

棒が当たる直前、タケルの視界がぐるりと回った。

身体が浮きあがり、次の瞬間衝撃がタケルを襲う。


「な、なにが……?」


足払いで倒されたと気づくのに少しの時間がかかる。

すぐに立ち上がることはできない。


「くっそ……」


無意識に左肩を右手が庇う。


「……あっ」


その手が濡れるような感覚。

ハッと手を見れば鮮血が染めていた。


「ぐう……!!」


血を見た瞬間、思い出したようかのように痛みと恐怖がタケルに叩きつけられる。

左肩の激痛に顔を歪めながら倒れ伏すタケルに馬乗りになるゴブリン。


「くっ……」


間近に迫る醜い顔。

恐怖を覚えるタケルに対して、ゴブリンが握り締めた拳を振り下ろした

ゴブリンか?


お読みいただきありがとうございます!


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