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「さーて、まずは名前から聞こうかな?」
白髪で右目が赤で左目をつむってる男の娘(もしかするとボーイッシュな女子かもしれない)がベイカー達を少し離れたところに拘束して話しかけてきた。
「アキラです」
すると少し考えてから目付きを少し鋭くしてきた。
「(うそ!?もしかして早速会えちゃうのこれ!?お、落ち着け…)ね、根尾 晶?」
「!?なんでそれを……」
アキラは驚いた。この世界に来てからは誰にも本名を言っていない。しかし、今目の前にいる人物は自分の本名を知っている。希望が見えた。この世界に来てしまったのは自分だけだとゆう孤独感すら消えた。しかし、彼の口から話されたのは予想を遥かに上回る最高で衝撃的な事実だった。
「久さぶりだね!晶!僕だよ!涼だよ!」
そういいながら立ち上がり晶をブンブンと揺すった。
晶は揺すられながら驚いた。突然現れた人物が、圧倒的な力でベイカーたちを拘束してしまった人物が、数日前にゲームセンターで遊ぼうと約束した幼馴染のわりとマジの男の娘の皆川 涼だったのだ。
「うそだろ?どうやってきたんだよ?俺の幻覚か?」
「あはは、やっぱり驚くよね…まぁ少し長くなるけど全部話すよ」
そして、涼は大会の司会が自分のファンだったことや約束の日曜日のこと、晶の部屋でやった事のどうでもいいとこから結構重要なとこまで全て包み隠さず話した。
「…と、で結局何が言いたいかって言うとね僕達がいるのはゲーム内じゃなくて…えぇっと、最近の漫画とかによくある…えぇっと、」
「異世界ね」
「あ!そうそれ!異世界!そして!元の世界には戻れない!オーケー?」
「あぁ、オーケーオーケー。とりあえず質問がひとつあるんだけどいいか?」
「質問ある時点でオーケーじゃないじゃん……。まぁいいけど」
そう言いながら再び丸太に座った。
「お前ハッキングやってたのか?」
「言ってなかったっけ?」
「言われてねーよ」
「……うん、言ってないや」
「はぁ、いいや、まずは今のことを考えよう。とりあえずベイカーさん達の拘束を解いてあげて、あの人たちこの国の軍の偉い人たちだからさすがにこの状況はまずい」
それに頷くと涼はすぐにベイカー達の拘束を解いた。何が原因か若干ジェアンが涼に怯えていた。
「涼、ジェアンさんに何かしたの?」
「いや?何もしてないよ?」
「お話中のとこ悪いがいくつか質問をいいか?」
ベイカーが割って入ってきた。
「はぁ、ならこっちからも質問するよ?」
涼は敬語を使わずにそう言った。
「応えられる範囲で答えよう」
「ならこっちも答えられる範囲で答える」
「構わない」
涼はさっきまで座ってた丸太の上へベイカーは向かい合うように地面に座り晶は何となく涼の隣に座った。まだ少し怯えているのかジェアンはベイカーより少し後ろに座っている。
「ではさっそくひとつ聞かせてもらおう…君達は何者なんだ?」
すると涼は少し困ったような顔をして、うつむいて、少し考えた。
「簡単に言えばとてもとても仲良しな幼馴染てとこ」
と笑顔で答えた。
「……。そっちの質問だ」
ベイカーは何かを悟り質問を促してきた。
「まだ質問してもよかったんだよ?」
「答える気がないやつに聞いてもこっちが不利になる」
「あぁ、バレちゃったか」
涼は少しニヤつきながらそう言った。わざとタメ口で話して挑発をしているのだろう。すると、目付きを急に鋭くして殺気をまとい今までとは180°ちがう雰囲気で違う質問をした。
「これから僕達をどうするつもり?まぁ、何考えてるかは何となくわかるけど」
(こぇー)
「……ッ!?」
涼の一言にベイカーは冷や汗を流し、ジェアンは気絶してしまった。
「あれ?聞こえなかったのかなぁもういっかい言ってあげる」
「あ、あぁ大丈夫だ聞いている。き、君たちはとりあえず王に会ってもらうことなになる」
「!?な、なんでですか!?」
あまりにも急なことでアキラは驚いて思わず理由をたずねてしまった。
「君たちがアルファベットシリーズのAとRを持っているからだ」
と、ベイカーが罠にハマったのを少し喜びながら答えた。
「では一つ質問するとしよう。君たちには……」
「あー、涼?落ち着いて?とりあえずその左手の力抜いてくれない?右手がつぶれそう」
「ん?晶どうかしたの?」
(相変わらずこれだけは治らないんか…)
涼は、本気で心理戦をやっている時に第三者に計画を狂わされるとすぐに不機嫌になってしまう。実際晶が小さい時、1度これが原因で顔面を複数回殴れている。
(?でもなんだろうこの違和感……ぱっと見た感じ本人はそんな変わった様子ない、なのになんかが違う)
「…。聞いてるのか?……はぁ、こんどはハメられたか。やめだ、口でも君には勝てない気がする」
と、ベイカーが負けを認めて言葉の戦いが幕を閉じた。
「勝手に戦って勝手に自爆しただけなんだけどね」
(え?なんかいつの間にかに決着ついた感じか。…そろそろ涼は敬語を使った方がいい気がする)
しかし、涼は「いやー」と言ってベイカーの方に向き直ってしまった。
(え?今心読まれた!?)
「だが、王には会ってもらうぞ」
「はーい」「は、はい」
「シューそろそろ起きてくれ」
そう言いながらそこら辺の草を拾いジェアンの口に入れた。
すると、ジェアンがむせながら起き上がり気絶状態から復帰した。
((……スパルタだ……。))
それがその光景を見た2人の感想だった。そして、乗り物を用意しようとしているベイカーを見て涼はそれを止めた。
「さっきの3人乗りのバイクでいいですよ?僕は追いかけていくので!」
その一言でみんなふと涼が自分たちを尾行していたことを思い出した……。晶はサイドカーに乗ると涼に本当に大丈夫なのか話しかけようとした。
「あれ?涼?どこに行ったんだ?」
と、呼びかけると上の方から微かに涼の声が聞こえてきた。ふと空を見上げると涼がそらでホバリングしていた。
「え!?どうやって浮いてんの!?」
「僕の周りの空間に干渉して体を浮かせてる」
涼は、それがあたかも当たり前のように言っているがおそらくそんなことを考えるのは世界で彼ぐらいだろう。そして、案の定2人は涼への警戒度を引きあげてしまった。
「な、空を…」
「し、指令代理、彼に鎖を繋げといた方が良いのではないでしょうか……。」
そう言われながらも晶達はレイス王国の王都ジガレストへ向かって出発した。道中は、涼が空から魔物を見つけ次第に倒すおかげで何事もなく晶達は無事に王都に着いた。そして、王都入りする時突然涼の姿が見えなくなった。おそらく混乱を避けるための細工をしているのだろう。そして、正面に目をやると既に城の手前まで来ていた。
(でかいな、さすが俺の作ったLv.100の王国だ。なんか、ゴードン国王に会うのが楽しみになってきたな)
「凄いおっきいねこのお城」
と、いつの間にかにサイドカーの後ろを掴んで板らしきものの上に立っている涼がいた。
「なに、ウェイクボードみたいなことしてんだよ」
「だってそこに板があったか…って、あぁぁぁぁぁ」
涼は、石にのりあげた反動で手を離してしまい後ろの方に飛んでいってしまった。そのまま晶以外それに気づかず敷地内の広場まで行ってしまった。バイクを止めるとベイカーはバイクから離れるように言ってきた。そして、言われた通り離れるとバイクが地面に沈んで行く。どうやら地下に駐車場があるらしい。
「ところで、リョウといったか?彼はどこへ行った?」
「あ、それなら大丈夫です涼のことなのでそろそろ上から落ちてきます」
すると、かなりゆっくりとしたスピードで涼が空から落ちてきた。「ベイカーさん上から女の子(みたいな奴)が」とどこぞのアニメのセリフっぽい言葉を言おう思ったが、いつの間にか目の前に涼の姿があった。
「火のない所には煙は立たない。晶のいる所にしか僕はいない」
と、謎のセリフを言いながらどこから持ってきてのか椅子に座りダンディーなポーズをキメていたが幻覚だろう。
「さて案内しよう」
ベイカーはサラリとスルー
「「はい」」
ジェアンと晶もそれに便乗した。
「む、無視……。晶ーなんかツッコミいれてよー」
少しふざけながらも晶達をベイカーが玉座の間まで案内してくれる。どこもかしこも絵に書いたような城内で晶が思ってた以上に広く作られていた。おかげで玉座の間までかなりの距離があった。そのせいか途中で何度かベイカーが道を迷いかけた。やはりベイカーの方向音痴は重症のようだ。そんなこんなで歩き続けふと正面を見ると兵士が大きな扉両サイドに2人立っていた。
「ベイカー大将お疲れ様です。そちらの2人は…。」
と、兵士のうちの一人がベイカーに聞いてきた。
「この2人はAとRを持つ人達だ」
「なんと!ついに発見なされなのですかお見事です」
「ほめなくていい、それよりも通してもらっていいか」
意外と冷たい対応をするベイカーに晶と涼は少し驚いた。
「失礼しました。ではどうぞお入りください。」
そう言うと兵士が2人がかりで扉を開ける。そして、開けられた扉の先は今まで以上に豪華な装飾の施された玉座の間だった。少し高いところには王様らしき人が座っていてとても威厳のある人だった。ベイカーが床に武器を置き膝をついて頭を垂れたので晶と涼はとりあえずその真似をした。
「国王様AとRを持つ者を連れて参りました」
「うむ、ご苦労…。…双方名はなんと申す」
ゴードン国王が威厳たっぷりの声で聞いてきた。
「アキラです!」「リョウです」
アキラは自分の作った国の国王に会えて興奮した。リョウは常に子供っぽいがだてに37年生きているわけでもなくしっかりTPOをわきまえて大人感を出した。しかし、2人のその光景は王に仕える16か17歳ぐらいの白と黒の騎士の様だった。
「アキラとリョウか、ふむ、ベイカーよアーゼ全員を会議室に集めよ」
「はっ、」
ベイカーは返事を返すと玉座の間を出ていった。その後、アキラとリョウは客室に案内され待機するように言われ客室まで通された。客室は玉座の間とさほど変わりのないほど豪華な作りだった。
「はぁ、なかなか緊張したぁー」
と、リョウは緊張が解けたのか肩の力を一気に抜いて置いてあった椅子にもたれかかった。
「そんな緊張するか?」
「緊張するよ!もうなんかこう威圧っていうの?威厳ていうのが?なんかそんな感じのがぶわぁーって、で緊張MAXになって…」
「はぁ、とりあえず落ち着けよ」
アキラはリョウに落ち着きを取り戻すよう促してリョウの反対側に座って呼び出されるのを待った。そこから数分で使いの人が部屋へ訪れ「会議室(使用中)」とゆうプレートのかけられた部屋まで案内された。中に入ると、四角い大きなテーブルの奥の真ん中にゴードン国王、種族や年齢のバラバラな人達が12人ずつ両サイドに並んで座っていた。その中に洞窟で出会ったベイカーが居るのでアキラはここにいる人達がその他の軍団の軍団長なのだろうと考えた。
「さて、アキラくん、リョウくん君たちはアルファベットシリーズのAとRを持っているな」
突然ベイカーが質問をしだした。しかし、アキラは今までのベイカーの発言に対して一つ謎に思っていることがある。それは、1度もベイカー達にはAを見せていなかったのになぜかベイカー達はアキラがAを持っていると知っているということだった。ちなみにリョウはベイカー達を襲撃したときに既に見られているため「だからどうした感」を出しながらアキラの隣に堂々と立っていた。
(さっきまでのビビリのリョウはどこにいった!?)
「君たちには我々、最高指令組織《A-Z》に加わってもらう」
「さいこうしれいそしきあーぜ?説明もなしにそんなものに所属なんてできません」
アキラやリョウには何がなんだかわからなかった。普通ならアキラのこの質問は正しい判断だ。そして、ゴードン国王が話し出した。
「勘違いしてもらっては困る。ベイカーは『加わってもらう』と言ったんだ君たちには拒否権はない。嫌と言われても我の駒になってもらう」
すると、上からスクリーンが垂れてきた。そして映像が投影された。
「えっ?うそ…」
「あれって俺らの元の体…?」
そう、スクリーンに写っていたのはゲームの姿のアキラとリョウではなく本物のアキラとリョウの体だった。どうやら謎の液体漬けにされてあちこちが色々なコードに繋げられているようだった。数秒間見せただけでスクリーンは天井に戻って行きゴードン国王は謎のスイッチを手に話し出した。
「なぜ君たちの本当の体が我々のところにあるのかは自由に考えてもらってても捜査してもらってもかまわん。だが、君たちは我の指示に背くようなことをしてはならない。背くとこうなる。」
彼が手元のスイッチを押すと不意にアキラとリョウの全身に強烈な痛みが走る。電流が流れるような、焼かれるようなそんな痛みだった。アキラとリョウはその痛みのあまり地面に倒れ込んでしまった。
「君たちは今、不死身だ。いくら刺されても頭を破壊されても、窒息しても、激痛や苦しさにもだえるだけで死ぬことは無い。しかし、それはただ単に本体に被害がないからであって本体に攻撃を仕掛ければ抵抗されずに殺せる。そして、その攻撃手段を持つのは我々のみ。何が言いたいかわかるかね?」
そう、この王様、ミラー・ゴードンはアキラとリョウに生きたければ自分の言いなりになれと言いたいのである。アキラとリョウにはこの状況から打開する術などなかった。
「安心したまえ、地位や権力、衣食住にある程度の自由は保証する。ただ我の言うことは絶対だとゆうことだけ守ればいいのだ」
「くっ、(なんだ今の…!?痺れて体が動かない…)」
そして、この時点からアキラは公にはレイス王国第一軍団軍団長のカルパス元師となり、リョウはレイス王国第十八軍団長モッツァレラ大将になることになった。
(軍に入れられて最初に与える地位じゃないでしょこれ……しかも元師って1番上じゃん)
その後、仕事の説明や住居関連の手続きなどを行いその日は王城の客室で寝た。次の日、アキラは王都内にあるカルパス邸へ。リョウは第二科学都市にある家へそれぞれ案内してもらうことになった。
〜王都中央区〜
お城から少し離れた所に王都では1、2を争うほど大きいお屋敷が存在する。大きな壁に大きな門、どれもこれもマンガに出てくるような豪華で立派なものだった。
「こちらが元師の家です」
「あのーやっぱり今まで通りには…」
「駄目です」
(いやいや、ここまでしつこく言ってるのに変えないってどんだけ真面目なの!?)
俺はここに来るまでの間ベイカーとの間でずっとこの今まで通りにする、しない論争が続いている。
「なら!元師の権限で命令します!今まで通りに接してください!」
「…………フッ、そこまでして今まで通りにして欲しいんだな?だが、アキラくん君もタメ口で話してもらう。一応君はこの国のNo.2でもあるんだ、そんな偉い人が部下に敬語を使っていたらみんなに舐められる」
と、俺にベイカーは苦笑いを浮かべながら注意をしてきた。「あ、でも元師の権力は今はそんなに強くないから気おつけろ」と注意してくれた。
「それじゃアキラくんここからは使用人の人に案内してもらうことになっている。では、」
一礼してベイカーは迎えの車に乗って帰っていった。そして、俺は改めて周りを見渡して家の豪華さに少し緊張しながらも門をくぐった。
「お待ちしておりました。貴方が新しいこの家の主のアキラ・カルパス様で宜しいでしょうか」
不意に横から話しかけられて若干飛び上がってしまった。そして、声のした方を見るとそこには燕尾服に白髪のおじいさんが立っていた。
「は、はいそうです…?(全然気配が掴めなかった…)」
「申し遅れました。私はカルパス様へ執事として仕えることになりましたアルバートと申します」
執事らしくとてもキレイな一礼してみせた。そのあと、俺は屋敷の中を案内してもらった。玄関を開けると両サイドにメイドがズラっと並んでいたり、トイレが無駄に豪華だったり、お風呂が広すぎたりと、大体の男の人が人生で1度は体験してみたいテンプレベストテンに入りそうなまでのテンプレだった。よくありがちなテンプレ主人公である俺は書斎に入り今起こっている事を整理するというなんともテンプレなことをし、特になんの解決にもならずこれまた豪華な夕食を食べて風呂へ向かった。
「あー、道に迷った…多分ここだよな?」
シャワーのマークのついている扉を見つけた。
「はぁ、やっと入れる」
溜息をつきつつ扉を開けた。しかしそこは複数の水槽が置いてあるだけだった。
「え?なにここ…水槽…って、ん?なんかいる…クラゲかよ!?あれシャワーヘッドのマークじゃなくてクラゲのマークだったんか」
とか、次こそはと入ったところが実はペット用のお風呂だったりとさんざんなめにあいながらも実は寝室の隣の隣がお風呂だとゆう情報を手に入れやっとの思いで湯船にたどり着いた。そして身体を洗い湯船に入ろうとすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やっほーアキラ!お先に入らせてもらってるよ」
声のする方を見ると一足先にリョウが湯船に浸かっていた。
「いつの間に…。どうやってきたんだよここから第二科学都市はかなり離れてるはずだよな?まさか行かなかったのか?」
「いやいや、僕は空間に干渉できるんだよ?空間転移したに決まってんじゃん。空間転移は視界にうつるところもしくは記憶にある座標に飛ぶことが出来るだからアキラの左目にうつったここに来たわけ」
あーはいそーですかとテキトーな返事を返しつつ湯船に浸かり持っていたタオルをアイマスクのようにして話しを続けた。
「ところで、こっちにふらっと来て向こうの執事さんとか心配するんじゃないのか?」
「あ、それは言ってきたから大丈夫。執事じゃなくて同居人だけど」
「そうか、どうだった?そっちの住居は、こっちに来たってことはなんか気に入らなかったことでもあったんだろ?まさかその同居人と何かあったのか?」
リョウは、そうなんだよーと話しながら湯船から出てシャワーを浴び出した。
~第二科学都市~
僕はアキラとは違い王都ではなく第二科学都市に行くように言われて、案内人とは都市で合流するようにと言われた。着いたら案内人に連絡するようにってスマホ渡されてたから関所みたいなとこの前で連絡した。するとすぐに来てくれて「思ったよりも早く来てびっくりしたよ~」と穏やかそうな人が出てきた。都市内に入ると車に乗って移動した。最初は普通に地球みたいな感じで二階建ての家だったりが並んでいた。中心に行くにつれて近未来的かつ高い建物が増えてきて何十年か後の東京を見た気分だった。そこを通り過ぎて進み続けるとまた住宅地に入った。
「着いたよ~ここがモッツァレラ大将の家だよ〜」
目の前には三階建ての大きな家があった。見た感じこれは一人で住むには大きすぎる家だった。
「大き過ぎませんかこれ…えっと、」
「あ!言い忘れてた〜私は第八連隊隊長ハンナ・リコッタ大将で〜す先輩って呼んでくださいね~リョ・ウ・ちゃん」
(この人すっごく疲れる人かも…)
「さ!あんないするね〜」とグイグイ引っぱっていかれてしまった。最初に自分の部屋に案内され次にトイレそしてお風呂、リビングと順番にまわった。普通の家より少し大きい感じの家だった。
「以上がこれからリョウちゃんと暮らす家の案内でしたぁ~気に入ってくれたかな?」
僕はかなり重要なことを聞いてしまった。リコッタ大将は「リョウちゃんと」と、言っていた。
「あの、リコッ…」
「先輩ですよ?」
と笑顔(?)で指摘してきた。目が笑ってないので笑顔ではないだろう。
「センパイとシャアハウス的な感じですか……?」
「正解~王様からの命令で監視的な意味も含めてのシェアハウスなんだよぉ~」
僕は苦笑いをしつつ自室に逃げこんだ。少しするとリビングに連れ出されてご飯食べて、僕はセンパイに少し散歩行ってきますって言って出てきた。
………………。
「それで今にいたると?」
「うん、そーゆーこと」
と、リョウがシャワーを浴び終えて再び風呂に入ろうとしたその時事件は起こった。
「きゃっ、」
足の流しきれていなかった石けんで足を滑らせて湯船に豪快に突っ込んでしまったのだった。しかし、事件はそれだけではなかった。
「大丈夫か?」
アキラはタオルを置き浅くなっているところまでリョウを運んだ。
「いてて、ありがとうアキラ……。って!?アキラ見ないでこっち!」
「大丈夫、結構手遅れだし別にお前の裸なんて見てもなんとも思わない」
リョウは慌ててタオルを体に巻き深く湯船に浸かってそっぽを向いて動かなくなってしまった。
「いつから気づいてたの?」
「んー最初はリョウに腕を握りつぶされそうになった時か?その時に違和感を感じてさ、で、さっき入ってきた時に湯船に浸かってるの見て確信した。女子化してるってことに、だから俺はタオルで目をおおってたんだ」
リョウが顔を真っ赤にしているのとは違いアキラはいたって平然といつもと変わらないトーンや表情で淡々と答えた。
「さすが、僕の相棒だね全てお見通しだったってわけか…で?どう?なかなか大きくない?」
と、相変わらず開き直りの早いリョウだった。その後リョウは転移で帰っていった。
次の日の朝5:36、早起きしたアキラは書斎で本を読んでいた。本の表紙には「グランドソードとは」と書かれていた。隣には他の本があり「魔法入門書」や「万物の始原はFSPである」など、元の世界では見ないような本が積み重なっておいてあった。この本は全て書斎の本棚の中からこれからの異世界生活に役立ちそうなもの全てを引っ張り出して来たものだった。そして、「グランドソードとは」を読み終えると扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。朝食のお時間ですがどうされますか書斎でお食べになりますか?」
「あ、食べに行きます」
「承知致しました」
アキラは積んである本の中から「魔法入門書」を引っ張り出して朝食へ向かった。
(にしても、置いてある本全部が前任の人の手書きでしかも字が汚くて読めないんだよなぁ。さっきのも進化すると二振りの刀に変わるぐらいしかわかんなかったし……)
そのあと、豪華な朝ごはんを食べて一息付き本を読みながら部屋に戻ろうとしたがアルバートに呼び止められた。
「アキラ様、お客様です」
「誰ですか?」
「第2軍団軍団長のベイカー・ナッツ様です」
「書斎にお願いします」
「承知致しました」
アキラは慌てて書斎に戻り本を片手に椅子に座り偉い人っぽいことをしようとした。そこにベイカーが通された。
「……。それなりに努力はしているようだなアキラくん」
椅子の座り方を試行錯誤している所に入ってきてしまったため気まずそうに苦笑いで話しかけてきた。
「俺はこの国のNo.2なんだろ?それなりに偉そうにしないとって思ってやった。でも、そんなことやったことないから出来なかった……。で?要件は?まさかからかいに来た訳じゃ無いだろ?」
「あぁ、もちろんかなり重要なことがあってここに来たとりあえずこれを読んでくれ」
そう言いながらベイカーは軍服の懐から封筒を取り出した。アキラはそれを受け取り封を切って中の紙を読んだ。
「ん?これは要するに初仕事の内容?」
するとベイカーは敬礼をして話し出した。
「元師、国王より誘拐犯からの王女の救出の命が出たことをここに報告致します」
ベイカーは軍人としての仕事を果たした。
「……え?俺が1人で行くのか?しかも今夜…」
「監視役が1人、あとリョウくんがつくことになってるから安心しな。それと、戦闘服を置いてくからそれを着て行動するようにな」
(誘拐か…。どこの世界でもでも俺たちの前に立ち塞がるのか)
ふと昔のことを心に思いながらもベイカーの背中を見送り夜に向けての準備を始めた。そのころ第二科学都市のリョウは部屋の隅で髪を握りしめて震えていた。
「開き直ったつもりだったんだけどやっぱりそんなこと出来るわけないよね…。」
そんなリョウの弱音が正午の暗い部屋に消えていく