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近くの生徒とアキラとユウを巻き込むように落ちてきた鉄骨、それにいち早く反応したのはここでもアキラだった。アキラは降ってきた鉄骨に対してとっさの判断で分厚い氷をドーム状に造り出した。しかし、耐えたのは一瞬だった。パリンと音を立ててアキラ自慢の黒い氷はもとの冷気に戻ってしまったのだ。それでもユウにとっては十分な時間稼ぎだった。両手をあげてすこし足を踏ん張ると鉄骨をキャッチして見せた。
「リュウお義兄ちゃん!あの逃げてるやつ追いかけて!多分そいつ犯人!(あーあ、せっかくのベリーなスムージーが…)」
ユウに指示されてリュウはすぐに逃げた人を追い人混みに入っていった。その間にサイレンの音が聞こえてきてアキラとユウは第8軍団の軍警察から事情を聴かれることになった。
「まずは君たちの名前を聞いていいかな?」
そう言いながら中年の軍人を連れた若い軍人がきいていた。ここで、ユウが一歩前に出た。今までの経験と本能からアキラはこの時は変に発言しない方がいいことを知っているので黙って話を聞くことにした。
「お勤めご苦労さん!私達は≪SMDs≫所属のユウとアキラだよ、まあ今回はただ鉄骨降ってきただけだから気にしないで」
そう言いながら屈託のない風の笑顔をした。ユウのその一言に目の前の軍人2人は笑った。
「お嬢ちゃん、今は冗談じゃなくてほんとのこと話してもらえないかな?」
若い軍人がかがんでユウに目線を会わせて圧をかけ始めた。しかし、ユウはそれに負けず変わらない屈託のない風の笑顔を保った。
「じゃぁ、ほんとかどうかはリコッタ大将にでもきいてみてね!それじゃ!」
ユウはそう言うとアキラを脇に抱えて工事現場に向かってジャンプした。そしてさらに、足場をけって道路の反対側まで跳んでいった。
「先輩、さっきの子達は本物の壊師ご一行なのでは…?」
と、若い軍人の後ろにいた中年の刑事が若い軍人に話しかけた。
「……もどるぞ」
「え?追いかけなくていいんですか?あ!車ですか?それなら自分が…」
「いや、身辺整理をと思ってな…(あんな笑顔でかのリコッタ大将閣下の名前を出せるとは…)」
中年の軍人が若い軍人を追いかけたときにそんな会話があったとか、なかったとか……。
アキラとユウは道路の反対側にいたリュウと合流して、再び新しい家に向かって歩き出していた。どうやら、リュウは犯人に人混みへ逃げられて捕まえられなかったらしい。
「ユウ、なんであのとき所属を言ったんだ?」
ユウの後ろを歩いていたアキラが話しかけた。
「んー、宣戦布告ってところかな、別に≪A-Z≫のメンバーだってばれなきゃいいんだから」
と、ユウはアキラの方にくるっと振り替えって答えた。しかし、アキラにはなぜそんなことをしたのかが全くわからなかった。そんな話をしているうちにアキラたちは新居に到着した。相変わらず高級住宅街にその新居があった。どうやら2階建てのようだ。
「もう2人の荷物は部屋に置いてあるから荷解きして来ていよ」
アキラとユウはここで初めて自分達が大きな荷物を持ってきていないことを思い出した。
「個人の部屋は二階にあるからいってきていいよ」
アキラとユウが二階に上ると4つの部屋がありそれぞれのドアに名前の書いてあるプレートがかかっていた。そして、中はベットに机とごくフツーの部屋だった。
「ねーねーアキラーさっきの氷のドームあれって魔法?」
ふり返るとユウがドアに寄っ掛かり腕を組んでこっちを見ていた。ユウはすでに普段着から着替えたようで、大きめのパーカーだけを着ていた。アキラは床に座りユウにも座るよう促した。
「あの氷のドームはアンダーグラウンドにいたときに身に付けた。氷刀を出すときに形を想像するんだけど、そこでふと思ったんだ、違う形を想像したら色んな事が出来るんじゃないかって」
そう言うとアキラはユウの目の前で氷の粒を作ってみせた。アキラの造り出した氷の粒は相変わらず黒いままだった。
「ところでユウ、ズボンははかないのか?こっちとしてははいてもらった方が目のやり場に困らなくて済むんだけど」
すると、ユウはアキラに近づき耳元で「動きやすいからだよ」と囁きアキラの部屋を後にした。ユウからすればいたずら感覚、しかし、アキラは何かの作戦かと深読みに深読みを重ねるが意図が分からず最終的には夜ご飯に呼ばれるまでベットの上でボーッとしてしまった。
リビングまで降りると変わらず大きめのパーカーだけを着ているユウが夜ご飯の準備をするリュウの手伝いをしていた。
「あ、アキラやっと降りてきたー寝てたのかい?」
リュウが麺の湯切りをしながらアキラに聞いてきた。
「…考え事してた…多分」
と、まだリュウになれてないのか言葉が途切れ途切れになっていた。ユウはその様子を皿運びをしながら横目で見ていた。アキラはアンダーグラウンドから帰ってからずっとこの調子だった。ユウ以外の人と喋ろうとすると一気に口数が減るのだ。
「はい、完成!特製ラーメンだよ!ちなみにユウの依頼通り、味噌だよ」
そう言いながら二杯のどんぶりをテーブルに運んできた。
「いただきまーす」「…いた…だき…ます…」
手を合わせてそう言うとまだ熱々なのにもかかわらずガツガツと食べ始めた。あっという間に食べきり汁までのみ干し最高の笑顔で「ふぅ、」と言った。
(はぁ、こんな幸せそうな顔見たら敵の仮拠点殲滅作戦の話が切り出せないじゃないか…まぁ今回はいっか)
今のアキラとユウを見ていて、目の前にいるこの二人が本当に七百万人を斬ったのかと疑問になるほどに平和な時間がリュウに流れた。
「ラーメン熱かったでしょ、はい、水(二人には悪いけど…)」
リュウが水をアキラとユウに水を持ってきた。
水も一気に飲み干すと2人はそれぞれの部屋に戻っていった。ユウはそのままベットにうつ伏せになって、隣の部屋ではアキラがそのまま床に倒れ込んで寝てしまった。
アキラやユウが寝てしまった一方でビル街は酔っぱらいのおじさんや若者で賑わいをみせていた。しかし、そんなビル街の中にも廃墟ビルは存在する。そんななか唯一賑わっている廃墟ビルがあった。
「や、やめてくれーーー」「死にたくない」「誰か!誰かぁぁー」
どこを見ても暗闇で、あちらこちらに黒い矢が刺さり血まみれになりながらも助けを呼ぶ声が辺りに響き渡っていた。
「今日もビル街は賑やかだ」
「もう少し速く掃除できないんですか~いつまでもあんな輩の叫び声は聞きたくないです~」
賑やかな廃墟ビルの隣のビルの屋上に一組の男女がいた。男はクロスボウをかまえ、女の方はその様子を見るようにベンチに腰を掛けていた。
「そんなことを言いながらアイツラに≪ヒール≫をかけて少しでも長く悲鳴の大合唱を聞こうとして居るのはどこの誰やら…ハンナは相変わらず残酷な人だね」
そう言いながらその男は賑やかな廃墟ビルを黙らせてクロスボウを背負い夜の闇に消えていった。
「それ~人のこと言えませんよね~…さて、後始末後始末~」
2人の去った現場には23の穴が空いている死体が残されていた。
翌日の10時、アキラとユウはリュウに連れられ入学させてもらう国立第二総合学校の応接室にいた。リュウはコーヒーをすすり、アキラとユウは砂糖多めのカフェオレを飲んでいた。
「ねぇ、アキラ本当に私、眼帯つけなくてもいいの?」
両目を開けてるユウが不安げにアキラに問いかけた。両目を開けていてもユウには右目しか見えていないが、アキラの「眼帯外してるほうが可愛く見える」というこの一言で現在にいたる。
「大丈夫、意識してれば見えなくなるようになったから」
そんな話をしているとノックをして一人のおじさんが入ってきた。
「お待たせしました。校長のゲンと言います」
向かいのソファに座り話し始めた。黒髪のオールバックで30代後半ぐらいであろう、アキラはそう冷静に分析した。
「どうも、保護者のリュウです。右がアキラで左にいるのがユウです」
リュウに紹介をされアキラは一礼をして、それと対照にユウは校長に手をふった。
「今回のことはすべてリコッタ大将閣下から書類を受け取ったときにお聞きしています。では保護者のリュウさんはこちらへ、アキラさんとユウさんは制服の採寸へ、係りの者が案内します」
そう言って校長とリュウは奥の部屋へ、アキラとユウは制服の採寸が行われているとゆう被服室へ案内された。被服室内では採寸待ちの人たちが並んでいた。
「えぇっと2人は普通科に入学予定だから奥から二番目の列に並んでください」
アキラとユウは指示通り奥から二番目の列に並んだ。前には6人ぐらいしか並んでいなかった。
列に並ぶと不意に前に並んでいた若干天パな男子が振り向いてきた。
「君達もこの学校の普通科にはいるの?」
あまりに突然すぎてアキラもユウも言葉が出てこず、うなずくことしかできなかった。
「あ、ごめん。僕の名前はケンタ・HM!ふたりは?」
驚きぎみなアキラとユウは気にせず話は続けられた。
「ユウ!」「……アキラ…」
「そっか!よろしく!」
2人のゆっくりな返答に対してスパッと返すと最後に手を出して握手を求めてきた。アキラは戸惑いながら、ユウはもう彼のテンションになれたのか同じテンションで握手を交わした。
そんなこともありながらアキラとユウに採寸の順番が回ってきた。この世界の採寸はとても簡単で、筒状の機械のなかに中に入って突っ立っているだけだった。係りの人の話ではたったそれだけで採寸に必要なサイズだけを読み取ってくれるらしい。
採寸を終えた2人は学校内のあちこちを見て回った。職員室や体育館的な場所といった重要な部屋に、射撃訓練室や訓練用武具倉庫などのアキラ達の知識にはない教室にもいった。
「んぁ?てめーどこ見て歩いてんだよ」
強面の男子生徒にユウがぶつかってしまった。
「あ、ごめん」
「あ?何がごめんだ?目上の人に謝るときはごめんなさいだろ舐めてんのか?」
ユウの誰にでもタメ口で話してしまうくせで相手を余計に怒らせてしまった。男子生徒は腰のホルスターから銃を引き抜きユウに向けてきた。周りがまたアイツ年下いじめてるというあわれなものを見る目でこちらを見ているが、アキラもユウも平然としていた。
「今なら様付けで名前を呼べば許してやらなくもないぞ?」
ここでユウのねじまがった遊び心が暴走し出してしまった。
「貴様」
ユウが面白がってふざけた回答をした。 当然男子生徒はさらにキレた、それを見て回りの人たちはヒヤッとしていた。
「てめぇ、俺様がこの学校の序列26位だと知っいての発言か?」
一触即発の状況に周りはただただ立ち尽くすだけだった。そんな中、生徒は引き金に指をかけアキラは冷気を手元に集中させ始めた。そんな時、
「エンチャントマジック・サンダー」
聞き覚えのある声が聞こえ、その方向から何かが目の前の男子生徒に被弾した。すると一拍おいて男子生徒は呆気なく倒れてしまった。飛んできた方に目を向けるとクロスボウをかまえているリュウがいた。
「大丈夫かい?アキラ、ユウ」
クロスボウをしまいながら寄ってきた。
「アキラ…なんか、変な学校に来ちゃったね」
「奇遇、俺もそう思った」
アキラとユウはリュウに連れられてそのまま家まで帰っていった。男子生徒は倒れた後すぐに保健室に運ばれ、目を覚まし次第厳しい指導がなされるらしい。
「基本あーゆうのは軍事科の生徒らしいから普通科にはいる二人にはあんまり縁がないと思うよ」
リュウは帰りの車で説明を始めた。
「今回の2人は公務員科まぁ普通科のことなんだけどそこで一般教養を学んで来ることになってんだよ。でね、ここから先が結構重要でね、戦闘に関する行事とか、あのーあれ、あぁ、序列決定戦とかの自由参加のイベントがこれからあるんだけどそーゆーのに出る場合はしっかり相応の順位をとってきてね」
とアキラとユウは相応の順位をトップに立てとしっかり解釈して心の中で絶対出ないと決心したのであった。
その日の夜アキラとユウは採寸した制服がその日のうちに届いて少し驚きながらも異世界の学校にワクワクしていた。
「いったいどんな学校生活になるのか明後日が楽しみすぎて私、眠れないかも」
そんなことを言いながら二階へ上がるユウを見送りアキラはリュウに話しかけた。
「…学校…俺たちのこと…どこまで公開していいの……」
変わらずトギレトギレのアキラの言葉にリュウは耳を傾けて聞いた。
「アキラは元帥ってこと位かな、大変なのはユウなんだ、空間の化身であることを隠さなくてはならない勝手に発動してしまうものはしょうがないけど基本的に能力を使っちゃいけない」
アキラはそれを聞いて大したことないと安心した。ユウは能力もそうだが戦闘技術もチートレベルだから戦闘禁止を言われるかとアキラはヒヤヒヤしていたのだ。アキラは何だかんだで学校の序列決定戦で無双するユウを想像してクスッ笑うと部屋へ向かった。
「え?アキラが笑った…なんで?」
アキラの居なくなったリビングでリュウは独り言のように呟くのだった。
翌朝、少し早く目覚めたアキラがリビングに行くとどこか見たことのあるユウと同じぐらいの背の低い人がキッチンに立っていた。
「お、おはようございます!か、カルパ…アキラ様!」
元気な挨拶だったが、カミカミな上にカルパスと言いかけていた。
「…おはようございます…?」
アキラの目の前の子が顔をあげるとその見覚えのある顔に驚いた。
「…ヒナ…だっけ?」
「そう、ヒナをアキラの家からスカウトしてね三年契約でこの家の使用人として来てもらったんだ」
階段から降りてきたリュウが説明をしてくれた。
「あ、…リュウさん…おはよう」
「あー!アキラの家にいたメイドの人だー」
リュウに続いてユウも下に降りてきた。アキラは明日が楽しみなのはみんな一緒なんだと思いながら席につきヒナの作ったきなこ餅を食べた。
「ん?なんでみんなパンなのにアキラだけきなこ餅なの?」
ふと疑問に思ったユウが質問を投げ掛けた。
「あ、そ、それはアルバートさんからの助言で、その、」
「あぁ、アルバートさんはきっと甘いものを食べてるときしか色が識別できないアキラに朝ぐらいはしっかり他の人の顔を見てほしいって考えたんじゃないかな?」
言葉がでなくて困っていたヒナにリュウが助け船を出した。そして、ヒナが「そ、その通りですあ、ありがとうございます」と言い一礼するとキッチンに向かい食器を洗いだいた。
「まだ初日で緊張してるのかな?ヒナちゃんかわいい」
ユウがそういうとヒナは顔を赤らめ、ささっと洗い物をして自分の部屋へ戻ってしまった。しかし、すこしすると制服を着てバックを持ちリビングに戻ってきた。
「そ、それでは進級式にいってきます」
まだ少し恥ずかしそうだった。
「うん、気を付けてね」
「いってらしゃーい」「…いってらしゃい?」
みんなのお見送りを受けてヒナは家を後にした。そのあとアキラとユウはリュウからヒナの説明を受けた。
話によるとヒナは現在、第二総合学校の中等部の2年生で生徒会中等部部長候補筆頭らしい。本人はやりたいわけでもなく、周囲の友達やクラスメイト、崇拝している人たちがヒナの優れた学力と戦闘力を評価した結果だとか…。
「すごーい!ヒナちゃん崇拝されてんだーいいなー崇拝されてみたいなー」
「ユウを崇拝するやつは連続殺人するやつぐらいだろうな」
するとユウは一枚のコインを割り出てきた大きな銃をアキラに向けた。そして、その向けている大きな銃はついこの間見せてもらった20mmK2sクラスタだった(アキラとユウは特別な訓練を受けています。ムカついても人に対物ライフルは向けてはいけません)。
「冗談だよ?ね?冗談だって!すいませんでした!」
一方そんな話をされているとは知らないヒナは、高級住宅街を抜けて道中のコンビニの前に来た。ヒナはいつもこのコンビニで友達と合流している。しかし、朝のユウのからかいもあって30分ほど早くついてしまった。しかたがないのでコンビニで昼ごはんとしてサラダにサンドイッチついでに牛乳を買った…ついでに…ついでに。
「やっほ、ヒナっち!今日も牛乳が主食?」
「おはよう、ヒナヒナ。今日も牛乳が主食?」
赤い髪の女子がからかいながら、暗い青色の髪の女子をつれてそれぞれ挨拶をしてきた。2人はヒナの親友で赤髪の方がミナツで暗い青色の髪の方がミフユだ。二人とも得意武器は剣でお揃いの剣を腰に下げている…仲良し姉妹だ。
「ちがいます!ついでです!べ、別に身長なんてき、気にしてません!」
「だれも身長を気にしてるかなんて聞いてないよ?」
ヒナは自滅し、また顔を赤くしながらうつむいた。
「ったく、朝から騒がしいなぁ(今日も変わらず可愛い三人だ)」
そう言いながら隣の路地からメガネをかけた(正しくはメガネ型の端末)男子が出てきた。
「おはようございます!アキトさん」
「やほーアキっち」「アキアキおはよー」
(おおおーやっぱりかわいいいいい)
アキトと呼ばれた男子はハードケースを背負っていて、なかには愛銃のMptm50bチャージ式変形銃Pro型とそのカートリッジが入っている。(ちなみにMptとは量産型を示す)
「オッス、ん?アキトお前いつもの短剣はどうしたんだよ」
そう言いながらヒナと同じくバックだけ持っているガタイのいい男子が道路を渡ってきた。
「お、気づいてくれたか、実はさぁ、春休みに隠しナイフにハマっちゃってさ…」
アキトが語り始めてしまった。こうなるとアキトの話は止まらない…。アキトは自分の装備の話になるといつまでも、何時間でも、日がくれようとも止まらなくなってしまいがちなのだ。
「すまん、またスイッチ入れちまった」
「もーなにやってんのハルっちー」
アキトのスイッチを入れてしまったガタイのいい彼はハルミチ、ただの筋肉。
そんなこんなで5人は第二総合学校中等部の校舎の近くまで来た。辺りでは何人かがお辞儀をしている。
「ミナツさんたまに両手を会わせて拝んでるひとが…」
「ヒナヒナそれは見ない方がいいよ」
ミナツが拝んでる人のからヒナが見えないように立ち、ミフユがヒナに注意をした。
「あぁぁぁ!ヒナ様に目があった!よっしゃぁぁ!」
手遅れだった。
「ガハハ、春休み前より崇拝してるやつが増えてやがる」
「そんな呑気なこといってる場合かよ、一応俺らも対象には入ってんだぞ?ったく、騒がしいたらありゃしない」
そんなこんなでなんとか昇降口までたどり着いた。
しかし、2年生のほとんどが崇拝してるため校舎内でも同じく囲まれてしまった。そこでアキトがひらめいた。囲んでる一人に近づき何かを言うとその内容が一気に広がったようで、さっきまで囲ってた人たちが廊下の両サイドにならんで敬礼をしだした。
「あ、アキトさん?な、何をしたんですか…」
目の前の光景にゾッとしたヒナが若干怯えながらアキラに質問した。
「騒がしいから道作れって言っただけだ(ヒナ様を心から崇拝してるならヒナ様のための道を作って敬意を表すべきじゃないのか?とか言ったなんて言えない)」
そして、時折なにも知らない3年生が巻き込まれながらも教室までの道が出来上がったのだった。
教室にはいって数分もしないうちに朝のHRが終わり進級式に出るために体育館のとなりにあるホールへ向かった。一番前から初等部、中等部、高等部と並んで座っても後ろには余裕のあるかなり大きいホールだ。
全員がそろったのを確認した校長が60分間スピーチを始めた。校長の話が終わると今度は生徒会長からの話がある。ちなみに、この学校のほとんどの生徒が校長の話の最初から60分ほど睡眠をとる…。
「ヒナっち!もう進級式終わったよ!起きて!」
ミナツに起こされたヒナはゆっくり目を開けて起きた。
「ヒナヒナもしかして春休み中のお仕事の疲れがとれてないんでしょ」
と言いながらヒナはミフユに頭を撫でられた。
「だ、大丈夫ですよ、……あ!お昼ごはんを作りに早く帰らないといけないの忘れてました!お先に失礼します!!」
ミフユの手をどけて立つと足早に教室へ向かった。
「もしかして、ヒナヒナはまだ仕事してるのかな」
「面白そうだし、追いかけてみようぜ」
「あたしも気になるから追いかける!」
そういってミナツとハルミチがヒナを追いかけ始めたので、ミフユとアキトは仕方なくそれに付いていくことにした。
外は学校が午前中で終わり皆がそれぞれ部活なり下校なりで賑わいを見せている。しかし、ヒナにはそれほどの余裕がない。もうすでに11:30を過ぎていて走っても昼ごはんに間に合うか微妙な時間なのだった。そんな中ヒナが急いで門を出ると目の前に1台の車が止まった。
「ヒナちゃん!迎えに来たよ!」
ユウが元気一杯に助手席の窓から顔を出した。
「今日の昼はヒナも忙しいだろうってことで外食することにしたんだよ、さ、乗った乗った」
運転席からリュウの声が聞こえて目の前のスライドドアが開いた。奥にはアキラが静かに棒つき飴をなめていた。
「ほら、そこに隠れてる4人もよかったらどう?8人のりだから乗れないことはないよ」
そのリュウの一言で門の影からヒナの友達であるミフユ、ミナツ、アキトにハルミチが若干驚きながら出てきた。
「リュウ様よ、よろしいのですか」
4人が追いかけてきていたことに驚きつつもリュウにしっかり質問した。
「かまわないさ、ヒナのお友だちならね!あ、あと様じゃなくてせめて、さん付けで呼んでほしいな」
「は、はい」
追いかけてきた4人は少し話してからお邪魔しますと言い車に乗った。車は近くのファミレスに止まりみんなはそこで昼ごはんを食べることになった。8人がけの席がないのでミフユ、ミハル、アキト、ハルミチの四人はアキラ達とは少し離れた別の席に座ることになった。
「んー」
ミナツ達のテーブルで一人考え事している人がいた。
「どうしたのハルっちそんな考え事してる風な仕草しちゃって」
「してる風とはしっつれぇな、俺ぇはただあの黒い髪の人と白い髪の人どっかで見たことある気がして思い出そうとしてるだけだぜ?」
「どうせそれはいつもの気のせいだろ?ほら飯冷めるぞ?食えよ」
アキトに言われハルミチは一度考えることをやめて食べることに専念した。
会計を終えて外に出るとミナツ達はヒナ達にお礼を言ってその場を後にした。
「ハルっちはまだ考えてるふりしてるの?」
帰り道いつも通り下らない話で盛り上がってる中で一人だけ話に参加せずにいたハルミチにミナツが話しかけた。
「んぁ?あぁ、別に大したことはねーよ、もう思い出せそうにねぇや、じゃぁな」
そういうとコンビニの前の横断歩道を渡り帰っていった。
「なんだあいつ思い出せそうにないとか言いながらすごい考えながら歩くじゃん…あ、電柱にぶつかった」
「あれ?ハルハルいつもと曲がる角違くない?あ、気づいた…うん!大丈夫そうだね!」
とミフユが断言した。
「ミユ姉がそう言うなら大丈夫!じゃぁねアキっち!」
そうしてアキトはコンビニの前に一人ポツンと取り残された。
「いや、どう見たってハルのやつ大丈夫じゃないだろ!…っつても無駄か…」
そんなアキトの心の声は帰ってしまった他のメンバーには聞こえないのであった。
夜になり良い子が寝る時間が過ぎた。暗闇に紛れながら第二科学都市に何人かの人を従えた少女が降り立った。
「巫女様、準備段階で誰かに支店が1つ襲撃されちまって23人ほどやられたが、計画の準備できたぜ」
どこか怪しげな笑みを浮かべながら斧を担いだ大男が少女に話しかけた。少女はうなずくと着ているパーカーのフードを目深くかぶり目の前のビルに入っていった。
「…もくひょうはくうかんのけしんのとなりにいるひとのじょうほう」
ビル街を一望できる最上階の一室、そこに用意された黒革の椅子に座り巫女と呼ばれた少女は命令を下す。アキラの知らないところでひとつの組織が動きだし、この組織やその協力者の陰謀によってアキラの情報が集められていく。そして、
「…はぁ、一体誰なの…何のために…」
いち早く気づいたユウはアキラと離れた途端見えない敵に怯え出した。
翌日、まだ少し冷たい風がふく中、国立第二総合学校のホールで入学式が開式された。辺りには校長先生の声と生徒達の寝息が聞こえる。
「ねぇアキラ…あの校長、話長くない?もう20分ぐらい経ってるけどまだ終わりそうにないよ」
ユウは若干うとうとしながらアキラに話しかけた。しかし、アキラはもうすでに夢の中にいた。
「寝ちゃってる…」
そうしてそこから十分後には式が終わりアキラもユウも解放され、各クラスの教室でHRとなった。
「あ、やぁ!久しぶり!アキラくんにユウさん」
唐突に後ろから誰かが話しかけてきた。
「あ、採寸のときに握手したひと!えっと…ゲンジ?」
「…違う…ケント…」
「うん、両方とも違うからね?僕はケンタだからね」
ユウの間違いをアキラが訂正したが一文字間違えていたようだ。
そんな話をしているうちに教室のドアが開いた。あまりにも早く唐突だったのでみんな慌てて自分の席に着いていった。アキラとユウもすこし遅れて一番後ろの自分の席に座った。そして、入ってきた先生を見てアキラだけが驚いた。
「ん?どうしたのアキラ、なんでそんなに驚いてるの?」
「…え?むしろなんで驚かないの?」
アキラに更なる驚きが押し寄せた。
「だって目が悪くてセンセーの顔が見えないんだもん。誰だかわからなきゃ驚きようがないじゃん?」
アキラはユウの唐突なカミングアウトに驚き口に入っていた棒つき飴を落としかけるのだった。