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守れなかった。でもここでこいつを仕留めないともっと犠牲者は増える


僕がそんなことを心の底から思ったのは中学二年の冬だった。その時のかじかんだ手の感覚や頬をたれる血の感触は今でも覚えてる。目を閉じればその時に見た血の海がまぶたの裏によみがえる。アキラも僕もこの時の記憶は数十年たっても異世界に飛ばされても消えなかった。



~国土の端にあるスラム街〜

空には星が輝き冷たい風が頬をかすめる。そんな中、アキラ達は音を立てず誰にも気づかれずターゲットの家に走っていた。着くとそこにはそこそこの大きさのボロボロな舘があった。


「……。アキラ、僕達ってもしかしたらまた…」


チェンジャーのセーフティーを解除しながらリョウが悲しそうな顔をしながらアキラに話しかけてきた。


「俺だってもう人を殺したくはない。でも、俺らはもう軍の人間、しかも異世界の。これからもやらなきゃいけなくなる場面はある。いつまでも怖がってられない」


アキラはレインクラウンをホルスターにしまい、出る時にアルバートが渡してくれた眼帯を外してサングラスをかけまたレインクラウンを構えた。


「リョウも元師も、戦闘服何も装備してないっすけど大丈夫ですけぃ?そのままだとただの黒いライダースーツっす、戦闘服は自分たちでかってにカスタマイズしても大丈夫なんで暇な時にスイッチとPC繋いでやってみるといいっす。着せ替えゲームみたいで面白いっすよ」


と、雰囲気を壊すような口調で今回の監視役の第四軍団軍団長のクラッツ大将が話しかけてきた。どうやらグレーのコートの中に防弾チョッキや手榴弾など色々装備している。フードにガスマスクと表情は見えないがおそらく笑っているのだろう。


「心配はいらない。これからミッションを遂行する。俺とリョウで館をクラッツ大将は周囲の家に敵の仲間が居ないかの確認を頼む」


「へい」「うん」


アキラが配置を言い渡し今回のミッションは始まった。

アキラとリョウは玄関から慎重に家の中に入り1階の部屋を分担して捜索した。しかし、1階にはなにがある訳でもなく合流して2階へ上がった。すると、奥の部屋の方から男の声が複数聞こえてきた。


「奥の部屋にいるよねこれ」


「あぁ、」


そして、奥の部屋の扉を少しだけ開けると椅子に縛り付けられている女の子がいた。女の子を囲うように銃で武装した男たちが7人立っている。


「…。アキラ、僕が先に入る。僕があそこに見えるランタンを壊したらすぐに王女様のところに走って王女様連れて窓の外にクッションがあるから飛び出して、あ、左目つぶらないでおいて」


「りょ」


するとリョウは扉を開け放って中へ入っていった。パリンと音がするのと同時にアキラは正面に走った。そして、王女を抱えて窓の外に飛び出してリョウの言った通りセットしてあったクッションに落ちた。その後すぐに左目を経由してリョウが離脱してきた。


「ここにいちゃだめ!早く逃げないと危な…っ!?《リフレクトウォール》!」


突然アキラたちの隣にあった壁が爆発した。間一髪でリョウのリフレクトウォールが間に合ったがはね返しきれず3人は隣の家まで飛ばされた。アキラとリョウはすぐに立ち上がって銃を構えたが王女は衝撃で気絶してしまった。


「ようやく会えたなぁ俺様は爆破の化身。空間の化身さんよぉ迎えに来てやったぜぇ?巫女様がまってるからさっさと来い」


そんなセリフを吐きながら大柄で斧を担いだ男が燃え盛る館から姿を現した。そして、舘の火があたりに燃え移り男の顔を照らした。


「!?お、お父さん……なんで、なんで……生きてるの…なんで……ここに」


「リョウ!しっかりしろ!リョウ!他人の空似だ!」


しかし、リョウはすでに混乱状態に陥っていくら揺すって声をかけても返事がない。こっちが混乱しているのを見て男はニヤニヤしながらこちらに迫ってきた。


「来ないで!やだっ!来ないでー!」


リョウは今までにないくらいの大きな声で叫んでいた。そして、チェンジャーを連射モードに切り替えてフルオートで乱射しだした。それでも男は全て避けながら近づいてくる。


「リョウ!っ、くっそ《アローレイン》っ!」


アキラが空にめがけて撃った一筋の黒い光は男の頭上で弾けて黒光の雨をふらせた。降ってくる途中黒光の雨はさらに別れ黒い霧雨となり男に襲いかかった。


「ちっ、厄介なスキルだーなぁ!」


「っ!しまった」


男は後ろに飛び燃えかけの壁を蹴り斧を構えリョウに向かって突っ込んで行った。が、ここでとうとうリョウの中で何かが切れた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


リョウの困惑と殺意の叫びが館をやき尽くす炎の音よりも強く夜空に響き、それと同時にリョウの周囲に波動が起こった。男は波動にぶつかって数メートル弾き飛ばされた。もちろん被害は男だけじゃない、アキラ側にも波動が飛びアキラも弾き飛ばされた。


「いてて、っ、リョウ!王女様!」


と、アキラが呼び掛けたがどちらも反応がなかった。リョウの方に目をやるとリョウはその場に倒れ込んで動かなくなっていた。そこから王女の方に目をやると、そこにはグレーのコートをたなびかせながらクラッツが立っていた。


(良かった王女様には被害はなかったか)


「大丈夫っすけぃ!」


クラッツは王女を迎えに来た隊員に引渡して、アキラの元へ掛けてきた。


「なっ!?元師の腕折れてるっす!すぐに手当を!」


「大丈夫だ、それよりもあの大柄の男は」


「自分が着いたと同時にどこかへ逃げたっす」


アキラは腰にさしていたグランドソードを杖代わりに全身の痛みを堪えながらもリョウの元へ歩るいた。しかし、弾き飛ばされた衝撃が強かったのか身体が思うように力が入らずにすぐに倒れてしまった。


「元師!無茶っす早くこれを!」


クラッツはアキラに中に液体のようなものが入っている15センチほどの長さの謎の筒を渡してきた。


「これは……?」


「体内FSP活性型完治薬っす!それを注射すると数分で細かい傷から複雑骨折までなんでも治せる優れものっす!傷を受けてから20分以内に打たないと效果がないっす!」


「えぇっと?こうかな?」


アキラは筒の面を腕にあてた。すると、プシューと音を立てながら中の液体らしきものが徐々に筒の中から消えていった……。


「ん?クラッツ大将?治らないけどこれは?」


「!?そんな訳ないっす!大佐には新品を渡したはずっす!そんな不備が起こるわけ……?何してるんすけぃ?」


アキラは《メニュー》からアイテム欄を呼び出し、数多くあるアイテムの中から《完治薬》を取り出した。


「……?なんすかそれ」


「俺の飲みなれた完治薬」


そう言うとアキラはビンの蓋を開けて中身を一気に飲み干した。


「おぇ、これってこんなに不味かったんだ……知らなかった」


そんなことを言いながらも折れた腕や打撲、内出血全ての外傷が一瞬で治って行った。


「は、はぇー。普通なら服用してから数分は動けねぇってのに…」


クラッツがぼそっとそんなことを言っていたがアキラはそれを聞かずにリョウの元へ行ってリョウをおぶるとクラッツのもとへ戻った。


「もうこれは撤退でいいのか?」


「そうっすね。あ、でも王城に報告に行かないとっす。車用意してあるんで運転するっすよ」


「あ、あぁ助かる」


少し歩くと日本で言うジープのようなごつい車が置いてあった。アキラは車の後ろの席にリョウを乗せて助手席に座った。


「なぁ、クラッツ大将、さっきのやつ自分のことを爆破の化身だって言ってたんだ。あと巫女様が待っているとかあいつは何者なんだ?」


「奴は…いや奴らは《神々の化身》と名乗っているっす。奴らは新しい世界を作ろうと神話の通り12化身を集めてるっす。1番恐ろしいのは他の化身たちを集めるためならなんでもしてくる所っす。ある時は村を壊滅させ、またある時は一国を壊滅に追い込んでるやばい奴らっす。」


と、声を少しふるわせながらも説明してくれた。ガスマスクのせいで顔は見えなかったがクラッツが手にしているハンドルをさらに強くにぎりしめ少し震えているのが分かった。アキラにはそれがどんな感情か顔が見えなくてもよく分かった……。

そこから数十分、太陽が昇り始めて辺りが明るくなってきて朝日に照らされた王城の目の前にきた。前に来た時と同じく車を地下の駐車場にとめて城内に向かった。リョウはまだ目が覚めないので会議室の椅子の上に寝かせた。

玉座の間に入るともうすでにゴードン国王がいた。


「此度はご苦労であった。さっき娘が目を覚ました。よく無事で返してくれた感謝する」


玉座に腰をかけながらも深々と頭を下げていた。すると、まわりの人達が「お顔をお上げください」と慌てていた。


「王様、一つ質問をよろしいでしょうか」


アキラは失礼を承知しながらも話しかけた。こんどはアキラに周りの人達が「無礼だろ!」などと言い出した。


「かまわん」


その一言で周りは一気にしずまった。


「今回の救出計画になぜまだまだ新人の自分とリョウ……いえモッツァレラ大将が選ばれたのですか?」


なぜ、大事な娘の救出に新人をしかも2人を向かわせたのか、なぜそこまでどこの馬の骨だかわからないやつを信用出来たのか。これはミッション中もリョウとアキラが思っていた1番の疑問だった。


「うむ、それはナッツ大将の助言からだ。『あの二人は化けます』とな、その言葉を信じたまでだ。本来ならクラッツ大将で十分遂行できたのだがな」


その言葉にアキラは少しだけ嬉しくなった。


「あ、ありがとうございます!」


そして、報告を終えてリョウを背負ったアキラは無駄に大きい我が家に帰ってきた。無駄に大きい壁の前を歩き、無駄に大きい門をくぐり、無駄に大きい庭を進み、無駄に大きい玄関を開けてもらって、無駄に大きい客室にある無駄に大きいベッドにリョウを寝かせ、あとはメイドたちに任せてアキラは書斎に向かった。


「アルバートさん、12化身の神話ってここにありますか?」


アキラの後ろについてきたアルバートに聞いてみた


「書庫にあると思われます。探して参りましょうか」


「お願いします」


アルバートは来た道を戻りアキラは書斎に入った。椅子に座ったアキラはふと、《メニュー》を呼び出して装備画面を呼び出した。


「あれ?カスタマイズなんてこんなもんあったっけ?」


そう言いながらもカスタマイズを押すとそれは戦闘服のカスタマイズだった。


「確かにこれは着せ替えゲームだな…軍服っぽいやつから私服っぽいのまで色々あるな……それよりもこの《メニュー》はこの世界ではPCと同義なのか?」


アキラは《メニュー》を閉じるとポケットから1枚のコインを取り出した。


(確かこれが戦闘服に着替えるスイッチだっけ?どうやって使うんだろ)


すると、神話の本を探しに行っていたアルバートが部屋を訪ねてきた。アキラは「どうぞ」と言ってとうした。


「申し訳ございません、12化身に関する神話が書かれている本がありませんでした。」


アルバートが深く礼をして謝罪した。


「大丈夫ですよ!?そんな謝らなくて!無茶なお願いをしたのはこっちなんですから(あれ?無茶なお願いしたっけ俺)」


「ありがとうございます。本はなかったのですがメイドたちに聞いたところ一人が言い伝えを知っていました。お聞きになりますか?」


「あ、はいお願いします(仕事のスピードすご…)」


「……。戦闘服から着替えなくてよろしいのですか?」


アキラをじっと見たあとアルバートがアキラが戦闘服のままなのを指摘した。


「あ、その、脱ぎ方わかんないです……引っ張っても脱げないんですけど……」


「《バトルエンド》と、言う、もしくは戦いが終わったことを強く意識すれば消えると聞いております。逆に指輪に魔力を流したりコインを割ったりすると装備することが可能です」


「ぇ、と《バトルエンド》」


アキラが戦闘服を脱いだのを確認してアルバートが「入りなさい」というと一人のメイドが入ってきた。背が少し小さく幼い感じのメイドだった。


「め、メイドのひ、ヒナといいます」


自己紹介で噛んだ恥ずかしさからか顔を赤くし、早口になって勢いよく礼をした。


(か、カワイイ…萌って、このことなんだろうな…ちょっと違うのかな?)


そんなことを思いながらもアキラは頷いて話すように促した。


「え、えぇっと『始の化身、選ばれし11の魂を食いし時森羅万象を司る』だったと思います」


「はじまり?ってどんなのなんだ?」


しかし、ヒナは黙ってしまった。そこで、アルバートが「もう戻っていいですよ。あとはこちらで話します」と言うとヒナは「申し訳ございません」と言い部屋を後にした。


「では、『始』についてはこちらで話させて頂きます。数十年前から現在まで『始』に対して何人かの学者が調査をしてきましたが、様々な説があり未だに明らかになっておりません。また、なかには12化身ではなく13化身だとゆう説もあります」


「そうですか……ありがとうございます」


と、アルバートにお礼を言いふと斜め上を見ると本のぎっしり詰まってる本棚の一番上の端に倒れている本を見つけた。違和感を感じて倒れている本を立てると……、突然ドアや窓の鍵が締まりどこかが開く音が聞こえた。辺りを見回してみると本棚と本棚の間のにあった柱が消えて複数の魔法陣が刻まれてる空間になっていた。


「これは……一体……」


「おそらくこれはかなり昔の転移の陣です。現在はこの技術は失われ、新たに作ろうと技術者がやけになっております」


それを聞いて何を思ったのか、アキラはおもむろに魔法陣の中へ入っていった。が……


「あれ?壊れてるんですかね動く気配がないんですが……?」


「魔力を通さなければ動きませんが?」


「え……、(やばい、魔力にステ振りしてないし、使ったこともないから流し方わからない!)」


そうアキラが混乱していると「お隣失礼します」と言って魔法陣の中にアルバートも入ってきた。そして、アルバートが魔方陣に手をかざすと魔法陣は光を放ちアキラ達を見覚えのない場所へ転移させた。


「おぉー、広い…ここは一体……」


「円卓に刻まれているシンボルからしてまだ国に認められていない時の初代A-Z(アーゼ)の基地かと思われます」


円卓には銃口どうしがくっついた銃を二本の刀がバツ印を書くように貫いているマークがあった。円卓を囲むように椅子が置かれていてその傍には上から垂さがるロープがあった。アキラが、垂れ下がっているロープを引っ張るとアキラはそのままロープに引っ張られて勢いよく上まで引っ張られて行ってしまった。


「う、、うーわぁーああぁー」


「アキラ様ー」


と、アルバートが追いかけるように近くのロープを引っ張りアキラのあとを追った。

アキラが不時着をして、アルバートが無事着地するとそこにはカラフルな武器や防具、私服や戦闘服などが沢山置いてあった。


「すごい、これは、武器庫か?アルバートさんここにあるやつって使って大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫だと思われます。ですが、よろしいのですか?ここにあるものは全て()()のガラクタで使えそうにないですが」


しかし、アキラは、持ち出しても大丈夫なのを確認すると速攻で物色を始めた。武器は取らず基本的に私服系統を物色して行った。ハンガーにかかっているものはすべてコーディネートされているものだったのでリョウに白系のを、自分に黒系の似合うものを選んで行った。ふと下を見ると足元に手榴弾やサプレッサー、マガジンなどの小物が雑に入っている箱があった。


「うわ、扱い雑すぎでしょ…。ゴホッゴホッホコリすごい…手榴弾何かの拍子に爆発でもしたらどうすんだよ…ん?なんだこれ」


箱の底に野球ボールぐらいの大きさの黒と白のマーブル模様の玉が入っていた。


「何かございましたか」


「いえ、特には何も(なんか、うん、なんか気に入ったから持って帰ろ)」


服や玉以外にもバタフライナイフなどの隠して持っていられる小さい武器がたくさん入っている大きめの箱を持ってアキラ達は家に戻った。

家に戻ると窓の外はもう夜だった。空に登る三日月が暗い部屋の窓の向こうに写り、窓を開け眼帯を外し両目で空を眺めれば暗い空に無数に輝く星が見えた。その景色はまるで意図的に作られたような少し虚しさを感じさせる夜空だった。そんな夜空の三日月や星でもアキラとリョウには明るすぎる夜空だった。


「リョウにも見えてるんだろうな……この景色が……」


冷たく吹き抜ける風を受けアキラは寝室へ向かいいまだ見慣れない天井を眺め眠りについた。




気づくと僕は暗闇にいた。歩いても歩いても暗闇だった。


「やぁ、リョウくん?いや、皆川 涼くん?」


どこからか僕の聞き覚えのない声が響いてきた。声を出そうにも何故か声が出なかった。


「ひどいなぁー覚えてないの?まさか、忘れたなんて言うんじゃないだろうね?」


振り返っても見渡してもそこに見えるのは全部暗闇だった。


「安心して?忘れても思い出させてあげるよ、せいぜいボクを楽しませて?」


すると、さっきまでいた暗闇から雪の降り積る神社の前にいた。しかし、様子がおかしい沢山の人がこっちを見ている。


『お前のせいで……』

『あんたが気づいた時点で警察にいえばうちの子は…』

『覚えてろいつか……』

『お前のせいで俺の…』


目の前にいる人たちが僕に向かって批難の声を上げてる中、突然大爆発が起こった。積もった雪があちこちで赤く染まり白いカーペットのような雪が真紅にそまっていて、中学生の僕が止められなかった自分への怒りと混乱でしゃがみこみ涙を流している、手に握った包丁には赤い液体が凍りつき、そばに倒れているお父さんの周りの雪も太ももと首あたりから雪が赤く染っていっていた。お父さんを挟んで反対側にはアキラも同じく包丁に赤い液体を凍りつかせていた。


「思い出してくれた?君のせいで沢山の人が犠牲になって沢山の人の人生がこの事件のせいでめちゃくちゃになったんだよ?」


また、暗闇に戻され、また、見えない人が話しかけてきた。しかし、そこで見えない人が話しかけてこなくなった。見渡すとあたりの暗闇に光があちこちから差してきた。それはまるで夜空の星々のようだった。


「また、アキラに助けられた……。」


目を開けるとそこは広い部屋だった。


「ん……ここは…」


「ここは、アキラ様の屋敷の客室でございます」


すぐに返答があってリョウは少し驚いた。


「(アキラの家の人かな?)えっと、あなたは…」


「申し遅れました。私は、アキラ様の執事のアルバートと申します。」


リョウは起き上がって立とうとしたが、立ち上がれずに床に落ちてしまった。


「その状態ではまともに動けませんどうか今晩はベッドでお休み下さい」


アルバートがリョウを持ち上げてベッドに寝かせてくれた。


「特に怪我はないのになんで動かないんですか」


「アキラ様は疲労だと仰られていました」


そう言うとアルバートは一礼して部屋を出ていった。リョウは、今の状況が分からず、分かっているのはただ、父親に似た誰かと戦って自分がどうにかなったぐらいの記憶だけだった。そこで自分が何をしたのか、何を思ったのか、何を話したのか何もかも覚えていない。そんななかただ一つだけするべきことがわかった。


「強く、もっと、強くならないと、今度は私が…」


そう決意を決めてリョウは眠りに入った。


翌朝、窓からの日の光を浴びて目を覚ましたアキラはメイドの人が用意してくれた水で顔を洗うと食堂へ行き朝食をとった。相変わらず豪華な朝食を食べた後、警備の人に「30分後に練習の相手をしてもらえませんか」と頼んでアキラは書斎に入った。書斎には昨日、昔のA-Z(アーゼ)の基地から持ってきた小物や服が部屋の隅に置いてあった。アキラはその中から黒のTシャツとジャケット、ズボンに靴、ネックレスとサングラスついでに黒十字のピアスがセットになっているハンガーを取り出して《メニュー》を呼び出した。


「えぇっと、装備画面でカスタムで……、これかな?《スキャン》」


すると、パーセントが表示されてスキャンが開始された。10分後100%になったのを確認すると、アキラはコイントスをしながらそれ以外を持たずに庭へ向かった。庭に出ると、アキラはコインを片手で握りしめた。


「……。あれ?壊れないな、硬すぎでしょこれ、俺の力じゃ割れないんじないか?」


今度はコインを石の上に置いて踏みつけてみた。すると、パキンと音を立ててコインが砕けた。それと同時に魔法陣が足元に展開され、魔法陣から出てきた黒い光の渦がアキラを包んで消えた。残ったのは上下真っ黒の服を着たアキラだけだった。


「おー、カッコイイ!しかも動きやすいや」


その場でしゃがんでみたり軽く体操をしたりと動き、「よし」と気合を入れて直立すると1つ奥義を発動させた。


刹羽流(さつばりゅう)戦闘術奥義《氷晶ノ刀》ー


アキラの右手にどんどん冷気が収束していき、集まった冷気は徐々に伸びて刀の形を作りだした。最終的にアキラの右手には一振の氷刀が握られていた。


「よし、奥義が使える。俺これが使えないとただの雑魚だからなぁ…。まぁ、これが使えても勝てない相手は普通にいるんだけど」


すると、ちょうど時間になり相手の警備の人が銃とバッグを持って歩いてきた。アキラには銃の知識がほぼないので分からないがおそらくアサルトライフルだろう。


「お待たせ致しました。よろしくお願い致します」


「お願いします」


アキラは氷刀を握ったまま直立で、警備の人はバッグを斜めがけにしてアサルトライフルをコッキングして構えた。


「行きます!」


アキラのひと声で練習が始まった。アキラはひと呼吸置いてから一気に距離を詰めようとした。しかし、警備の人がセミオートで次々と青い光線を放ってきた。アキラも負けじと氷刀で光線を切って弾いていった。一瞬警備の人が驚いたような表情をしたが空かさずフルオートに切り替えて再度狙ってきた。さすがのアキラでもこの速度の弾はちょこちょこ弾くことしか出来ず大体の弾は避けて行った。そして、アキラの氷刀で警備の人を横から切ろうとすると警備の人は持っていたアサルトライフルをアキラの方に放り投げて後ろに飛び退いた。アキラは放り投げられたアサルトライフルを氷刀で真っ二つにして更に警備の人に攻撃をしようとした。が、アキラの頬を何かがかすめていった。


「んな!?そのバッグ銃仕込んであんのかよ!?」


警備の人の方が1枚上手だった。それでも、アキラは諦めずに突っ込んでいった。


ー刹羽流戦闘術斬撃五連《(せい)》/《飛斬》ー


アキラは文字通り5つの斬撃を飛ばした。しかし、それを全て警備の人が態勢を若干崩しながらも全て避けた。アキラはその隙を狙っていたかのように一気に近ずいて警備の人の首目掛けて氷刀で斬りかかった。同時に警備の人もアキラの下顎に向かって銃口を向けた。

そこで練習が終わった。結果は、アキラが氷刀を警備の人の首に寸止めを決めて、警備の人はアキラの下顎に銃口を向けていたため引き分けで終わった。


「はぁ、はぁ、凄い強いじゃないですか警備の人」


息を切らしながらアキラが話しかけた。


「はぁ、はぁ、これでも現役は第2軍団で前線を任されていたんでこれぐらいはできて当たり前っすよ」


警備の人も息を切らしながら答えてくれた。


「にしても見た目以上に動けるのを見て最初は驚きましたよ」


警備の人はそう言うと「では、仕事に戻ります」と言い仕事に戻って行った。


「はぁ、、どおりで強いわけだ…」


と、休憩を取ろうとしたその時、視界の右上の方から白い光線が飛んできた。アキラは慌ててその光線を弾こうと氷刀で応戦した。しかし、白い光線に氷刀が触れた瞬間、バキンと音を立てて氷刀が折れて元の冷気に戻ってしまった。アキラは、その衝撃に耐えきれずに後ろに少し転がってしまった。


「さすがアキラだね、不意をついたつもりだったんだけど防がれちゃった」


そう言いながら三階の窓からの自身の身長と同じぐらいの大きさの銃を持って女の子が降りてきた。その子はショートヘアの白っぽい髪で右の髪の毛を耳にかけて左目をつむっていた。右目は綺麗な赤い目をしていた。


「え?だれ?」


「あれ?まさか、頭ぶつけて記憶なくしちゃった?大丈夫?ふざけて対物ライフルで撃っちゃったけど大丈夫だよね?」


アキラはこんなにかわいい見た目してるくせに怖いことを平気で言ってくる子が俺のまわりにいたっけ?と考えるので精一杯になっていた。


「あー!まさかお前っ!」

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