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あの世は国のまほろば  作者: 和太鼓
14/17

変態は誇大妄想な夢を見る

「これでよし! マリノちゃん! こっちに一番硬くて一番細い糸出しておいたよ!」


「ユイナさん、ありがとう。じゃ、次は柵のところに行ってあげて!」


「りょーかいっ!」


エルフの郷は急ピッチで改造されていた。

もともと郷には柵の他にはロクな防衛設備も作られておらず、その柵も強度が心許なかった。

一度洞窟に戻り、全員で再びエルフの郷へと帰ってきたタケル達は、何よりもまず防衛設備を備えることにしたのだ。

空堀を掘り、掘り出した土で堀の内側に土塁を積み上げ、強化した柵を設置していく。

タケルの支援魔法や各種の魔法、そして現世で学んでいた知識や経験とエルフ達の協力で、日が落ちる前にそうした仕事の大多数は片付いていた。


「『それで、これは何をやっているんですか?』」


そんな中で他とは全く違う作業をするマリノとアンナに、ユイナと入れ替わりでやって来たヴァントが首をかしげる。


「コレハ、秘密兵器デス!」


アンナが笑顔で答えるが、ヴァントはピンとこないような表情。

そこに丁度、タケルがやってきた。


「マリノ、どんな調子だ?」


「もう少しってところね」


「そうか。良かった、間に合いそうだな」


「『あの、タケルさん。これは一体……?」


「あぁ、これは……」


「これはブービートラップ。敵の足を止めるための簡単な罠だよ!」


問いかけてきたヴァントにタケルが答えようとすると、丁度そこへ戻ってきたユイナが先に口を開いた。


「おい、俺の台詞取るなよ!」


「えへへ」


「『そんなのを作ってたんですか!?』」


ニコニコと笑うユイナの隣でヴァントが驚きの声を上げる。

だが彼女驚きとは裏腹に、ユイナの作り出す糸はたしかに高性能だ。

粘着性を持つものから、鉄線のように硬い糸まで思いのままに操れる彼女の魔法はこの作業において無くてはならないものである。

そしてタケルはあまりにも優秀なその能力に目をつけ、実験的な装備を作ろうとしていた。


「実はこんなのを作ってたんだよ。まああくまで実験だし、多少の足止めになってくれればいいってくらいだけどな」


「上手くいくとは思えないけどねぇ……はい。完成。こんなもんでいいかな?」


その新しい防衛施設の効果に半信半疑なまま、完成させたマリノ。

後は堀の外側の空間に設置しに行くだけだ。


「ネェ、タケル君。本当ニ、アレデ良イノ?」


「ああ。例えば細い鉄線とかピアノ線をピンッと張ったとするだろ? そこに粘土を押し付けたら綺麗に切れるんだ」


「へぇ」


「原理はそれと同じだ。しかも細いから近づかないと糸の存在には気づかない。十分足止めにはなると思うよ。まあ、実験だから失敗しても良いし」


明るく、そして失敗した時のための予防線も忘れずに張るタケル。

そこにマリノが冷や水をかぶせる。


「それって時々ニュースになるダメなやつじゃん」


「そう。だから絶対道路とかでやっちゃいけないぜ」


「『一人を殺せば殺人者、百人殺せば勲章ってやつね』」


「お二人とも厳しいですね……」


マリノとヴァントの容赦ないツッコミに少し落ち込みながらもタケルは前を向く。


「とにかく、もうすぐ日暮れだ」


「ここまでやったら大丈夫かな」


「信じるしかない」


不安そうなユイナの声に静かに答える。

そう、信じるしかない。

そうは思いながらも不安を抱えるタケルを置いて、ざわめくエルフの郷に夜の帳が下りようとしていた。


***************


「さて、とっぷり日も暮れたので最後の作戦会議を行いたいと思います」


「「「『はい』」」」


村の中央に焚かれた焚き火の周りに、タケルの声に対する返事が響き渡る。


「まず現状の確認をします。マリノ! 迎撃施設の説明よろしく」


「了解。まず村の北側には絶壁があります。そのため残りの三方の防衛を強化しました」


タケルに指名されたマリノが報告を行う。


「まず見張櫓を二つ。その外側に土塁を築き堀をめぐらせました。で、その外にはユイナさんの糸を使ったブービートラップを仕掛けています」


「よし。時間がない中本当に良くやってくれたと思う」


そう言うタケルににっこり微笑むとマリノは下がった。


「じゃ、次は敵の情報について。ベトホーフさん、お願いします」


「『分かりました』」


次に歩み出てきたのはエルフのイケメン。

一見優男のようだが、その中身はフタフタ族随一の武闘派らしい。

それでもヤマトほどではないが。


「『相手はモンスターウルフ。雌雄ペアをトップとする群れで、単体では並程度の強さ。しかし、統率連携の水準が高く、今回の群れは特にその傾向が強いです』」


「地球の狼と似たような感じなんだな」


「そうみたいだね」


事前に聞いてはいたものの、改めてその特徴を聞きタケルは思う。

狼にそっくりだと。

思わず感想を漏らしたタケルに、いつのまにかそばにいたミクが相槌を打つ。


「『本来、モンスターウルフは人を襲いません。加えて奴らに私たちを追い詰めるほどの力は本来ないはずなのです』」


「つまり、今回の敵は特殊ということですね」


「『そういうことになりますね。通常はトップの雌雄ペアを行動不能にすることが勝利条件ですが、不足の事態も起こり得るということです』」


「わかりました。ベトホーフさん、ありがとうございます」


情報の再確認を終えたところで班ごとに全員を分ける。

人員の班分けはさっきの情報を踏まえた上ですでに行っている。

元々大まかに分けられているエルフの分隊に転移組を組み込み再編するだけの簡単なお仕事だった。


「よし、最後に配置。基本はアウトレンジ戦法でいきます。遠距離攻撃班が攻撃、ブービートラップゾーンを越えてきた奴らを一次迎撃隊が対応。そこを抜け堀と土塁を越えてきたものは第二次迎撃隊が潰して下さい」


絶対に無理をさせない。

死人は出さない。

その上で勝利する。


表向きの目標はこの三つ。


「絶対死ぬなよ! 頑張って勝つぞ!」


「「「っしゃー!!」」」


気合の入った叫び声が闇夜にこだました。











「ねぇ、タケルくん」


「ん? あぁ、ミクか。どうした?」


「なにを考えてるの?」


「何って、『ミクのことだぜ』って答えた方がいいか?」


「バカなこと言ってないで答えなさいよ」


「冗談の通じん奴」


「余計なお世話よ」


解散した直後話しかけてきたミクに対し息を吐く。

そんなタケルの様子を見てミクは頰を膨らました。


「もう! 真面目に話してるのに!」


「わかったわかったよ、言うよ。本当の狙いは――――」


ふくれるミクに慌てながら、タケルはみんなには伝えていない本当の目的を説明する。

その突拍子も無い答えに思わずタケルの顔をまじまじと見つめるミクを見て、少年は苦笑いを浮かべる。


「……そんなに見つめられると照れる。もしかして今のを聞いて俺に惚れた?」


「しばき倒すわよ?」


「足を踏みながら言うのやめて下……やっぱ美少女に踏まれることって中々ないからやめなくていいです」


「うるさい変態ブタ野郎! ……違う、そんな話じゃないのよ」


頭を抱えながらミクは深いため息を吐く。

タケルの言ったことをもう一度頭の中で整理しているようだ。


「……その計画、成功したことある?」


「練習では一回。まあコツは掴んだから多少はね?」


「多少じゃダメでしょ……しかも練習と本番は違うのよ?」


「わかってる。けど試す価値はある」


「……多分そんな危険な方法を試す必要はないと思うの。そのどこか一部を活性化させるとかだけでも十分だと思う」


「残念ながら、生理学とか脳科学には疎いもので。どのホルモンが何の作用をもつ、とかミクは分かる?」


「ただの高校生が分かるわけないでしょ……せいぜい応急手当てとか銃創の応急処置とかしか知らないわ」


「高2の範囲なのになんで知ってんだよ……」


相変わらずの優等生ぶりに半分呆れながら、タケルは改めて説明する。


「脳内シナプスをいじるか海馬をいじって思考、若しくは記憶を操作、モンスターウルフを従順な手下にする。手順にしたらたった二段階。簡単簡単!」


ウルフを手下にする。

それこそが彼の本当の目的だった。

正確には、手下にすることが出来るかを試す、ということだが。


「絶対上手くいかない。第1段階が無理ゲーだもん」


「まあ、脳みそを思い通りにいじるのは無理でも手下にはしたい」


「それならできるかもね」


呆れ半分で返事をするミク。


「ま、ダメ元だから失敗したっていいさ」


失敗してもいい。

むしろ失敗した方がより良くなる。

そんな考えを抱えてタケルが嘯いた瞬間、見張りが声をあげた。


「来たぞ!!」


その声に一斉に空気が変わる音がした。

すでに転移組の皆は敵の姿を一目見ようと土塁の上に駆け上がっている。

タケルとミクもその後に続いた。


「あれか……」


暗闇に目を凝らせば、無数に光る野獣の目。

見慣れぬそれに少し恐怖を感じ、それ故に彼は声を張り上げた。


「しゃあ、やるぞー!!」


「「「「おおおお!!!」」」」


彼らが気炎を上げ、咆哮が闇夜に轟く。


いよいよ、モンスターウルフとの戦いが始まる。

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