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 今日からアキラの朝は早くなる。…特訓だ、特訓、隣の部屋には聞こえないギリギリの音量のアラームでアキラは目を覚ました。眠い眠いと目を擦りながらも床に足を組んで座両手を胸の前に出した。


「…ふー、」


 目を閉じて深く息を吐き周囲に意識を向ける。するとすぐにアキラの周りに無数の黒い氷の粒がたくさん浮き出てきた。


「…周りを意識して…周りの空気を手の中に水晶玉見たいにするイメージをして…」


 今度はアキラの周りに漂っていた無数の黒い氷の粒が手と手の間に集まりだした。中心には玉のようなものができて徐々に大きくなっていく。その時間およそ4分…。


「…………今!」


 その一言で集まっていた無数の黒い氷の粒が消え、黒い玉だけがアキラの手の上に残った。玉の中は黒で埋め尽くされているが少し向こう側が見える。そして、あらかじめ用意しておいたメジャーで玉の大きさを測った。


「直径が…14.7センチぐらいか…よし、少しずつだけど15センチに近いものが作れるようになってきた」


 アキラはこの特訓をアンダーグラウンドにいるときから始めた。はじめは刀が作り出せるなら他のもできるのでは?と考えそこから装備一式作ろうとしたが塊を作り出すのでやっとで、そこから形を変えられるようになるために寝る間を惜しんで特訓を続けた。しかしそれだけでは終わらず、自分を中心として複数で半径4m、1つなら10mは自由に操作できるようになっている。そして現在、アキラは再び造形に力を入れている。もっと正確にいろんなものを作れるようになるための特訓だ。そんなこんなでアキラが作った玉を置こうとした。が、不意にアキラの手元から消えてしまった。


「冷たい!でも、すっごいきれい…アキラって器用だよね。これもしかして氷でできてるの?」


 いつの間にかに部屋にユウが入ってきていつの間にかにアキラから玉を取り上げていた。


「ありがと、でも企業秘密だからね」


「いまいち意味がわかんない」


 アキラがそういうとユウは首をかしげながらアキラの部屋を後にした。取り残されたアキラも首をかしげるとまた特訓に戻った。 今度は玉を浮かせて部屋中を飛び回らせた。


「ラジコン動かしてるみたいで楽しいや」


「言い忘れてたーアキラーご飯だよー」


 アキラの訓練が終わるのを待っていたのかのようにユウが朝ごはんに呼んだ。アキラはすぐに返事をするとスリッパを履いた。するとそこでアキラはひらめいた。


「あれ?まだアキラは降りてきてないの?」


 席に着いたリュウが慣れていないのかネクタイをいじりながら聞いてきた。


「んーさっき呼んだからそろそろ降りてくると思うんだけど…」


 ユウが話しをしている途中にアキラが降りてきた。最初はユウもそう思った。しかし、アキラは階段を使わずに飛んで降りてきた。そのまま浮いた状態で席に行くと椅子に着地して見せた。しかし、それを見てもリュウとヒナは何も反応せず朝食を食べ始めた。


「え?なんでそんなにリアクション薄いの?」


「…お、おなじく…」


 ユウの疑問にアキラもどう意見だった。するとリュウがヒナの方を見てヒナに説明するように目で促した。


「か、風属性の初級と雷、空間の属性の上級魔法に空を飛ぶものがあるんです。ち、ちなみに私も空飛べます」


「どんな原理で飛んでるんか知らないけど普段の学校生活では『屋内での魔法や武器の使用は禁止とする』って校則があるから使い方間違えたら即指導だよ」


 アキラとユウは新しい知識を手にいれた。 ユウとアキラはうなずくと朝ごはんを食べ出した。そこから少しするとヒナは学校へ行き、リュウも仕事があると言って出てしまった。


「いい忘れてたけどガレージに2人専用のバイク用意してあるからよかったら使って、ハンドル握れば指紋認証でエンジンかかるから」


 リュウが玄関に戻ってきてそれだけを言うと少々慌てた様子でまた仕事に向かった。


「んーどうする?アキラ?集合時間まであと1時間ぐらいあるけどもいっちゃう?」


 そう言いながらユウはコインを取り出して回して遊び出した。


「早くついてもバチは当たらないだろ、さ、したくしたく」


 アキラは部屋に戻り制服に着替えた。学校は学科によって制服が違うらしい。軍事科は軍服のようなデザインで、普通科はチェックのズボンにワイシャツ、ネクタイをつけてジャケットを着る。要するにブレザーだ。それよりも驚いたのが商業科の制服だった。いや、もはや制服ではなかった。スーツだった。だれがどう見ようと完全にスーツだ。こればっかりはアキラもユウも顔を見合わせて首をかしげた。ちなみにユウがぶつかった男子生徒、今考えてみれば軍事科の生徒だった。


「おまたせーささ、出発だー!あ、アキラ運転よろしくね?」


 そう言うとユウはガレージへ向かいアキラはそれを追いかけた。

 ガレージには2台のバイクが止めてあった。片方は黒のボディーに白のラインもう片方はその逆のデザインだった。おそらくアキラとユウをモチーフにしたとそうだろう…。アキラはもちろん黒ボディーに白のラインが入っている方を選んだ。そして、アキラが前にユウが後ろに乗ったタイミングで正面にあったシャッターが開いた。


(2台あるのにわざわざ1台に乗っていくんだ…まぁ二人乗りできるやつだからいいけど)


 エンジンの音が静かすぎてアキラは少し驚きながらも学校に向かってバイクを走らせた。アキラは少しだけ方向音痴なところがあるため道中はユウが道順を教えていった。

 学校につくと警備員の人の誘導で無事バイクを止めることができた。


「ふぁー、やっと着いた…。アキラ、運転お疲れさま」


「はいよ」


 そんなやり取りをしながらあちこちにある看板を見ながら無事にホールと呼ばれる施設に着いた。入り口には新入生専用受付が置かれ名簿と照らし合わせる作業が行われていた。中にはいるとかなり広いホールだとわかった。そして、アキラたちが想像していたよりも人が集まっているようでこのホールの9割はすでに人が座っていた。アキラとユウは前の方の一番端の2人がけの席に座った。式の半分以上が校長先生の話だった入学式が終わり、アキラたちは学校の敷地内にある建物、のうちの端の方にある普通科専用棟、その3階にある1年普通組(通称:1-F)の教室に移動した。教室は正面に教壇・教卓とホワイトボードがあり、席は机が長く机ごとに2人座れるようになっていた。アキラとユウは制服採寸ぶりに会った天パ青年のケンタと軽く話してホワイトボードに貼ってあった座席表通りの席に座った。アキラとユウは隣どうしで他の人はあいうえお順に並んでいた。おそらくこちらの事情を知っているものが意図的に作ったのだろう。そこへ、その担任が入ってきた。


「どーもみなさんこんにちは、一部の人を除いて初めまして、今日からこのクラスの担任を任せられたリュウ・ARっていいますよろし…」


「えぇぇーーー!?」


 リュウが自己紹介を終えようと最後の一言を言ってるときにと突然の邪魔が入った。そう、視力が低くて名前を聞くまで気づくことができなかったユウの驚きの声だった。周りもかなり驚いていた…。もちろん、突然大声をあげたユウに対して驚いている。


「ご、、ごめん」


 ………。

 教室は静寂に包まれた。


(さすが、空間の化身なだけあるな?一瞬にして静かな教室に変わったな。もしかして空間の化身ってやつは場の空気も操れるのか)※操れません


「んっんん、ごほ、げほげほ、ぉぇ……。じゃぁそんなわけでこれから楽しく元気に時には真面目にをモットーによろしく」


 もうすでに元気じゃないでしょ!?それが他のクラスメイトたちが心のそこから思ったことだった。リュウ先生(笑)が自己紹介を終えると今度は何か薄いものを配り始めた。


「これは教科書兼学生証だからなくさないでくれよー」


 前の人から来たのは薄いものはカードだった。

 表には顔写真と学校名に学年、学科、名前が記入されていて裏には雪の結晶をモチーフにした校章が描かれていた。


「授業の時はこれを机の右側の挿入口に差し込むように、パスワードの設定は後で自分でやってね?ってことで今日はまだ初日だからここら辺でさようならー」


 リュウはさっさと教室を出ていきユウが落ち着きを取り戻してリュウを追いかけ廊下に出たころにはもうリュウはどこにも見えなかった。


「えぇーもういない…」


 ユウがぼやきながら教室に戻ってきた。


「……そんなことより…今日はもう学校終わりらしいから帰ろ」


「んー、よし、じゃあ図書室行こうよ!図書室行って自分の能力のについて調べよ!」


 突然すぎてアキラは少し戸惑ったが、暇な時間を有効活用できると考えアキラは黙ってついていくことにした…。しかし、どこを探してもいっこうに図書室が見つかることはなかった。少し疑問に思い通りすがりの先生に聞いてみたところ、どうやらこの学校には図書室がなく、代わりに科学資料室と魔法資料室があるらしい。そうして、2人は科学資料室へと向かった。科学資料室と言うぐらいだからおいてある資料全部データ化してあるのだろうと思たら実際そうではなく置いてある資料のほぼすべてが紙のまま保存されていた。その中からアキラは何を見ればいいのかわからず、結局、王都にあるカルパス邸でも見かけた「万物の根元はFSPである」とかかれた本を手に取った。


(あの家にいたときにあったやつは手書きできたくて読めなかったけどこれは…よし、印刷されてるやつだ。あの屋敷の部屋にあった本一通り見たけどこれだけわかんなかったんだよ)


 そう心で呟きながら借りる手続きを始めた。と言っても本についているバーコードを機械に通すだけだった。アキラが機械を使い終え振り向くとユウがいた。


「アキラ何借りたー?私ねこれ借りるんだー!」


 そう言ってユウがアキラに見せたのは「魔法が属性を作れる原理と可能性について」と書いてある題名からして誰かの論文辺りだろう。表紙のあちこちがボロくなっているのでそれなりに古いものというのが伝わってくる。


「せっかくだし外の木陰のベンチで少し読んでから帰ろうよ」


 アキラはそれにうなずくとユウと一緒に外に出てベンチに座りそれぞれ借りたものを読み出した。本の内容は思った以上に簡単だった。


(FSPとは万物を構成する物質であり、生命体の中を巡る魔力でもある…か、んーで?1ページで完結しちゃってる気がする…あ、他のページ解読できなかったのか、これじゃ部屋にあったやつと大差ないんだが)


「ねーアキラこれ難しくてわかんないから交換してー」


 どうやらユウは1ページ開いただけで諦めているようだ。アキラは仕方なく本を交換して再び読書をはじめ……


「やぁ2人揃って難しそうな本読んでるね」


 アキラは再び読書を始めた。


「うん、すごい難しい。ケン()分かる?」


 ユウはそう言うとケンタに本を見せた。


「いや、僕はケン()だからね?それと僕にはこの本分から…」


 ケンタが話してる途中ケンタの後ろを見覚えのある人たちが通りすぎた。ユウはバッと立ち上がり、


「ヒーナちゃーーーん」


 そう言いながら通りすぎたヒナたちを追いかけていった。


「えぇー、それはないよ…」


 すると今度はアキラが立ち上がった。ケンタは一瞬アキラもユウについて行くのだと思った。しかし、アキラは違った。立ち上がるとケンタの肩に手をおいた。


「!?アキラ……って、何僕をかわいそうなやつを見るようなめで見てんだよ、やめろよ、え?今鼻で笑った?」


 アキラにとってはただ見ただけだったが身長差のせいかケンタには違う解釈になってしまったようだ。


「……どんまい……ケン()……」


 そう言い残してアキラは先に行っていってしまったユウを追いかけ始めた。


「っちょ、ま、僕はケンタだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 どんどん遠ざかっていくアキラの背中をめがけてケンタは大声で叫んだ。このあとそんな彼は家に帰って夕食のラーメンをやけ食いしたらしい。一方、アキラ達とヒナ達は学校の正門で別れそれぞれの帰路についた。


 同じ第2科学都市そのとあるビルの最上階に1人の客人が招かれていた。

 少し眉を動かしただけでも首が飛びそうなほどピリピリとした空気の室内、そんな中、客人は口を開いた。


「今回こっちが協力するのは利害が一致したからでこれが終わったらそっちにねがえるつもりはないから、そこのところ勘違いしないでよ?(はぁ、アンダーグラウンドでのアキラ達の記録が残ってればこんなことしなくてすんだんだよー)」


 客人は目の前にいる少女だけでなく周りを囲っている6人にも聞こえるように話した。そのうちの何人かが客人に手を出そうとしたが少女の合図により止められた。


「わかってる。それに、これがおわってからでもあなたやそれいがいのけしんたちはいつでも()()()()()させられるから」


 どこか恐ろしさを感じさせる冷たい笑みを浮かべた。


「やれるもんならやってみな」


 客人は気にせずそう言うと部屋を出ていき闇に消えていった。


「やれるもんなら…か、()()()()()()さんはずいぶんとじしんがおありのようで」


 今度はウフフと笑った。


「やはりアイツ今から仕留めてきてもよろしいでしょうか」


 6人の内の1人が一歩前に出て話しかけた。しかし、他の5人がその発言に対して笑いだした。


「よく考えろ光の化身、いまアイツをヤったら手駒が減っちまうだろーが」


 光の化身と呼ばれた男はチッと舌打ちをすると自分の部屋のある方へと速歩きで歩いていった。


 学校生活が始まり早くも1週間、アキラとユウは学校にすでに馴染みつつあった。

 アキラはクラスに1人は居る無口なモブとして、

 一方ユウは、自慢の明るさでクラスを明るくするムードメーカー的な存在になっていた。


「はぁー、あと1週間だ…、なのに、何?2人ともその余裕!?」


 お昼ご飯を食べ終えてアキラが昼寝をユウが黄昏ているときに突然ケンタがツッコミをかましてきた。もちろんどこかの誰かさんとちがって()()()には突っ込んで来ることはない。この学校では中間・期末の定期試験がある。それ以外に入学式からちょうど2週間すると全学年共通学力・身体能力調査テストというものが行われる…。教科は数学・科学が必須科目、選択科目で経済学・一般教養・魔法学がある。しかし、実際行われるのは身体能力のテスト()()で点数が平均以下の人にだけ学力テストが実施されるとのこと。ケンタは身体能力つまり運動が大の苦手らしく初等部のときからずっと学力テストもうけている……と、本人は自慢げに話していた。


「だって、私、身体能力だけは自信あるんだもん」


 ユウはドヤ顔で答えた。それを聞いてケンタは一度うつむくと今度はアキラの方へ向いた。期待の眼差しだ。しかし、アキラはそれにも気づかずただただ静かに寝続けるのであった。


「ちょ、起きてよーアキラくんー」


 そう言うとケンタはアキラの脇をくすぐろうとした。そこでアキラは目を覚ました。アキラはめが覚めると同時にケンタの両腕をつかんで少し捻ってあげた。


「いてってててって、ごめんごめんってば、ぎゃぁぁぁ」


 ケンタの悲鳴を聞いてアキラは我にかえった。咄嗟に手を離して慌ててザァッと音をたてながら狸寝入りを試みた。ここでいつもなら「ユ」で始まって「ウ」で終わる人が対物ライフルを向けてくるだろうが今回は違う、優秀なツッコミ役が……。


「いや…つっっっっゴホッっっっぅっぐっっこめないわ!」


 訂正、平凡かそれ以下のツッコミ役だった。


「いまの『つ』から『こ』までの溜めになにが起きたのよ、しかりしなさいよっ!」


 と、言いながらユウはケンタに突っ込み…というかタックルをかましたのだった。

 そんな日の翌日アキラが日課のために起きようとするとふといつもと違うところに寝ている気がした。目を開けると目の前に一冊の本がおいてある。知らないうちにベットから落ちたのかと思い立ち上がるとなぜかユウがベットに寝ていた。いまいち理解できず、目の前で静かな寝息をたてながら寝ているユウをたたき起こした。


「んー、もう少し寝させてよ…まだ…めざまし…なって……ない…。」


 拒まれた。しかし、ここでやめるほどアキラは今、優しくはない。なぜかって? 簡単だ。ユウがアキラから良質な睡眠をとる権利を取り上げその権利を自分のために使っているからだ。アキラにはそれがどうしても許せなかったのか、掛け布団を剥がし無防備になっているユウを権利の台(ベット)から蹴落とした。


「いててて、朝から乱暴は嫌だよー?」


「その誤解を生みそうな発言はやめろ…まぁそれ置いといて、なんで俺の部屋に居るのか説明してほしい」


 アキラがそう言うとユウはなにかを思い出したかのように床で正座をしだした。あのユウが、だ。


「急にそんな改まって…なんかあった?」


 ユウは2度うなずくとようやく用件を話し出した。


「あのさ、その…、」


 おかしい、アキラはユウがモジモジしていることに少し萌え(らしきもの)を感じた。


「いいから早く」


 アキラはとっとと日課を始めたくユウに八つ当たり(?)ぎみにいった。


「私に戦い方を教えてほしい!」


「…は?」


 謎だった。あまりにも謎過ぎて間の抜けた声が出てしまった。こればっかりは誰が言われても同じことになるだろう。思い出してほしい。ユウはここに来る前まで最高峰と言われる大会に出場して連続優勝しているかなりの強者だ。そんな人がアキラに今、戦い方を教えてほしいと頼んだのだ。理解が追い付かないままアキラは固まってしまった。


「教えてほしいって言っても毎日一対一で戦ってそこから自分で刀を持ったときの立ち回りを工夫するだけだから正しくは『練習相手になって』かな?」


 アキラはハァとため息をつくとコインを割って刀を取り出した。


「そんなことならお安いご用、ここじゃ危ないだろうから外行くか」


 アキラの提案にユウがうなずくと2人は庭に出た。庭は広めに作られているので軽くやる分には周りへの被害は気にしなくて大丈夫だろう。

 アキラとユウは共に刀を構えるとユウが先制攻撃を仕掛けてきた。真っっっっっ正面からだ。

 少し意外だった。それでもアキラは冷静にユウの鋭い一撃一撃をすべて避けていった。


「えーなんで避けるのー弾くかなんかしてよー」


 勢いのあまり地面に刺さってしまった愛刀を抜きながらアキラに話しかけた。


「絶対に嫌だ、お前の刀、物じゃなくて空間切っちゃうんだろ、何でも真っ二つだろ」


 そう話ながらも一撃一撃を確実に避けていく、そこから2人の戦いに会話はなかった。確実に急所を狙ったユウの攻撃を華麗にアキラが避け隙をついてカウンターを仕掛ける。それをギリギリの所でユウが避ける。2人にはこの攻防がどれほど続いてるのかわからない。おそらく誰かが止めるまで止まらないだろう……。


「アキラ様、ユウ様朝食の用意ができました」


 しかし、完全に世界に入り込んでいる2人には聞こえていようで近所迷惑にならない激しい攻防が続いた。諦めずヒナは繰り返した。やはり聞こえていない。すると、ヒナは静かに2人に近づいていった。起きてきたリュウが止めようとしたが間に合わなかった。そこへ、2人の真っ直ぐな刀がヒナを襲った。


「「え?」」


 アキラとユウのあいだに立ったヒナは2人の腕をつかんで止めて見せたのだった。攻防はリュウに止められるものだと思っていたアキラとユウは、年下のヒナに止められ唖然とした。さらに驚いたことに表情ひとつ変えず笑顔で2人の腕をつかんでいるのだった。


「朝食ですよ?アキラ様?ユウ様?」


 気のせいかさっきよつかむ力が強くなっている気もする……。訂正しよう…。ヒナ様は大変ご立腹なようだ。リュウもビビってしまったのかそそくさとリビングの自分の席についてしまっていた。


「ヒナちゃんなんで今の止められたの?」


 恐る恐るユウが質問した。


「ご飯…冷めますよ?」


 その後、終始無言でリビングの自分の席につきそのままご飯を食べ始めた。

 その時のユウのご飯はすでに冷めてしまっていた。今考えてみれば最後のヒナの一言はこのご飯のような声のだったかもしれない。

 ご飯を食べ終え学校へいく支度を始めようとするとヒナに一本の電話が入った。さっきまでの声とは180度違う声の明るさだった。



 そして、いつも通り学校に登校すると教室はひとつの話題で盛り上がっていた。それはもうヒナご一行が教室に入っても気づかれないレベルでだった。


「んぁ?珍しいなぁヒナが教室に入っても誰も反応しないなんてよ」


「多分みんなこれ見てんだろうよ」


 そう言ってちょうどいじっていたハルミチの端末をアキトが取り上げて1つのライブ中継を見せた。


「王直属特殊戦闘班Seven Million Destroyersで通称《SMDs(サンドス)》ですか……かっこいいですね!(アキラ様たちも本格的に活動が始まるのですね)」


 そう言いながらヒナはアキラ達のいる校舎の方を眺めた。


「だよね!無影の刀剣士(シャープエッジ)のアルファ壊師」


「それと不意の狙撃手(ハンター)のベータ壊師」


「「肩書きかっこいいよね!!」」


 どうやらミナツとミフユは少々イタイ肩書きに引かれたようだ。ヒナの後ろではアキトやハルミチがもう少しましな肩書きなかったのかよと笑っている。


(これでは、アキラ様もユウ様も恥ずかしくて堂々と名乗れないですね…。)


 その本人のアルファさんは教室で気づかれまいと人知れず本を読んで恥ずかしさを紛らわせるのだった。一方のベータさんもさすがに恥ずかしかったのか珍しく机に突っ伏して動かなくなってしまっている。


(だめ、これ、恥ずかしすぎて死ぬ、なに?なにをどう考えたら不意の狙撃手でハンターって読むの!?頭大丈夫!?てか、なんでアキラあんなに平然と読書できるの!?)


 しかし、アキラも隠しきれてない。さっきからずっと本を読んでいるが、距離が近い、完全に顔が隠れるほど近かった。


「やぁ、2人と…も…?…うん、ごめん、なんか、ごめん、またあとで話しかけるよ…。」


 2人を見かけてたまたま声をかけたケンタだったが、この2人の空気を前にしてなんとなくいてはいけない気がしたのだった。それはそうだ、いつも元気なやつが机に突っ伏して、その隣やつは絶対にその距離じゃなにも見えないだろと突っ込めと言わんばかりの距離で本を読んでいるのだ、カオスというやつだ。不幸中の幸いかこのカオスは箱の隅での出来事、誰も見てはいなかった。


「なぁ、ユウ…」


 高い日に眩しさを感じながら校舎の屋上でアキラが話し出した。しかし、話している途中でユウが遮ってしまった。


「言わなくても何言いたいわかるから言わなくていいよ…うん、計画変更だね、こんな恥だけはさらしたくない」


 どうやらユウには恥ずかしいという感情がしっかりとあったらしい。


「なるべく、なるべくよ?絶対にとは言わないから」


「…いや、違うそういう意味じゃなくて」


「そこのお前たちー授業始まるぞイチャイチャしてないでさっさと教室戻れー」


 アキラがその先を言いかけた所で今度は先生に戻るように促され結局アキラはその先を話せず急いで教室に戻っていくはめになった。そして、この日はこの事について話すことなく終わってしまった。



 都市に来て1週間、それと、いろいろあった一日を終えてみんなでたまたまリビングに集まった時、


「今日は星空がきれいに見えるから庭でBBQでもどうかな?」


 リュウがアキラ達に提案してきた。アキラとユウがそれにうなずくとすぐに準備が始まった。リュウは火をたいて焼く準備を、ヒナは食材を用意するためにキッチンへ、アキラとユウは机と椅子の準備を始めた。そして、準備を始めてそれほどたたないうちに用意が整いBBQが始まった。お肉の串焼きやステーキ、色とりどりの野菜が入っている焼きそば的なやつと美味しいものばかりが並んだ。そして、それらを所々土が見えてしまっている庭で夜空の変化を楽しみながら、時には今日気になったことについて考えながら、いつも通りの夕食を食べたのだった。


「あ、みなさん上見てください!流れ星ですよ!」


  ヒナがすこし興奮したようすで声をあげた。


「…きれい…」


 みんなが上を見ると雲1つ無い美しい空を無数の流れ星が輝いていた。


「どこの放送局も今日は流れ星がこんなに見れるなんていってなかったと思うけどこんなこともあるもんなんだね」


 それぞれがいろんなことを思いながらな眺めている。しかし、その中で1人、ユウの目にだけ美しい空は虚構に満ちて荒んでいるようにしか見えなかった。そんなユウにアキラはどこか久しい気配、違和感を感じた。


「…()()()…?」


 そんな気がした。正直アキラ自信なぜそう思ったのかはわからない。まわりに居るのはヒナにリュウそして、ユウだけだ。それでも今、目の前にいるユウはリョウだった。しかし、聞くにも聞けずそのまま不思議な感じだけが残ってしまった。

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