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村はそれなりに大きな村だった。村は川の真ん中にぽつんとできた陸地にある。大きな川に挟まれているお陰で村の外からの干渉には縁がなかった。
その村では親父は腕利きの猟師、母さんは料理人として村に貢献していた。
子供はそんなにいなかった。同い年が2人と年下が10 人ほど、今となっては離ればなれになってしまって簡単には合えない。
俺は雨が大好きだった。みんなは川の心配ばかりしていたが、唯一、家族全員が集まって居られる幸せな時間、それが雨の日だった。
家の掃除をしたり、親父の猟銃の手入れを手伝ったり、母さんと飯を作ったり、当たり前と言われている家族のあるべき姿がその時だけ存在していた。
「「早くおーきーてっ」」
その言葉と同時に脇腹に2つの衝撃が走る
なれとはすごいもので大して痛くない
丁度いい目覚まし程度の衝撃、、
うっすら目を開けると白髪で髪の長い女子が2撃目をお見舞いしようとしていた。
避けると先方は機嫌をそこねる、だからおとなしく蹴られるのが常だ。むしろこれがないと起きれなくなりつつ…
「っご!?」
「今絶対変なこと考えてたでしょ?」
「だから顎蹴ってあげたよ?」
何てことはなくもう少し優しく起こしてほしいものだった。
この調子でこの二人には敵わなくなってきている今日この頃、蹴られる瞬間にお花畑が見えました。
「おはよぉぅミカ、リン」
この二人は双子で俺の同い年、晴れてる日はこうして起こしに来てくれる。容姿は見分けがつきずらいが美しい白髪に金の目をしている。ミカよりもリンの方がすこしだけ雑な奴でそこで区別をつけている。
実際、今こうやて見ているだけでは俺でも見分けはつかない。
見ているだけでは、の話だ。今はさっきまでの蹴りの強さで判別ができている。
ミカは優しさのある蹴り、リンのは容赦無い蹴りだ。多分
「おはようっじゃないよ!」
「早く朝ごはん!つくって!」
言われなくてもそういわれんだろうなって予想はしていた。
いつもこうして起こしに来てくれるのは朝飯のため、むしろそれしか思い浮かばなかった。
実際、この二人が作るよりも料理人である母さん直々に料理を教わっている俺が作った方が圧倒的に美味しい、それは自他ともに認める事実だった。
「やっぱり朝ごはんはこうでなくちゃ」
我が物顔で俺の分まで手を出してくるリンだった。
「それよりも今日はみんなで魚釣りに行くんでしょ?多分もう他のみんなが集まってるころじゃない?」
「え、その顔、まさか忘れてたんじゃないよね?」
その日は完全に忘れていた。
この村は川の真ん中にあるため食べるものは圧倒的に少なかった。だから定期的に川の反対側に大人たちが行って必要なものを揃えにいく必要があり村の男は大体が参加することになっていた。
その間の男達の飯の世話に母さんも行っている。要するに俺はぼっち、小さいときからちょこちょこ、近所である双子の家に世話になってた。
重要なのはそこじゃない、毎回揃えにいくのは村の蓄えが残り一割を切った時ときめられている。つまり、大人達が帰ってくるまでかなりひもじい生活になる。そんなのが嫌だった子供達は集まって食料を近場で調達しようとする。それが魚釣りだった。これが意外にも沢山釣れるので毎回釣りに励んでいた。大人達がいつ帰ってくるかは毎回ちがう、当時日付なんてものはなかった。今に思えばあれは3週間から4週間とほぼほぼ一ヶ月かけていた。
それでも大人達は毎回、誰1人欠けず、誰1人傷つかずに帰って来ていた。
だからこそ俺たち子供は安心して釣りをしながら待っていられる。
夕方、遅刻するというちょっとした問題はあったものの魚釣りは今回もうまく行きった。
広場で火を焚いて残った大人と子供で家から少しずつものを持ち寄って、みんなで料理を作ってみんなで食べる。これはこれで家族と食べるときとは違う幸せな時間で好きだった。
「どうしたの?火見たままぼーっとして」
「こんなとこでおじいさんみたいな顔して」
また双子だった。最初に話しかけてきた方がミカ……かもしれない。
「俺がおじいさんだったら二人はおばあさ…ん…」
このときの俺は女子に言って良いことと悪いことがあまりわかんなかった。だからなんで鳩尾を殴られたのか全くわからないままだ。実際今でも…。
その日の夜、いつも通り火を焚いて集まって魚を頬張っていた。
「ごほっ、、」
骨を喉につっかえそうになり無理矢理咳をした。
しかし抵抗もむなしく残念ながらつっかえてしまった。
そこへ双子がふらっとこっちに寄ってきた。
「なにしてんの?その年にもなって魚の骨、喉につっかかえさせるなんて」
「しょーがないから私たちで水もってきてあげるよ?対価は、、『なんでも1ついいなりになる』ね?」
「ならいいよ自分で取ってくる」
そういって立ち上がろうとすると二人は進路を妨害してきた。
「返事は『はい』か『喜んで』」
「あと『もちろん』か『ぜひ!』ね?」
4つもの選択肢を用意してくれたが、あいにく拒否権の行使は不可能だった。
そうして二人は姿を消した。
すると、入れ替わるように大人達が息を切らしながら帰ってきた。
いつもよりも早かった。いつもなら今で言う二週間は帰ってこないはずだった。
こころなしか出ていったときよりも人数が減っている気もした。
「みんな!早く火を消せ!走れ!ここから逃げるぞ!」
帰ってきて最初の一言目がそれだった。いつもなら優しい声で「ただいま」と言ってくれる親父のその声は、いつも以上に厳しくすこし声が震えていた。
「なんで?なにがあったの?どうしたの?」
一番近くにいた俺が痛む喉を押さえながら声をひねり出す。
「早く逃げないと!この村が襲われっちまうぞ!」
その一言でみんなが動き出した。残り組だった大人達と戻ってきた大人達で荷物の代わりにまだ小さい子供達を担いで、戻ってきた方向とは真反対の方向に向かい出した。
「父さん!俺、ミカとリンが水汲みに行ってるから伝えてくる!」
「わかった!父さんは皆を洞窟まで案内してくる!道順は覚えているな?いそぐんだぞ!」
洞窟の場所は親父と狩りにいった時に休憩場所として何度も使っていて覚えていた。
それでも
この時、親父は焦っていたのだろうか?それとも俺なら大丈夫だと信頼しきってそう言ったのだろうか?親父が代わりにいくと言えばすこし結果は変わっていたのだろうか?
今になってはどうすることもできないが時折そんなことをふと考えてしまうときがある。
二人を追いかけた俺は最初に井戸へと向かった。さっきまでいた広場からは少し離れているが、日頃よく使うのがこの井戸だった。しかしそこに二人の姿は見えなかった。そこでなにを考えたのか、俺は日中釣りをしていた川に向かって走ていった。みんなが逃げてる方向とは90度ちがう川の下流、ここの水の流れは穏やかで運ばれてきた砂などが堆積して浅くなっている。その頃はその浅いところで二人が水を汲んでいるんだろうと思考がよぎったのかもしれない。それでも居なかった。
「もしかして、誰かが連れていってくれたのかな?」
そういって洞窟の方に向かおうと来た道を戻った。
ふと村の方の空が明るくなっているように見えた。
木々ではっきりとは見えない。実際どうなっているのかはわからない。いつからか、頬を何かがつたう感覚も感じる。
こんな混乱と動揺のなかで冷静に動こうとしてちぐはぐになってひとりぼっち
普通なら誰でも感じ取れるはずのやな予感さえ希望の光に見えた。
でも、やっぱり、そんなことはなかった。
やっとたどり着いてまず、俺は焦げた匂いを感じ取った。
現実、希望なんて目の前の光景を見て微塵も感じ取れなかった。それ以上にもう何も感じ取れなかった。何が起こってるのか、何故こんなことになっているのか、みんなは無事なのか、なんにも考えられなかった。ただ目の前で燃え盛る炎を立ち尽くして見て意識とは関係なく涙がながれるだけ、ただそれだけだった。
そこからどれほどたったのか、目の前の炎の勢いは衰えていない。意外と時は経っていないのかもしれない。目にたまる涙に光が反射して徐々に目の前の炎が綺麗に見え始めた。
雨が降ってきた。それもポツポツという勢いではない。いままでにない程の強い土砂降りだった。炎はどんどん弱まり地面はぬかるみ、俺をとめていた金縛りのような見えないなにかはなくなり、関節からミシミシと効果音が聞こえそうなほどぎこちない動きで泥濘んだ地を踏みしめる。
「あははやった、雨、、だ、家、、家に帰らないと、みんなが待ってる。早く帰んなきゃ」
どこかフラフラした足取りで自分の家に向かた。焼けきって泥濘んだ道を黒く家とは言えない様子の家を背景に進んでいった。
そんときの俺の感情とか何を思ってたのかとかその当時のことは錯乱しすぎて覚えちゃいないんだ。とにかくみんなを探さなきゃとでも思っていたのかもしれないな。
いつもと違ういつもの道を歩いて家、、だった場所まで帰ってきた。もう、そこには家はない。雨のせいか焦げた匂いこそしないが、家のあった場所には黒い塊が残っていた。
「洞窟、、、あははは、そうだ、みんな洞窟に避難したんだった」
しかし、雨や精神的なショックによって体力はかなり消耗していた。ついに転んでしまった。
それでもみんなが待っている洞窟へ行こうともがく、
雨のせいで滑りやすくなった道を転びながら、地を這いながら、少しずつ進んでいった。ただただ家族に会うために最短だか険しい道のりをすすむ。
「こっちだ!無事だったか!」
「父さん!」
道中で親父と会った。遠くには他のみんなが見えた。もちろん俺が探しに行った双子達も、きっと誰かが拾っていってくれてたんだ。
残る体力を振り絞って一歩一歩踏み締めていく、
もう少しのところで轟音が響いてきた。咄嗟には何の音かは分からなかった。親父の方を見るとその奥には木々を押し倒しながら凄まじい勢いで流れてくる土砂が見える。俺は声をあげようとした。それでも声が出る前に、声になる前に、土砂はみんなを巻き込んだ。そして、親父は俺に歩み寄りこう言った。
「貯水池の壁が崩れた」
何を言い出したのか、意味がわからなかった。
後ろからは土砂が流れてきてこっちに向かってきてるじゃないか、今度こそと思い声を出す
「父さん!後ろから土砂が!」
「洪水だ 逃げろ 生きろ」
話が噛み合わなかった。せめて庇おうと手をのばす。
しかし、その伸ばした手の先には誰もいなかった。
さっきまで居たはずの親父の姿や崩れてきていたはずの山も、、見えるのは黒く焼け焦げた家と泥の混じった水溜りだった。
『洪水だ』
不意に脳裏にその言葉が帰ってきた。
「洪水、、、?、、っ!?」
すでに水はすぐそこまで来ていた。
間に合わない。そう判断して流れてきた1本の木に掴まる。そのまま強い流れの中体をあちこちにぶつけながら意識は遠のいていった。
話は少し変わるが、
俺の村の人間はみんなグビート人と世間ではそう呼ばれている。この世は様々な種族の人間がいるから知っている人はそうは居ないだろう?
村には昔から「村の人間は死に際のその命を対価に一つの運命に干渉できる」って言い伝えがあるんだ。
本当にそんなことができるのか?どこまで干渉できるのか?知る者は誰もいやしない。だけどみんな死に際に祈るとそのあと急に力尽きるんだ。もしかすると言い伝えは本当なのかもしれない。考えたくは無いが俺が洪水に巻き込まれたあの時、あの状況でなにか普通じゃありえない不思議なチカラが働かない限り今俺がここにいるのはありえないんだ。
はっきりとはしないんだが気を失ってる時に夢のような何かを見たんだ。
後ろがどんどん奈落に落ちてく吊橋を走るんだ。
風景とかその後どうなったかも、どれくらい走っていたのかも分からない。ただその長い、いつ落ちるか分からない吊橋を走ってた。
そのどこかの時点で目が開けられたんだ。
目を開けると檻の中だった。冷たい地面にきつく締められている足枷、じりじりと痛み血の滲む白い布を纏った右肩、どう動かしても筋肉痛のせいか、はたまた流された時にでも全身打撲したのか体を動かせなかった。比較的マシに動く首を動かすと近くには粗末な布で作られた上衣が置かれていた。何がどうなっているかまるでわからなかった。鉄格子の小窓から入る少ない光が光源の殺風景な檻の真ん中で倒れ続ける。それしかやることがなかった。
その日から誰とも話せず、一人ぼっちの生活が始まった。食事は朝と夜の2食、質素な食事が入り口横の箱の中に入れられる。しかし、動けない上に食欲が湧かない。特にやらされることはなく、やることもなく、忘れられているかのように放置されていた。そんな環境で虚無感に深く落ちていく、きっとみんな生きていない。どうせ一人ぼっち、もう何もかもがどうでも良くなって、俺1人このままいつまで生き続ければいいんだと、
かすかに檻の前に1人の少女が立っているのが見えた。
「おとーさん、私と同じぐらいの子がいるよ」
「ほんとだな、この子は一体?大将閣下?」
その少女がお父さんと呼んでいた人物は大将閣下と呼ばれる女の人を連れてこっちに歩いてきた。
「あんたにその呼ばれかたされるのなんか嫌ね、、、、あったあった、どうやら川を使って国境を越えてきた密入国で捕まったようね」
ちょうど死角になっているせいか視界が霞んでいるせいかお父さんと大将閣下と呼ばれる人たちは見えなかった。
「ふむ、ならこの子を引き取ることにしよう」
「そう?確かにここに居る子たちの中では1番罪が軽い子だけど出生のわからない、しかも、戸籍登録がないのよ?」
「そこは大丈夫さ、こっちだってしっかり準備はしてある」
「ちゃんと合法なんでしょうね?いくら昔のよしみでも無罪にはできないからね?」
「心配性だなぁ、ちゃんと合法だぞ?ちょっとコネを使うが、、」
それを聞いて大将閣下と呼ばれた女はため息をついた。そこへしびれを切らした少女が口を挟む。
「おとーさん?」
「あぁ、その子は今日から家族だよ」
「やったぁ!新しい家族!ほら!こっちおいで?一緒に帰ろ?」
少女はこちらに手を差し伸べ立ち上がるように促す。
まだ少し痛む肩と微かに残る筋肉痛、このまま死を待とうと無意識に考える脳。手を取れなかった。それどころか微塵も動こうとは考えられなかった。
「『いつか死ぬために生きろ』これは私が君のような子に会うたびに口にする言葉だ。その様のまま死んでは失ってしまった者達は悲しむ。なら、失ってしまった者達の為を想って生きて死になさい」
さっきまで大将閣下と呼ばれる人物と話していた男が芯のある低い声で優しく叱ってきた。
大人にここまで言われたのはいつぶりだろうか
『いつか死ぬために生きる』この言葉は今でも俺の中にあり続ける俺の考えの中心で俺を導いた。
激しい戦いを繰り返して崩れ去った街並みを背にし男2人が灯りを焚かず座り込んでいる。辺りにはまだ焦げた匂いが漂い、少し離れたところでは彼らとはまた別の戦う音がする。時に崩れる音、またある時は流れ弾すら飛んでくる。そんな距離だ。
「何故それを今話す?」
1人が疑問に思っていたことを口にする。
すると、もう1人の男は空を見て微笑んだ。
「いや、偶然か、必然か、久々に会えて、生きていたんだって、倒してしまったけど、他の人たちも生きてるかもって思うとものすごく嬉しかったんだ」
「はぁ、、、」
ため息をついた男は自身の右手人差し指についている
3つの石のついたリングの一つに触れた。
「俺だ、こっちは片付いた。今から、、」
すると、2人の間を攻撃が通り過ぎていった。
隠れていた家の残骸となった壁に大きな穴を開け、穴の先には人が1人立っている。
「なんでもない。まだ1人のこっていたようだ」
「あんだけ吹っ飛ばしたのにまだ生きてるのか」
装備こそ少しボロボロだが平然とした人が1人、2人を見ていた。
「そんな簡単にやられるわけ無いじゃないですか」
あの頃にはなかった冷たい眼差し、冷たい言動、まるで古い対話ロボットかのような無表情で抑揚のない。
もはや別人だった。
「あーあ。せっかく会えたのにもうちょっと感動的なシチュであって欲しかったよ」
「そんなこと言ってると…、…ほら、くるぞ」
ーコード:48415255の入力を確認………
2人は己の武器を構える。そしてそこに
何も起こらないただ相手の出方を伺う時間が流れる。
……ユーザ接続完了ー・ーオンライン……
「ここは一対一でやらせてくれ」
「…あぁ、ちょうどこっちは帰還指示が出た。先に戻ってるぞ」
もう1人の男は静かに頷き今度は同じリングの違う石に触れると一瞬の光とともに姿を消した。
……識別コードを送信…専用コード受信中…
男は向き直って静かに語りかける。
「久々の再会、少し話さないか?」
男にとっては誰一人生存者がいないと思っていた中での奇跡の再会だった。話がない訳では無い
「問答無用」
しかし相手はその気など一切持ち合わせていなかった。一言吐いた後にすぐ攻撃を開始した。
…受信完了ー・ープログラムをコンパイル…
男は少し焦りながらも相手の攻撃を自身の武器で受け自身を飛ばして距離を取る。刹羽流の基本的な動きだ。
…完了ー・ーフラグを認識ー
「そうか、もう、あの時には戻れないのか、」
武器を構えるのをやめて少し遠くを見ながらそう呟く
ータイミングが譲渡されましたー
「何のことを言っているのかわかりません」
ここでも分かり合えることはなかった。ただ無機質に段々と返されるだけだった。
「…残念だ、《オーバークロック》っ!」
ー宣言を受諾を実行しますー
「…はぁ…俺を処理?できるもんならやってみな」
深いため息の後、トーンを一気に落とした低い声でそう言い放つ、
こうして彼は彼自身の過去と戦いを始める。
しかし、ここから先の戦いは「真実」の与り知るところではない。「真実」にとって彼らがただの登場人物であり盛り上げ役、仮に盛り上がらずとも「真実」の目指す終わりは揺るがない。「嘘」と「真実」は常に共に在ろうとする。「嘘」が「真実」を包み込めばそれは「真実」となり「真実」が「嘘」を潰してしまえばそれは「不変」となる。




