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死にたい不死者の異世界転移戦記  作者: 北石 計時朗
9/13

三重苦

冷たい感触で目が覚める。


気が付けば迷宮石の床の上、昨日の戦闘の後疲れ果ててここで倒れるように寝てしまったのだろう、いったい何時間寝ていたのか?自分を認識してみてSPが回復している事を確認する。


SPは満タンに回復している。


俊敏も回復していて行動するのには支障がない状態だ。


初めて休憩部屋以外での休息、安眠したとは言えないがどうやら敵の襲撃はなく、無事休息することができたのだろう、皮鎧一式を装備したまま石の床に直接寝てしまったせいか、体のあちこちが痛い、起き上がって体の痛みに苦笑する。


不死身の肉体でも痛みは感じる事に不便を感じたからだ。


とにかくここは試練の迷宮、その3Fの単なる通路の一部分なのだ。


ここは俊敏を阻害する麻痺液を噴射するパラライズスライムが彷徨する危険な場所なのだ。


飢餓感は今の所はない、しかし喉が乾いている。


マモルは鞄から水筒を取り出して喉の渇きを癒していく、水筒の中の水の残量は残り三分の一ぐらいか、今日中に外延部にたぶんある休憩部屋に辿り着かなければ、飢えはしないが渇きに襲われてしまいそうだ。


ここが迷宮の何処かはわからない、昨日マッピングした地図も麻痺状態で適当に記入したから大した参考にはならない、とにかく外延部を探し出すのが先決だ。


そう考えてマモルは鞄を肩にかけて行き止まりの通度を慎重に戻って行く、分かれ道に差し掛かってもパラライズスライムはまだ姿を見せない、通路を左に曲がって慎重に迷宮内を探索する。


取りあえずT字路を探すのが優先だ。


右に左に曲がる通路を無視してそのまま直進して行く、やがて今日初めての敵、パラライズスライムが暗がりから出現する。


このパターンなら多分後ろにも、そう思い振るむけば背後にも一体出現してマモルの退路を断とうとしている。


戦うしかなさそうだ。


麻痺液を飛ばしてくるパラライズスライム、その麻痺液を避けて接近する。


スライム系は核が弱点、だから手を伸ばしてパラライズスライムの体内に侵入して、核を破壊する必要がある。


レベルが上がり必然的に腕力が上昇したマモルは、スライムの核ぐらいなら握り潰すだけの握力がある。


しかし巨大なジャンボパラライズスライムになれば核も大きくなり、核を取り出して床に叩きつけて粉砕する必要があるのだが、小型のスライムぐらいなら体内で核を握り潰す事は出来る。


さて、パラライズスライムに接近したのはいいのだが、噴出される麻痺液を躱しながら体内に手を突っ込むのは至難の業だ。


必然的に『麻痺状態になりました』と機械音声さんの声が聞こえて来る。


どうやらパラライズスライムと戦えば必然的に麻痺状態に陥ってしまうみたいだ。


それならもう躊躇う必要はない、マモルは強引にパラライズスライムの体内に手を入れて核を掴んで握り潰す。


核を破壊されたパラライズスライムは水のように広がって迷宮の床に消えていく、とにかく一匹は始末した後は背後から来るもう一匹だ。


マモルは振り向くと既に麻痺液の発射状態になっているパラライズスライムに接近して,右手を差し出す。


腕を体内に差し込めば、酸に焼かれる激痛が起こるが無視して核を握りしめ粉々に砕く、パラライズスライムは水の様に消えてなくなる。


戦闘と言うよりも痛みを伴う地道な作業、敵を倒した充実感も何もない、それより麻痺状態になったステータスの方が問題だ。


認識で自分を確認すると、俊敏は‐2しか減少していない、どうやら麻痺耐性が中にまで上がったことで麻痺状態は緩和しているようだ。


これなら探索に大きな支障はないだろう、スキル『再生』は体内で麻痺液を中和してくれる。それなら休みながら迷宮を探索すれば、昨日の様に麻痺で動くのがやっとの状態に陥る事は無いはずだ。


楽観視できるようになった事は喜ばしいのか、とりあえずその場で小休止して俊敏が回復するのを待つ、しかし回復する事を許さないとばかりにパラライズスライムは群れを成して出現する。


スライムの群れそれが現れたら、必然的に合体して巨大になる。


今までの遭遇パターンでその状況は推測できる。


かくしてパラライズスライムの群れは合体して布団の様に巨大になる。


巨大になった恩恵か?飛ばす麻痺液の射程も伸びている。


大きくなつた核は握り潰せない、スライムに上体を突っ込んで核を取り出す必要がある。


あまり時間はかけられない、群れが現れたら次々と新たな群れが湧いて来て、合体してマモルを取り囲んでしまうのがいつものパターンなのだから、水鉄砲からホースの水に変化した麻痺液の噴射、それを避けて、いや、やはり避けきれずに浴びながらマモルは合体パラライズスライムに突き進むしか方法がない、酸に焼かれる苦痛に顔をしかめて、上体を突っ込んで核を両手で掴む、下半身に力を入れてそのままパラライズスライムから離脱する。


核を失ったパラライズスライムそのまま消滅していく、合体スライムを一匹倒しただけで軽い疲労を感じてしまう、疲労感それは確実にSPが減少してる証なのだ。


麻痺液を浴びた為に俊敏が低下している。


少し重くなった足を動かしてもう一匹の合体パラライズスライムに挑んでいき、戦闘とは呼べぬ作業を繰り返すしか方法がない、やがてマモルは全ての合体パラライズスライムを倒すことにができた。


その代償に俊敏が半分まで減少している。


早く迷宮を探索して休憩部屋に辿り着きたい、気はあせっても素早く動けぬ体、出来るだけ速足に歩いて探索するしかない、休息すればパラライズスライムの群れが必ずって言ってもいい頻度で出現する。


だからマモルは休む事を許されないまま、迷宮内を彷徨うしかなかった。


マッピングして溜息をつく、まだ迷宮の外延部まで到達していない、SPも次第に減少してきている。


このままでは今日も迷宮の安全とは言えない床の上で寝ることになってしまう、食料には余裕があるが水の残量が心もとない、舐めるように残された僅かな水分を補給する。


そうして渇きを誤魔化して、左に右に曲がりながら、休む事を最小にして迷宮内を探索する。


時々遭遇するパラライズスライと戦闘して、耐性とLVが上がる事を期待するが、雑魚のパラライズスライムは経験値が低いのか耐性もLVも中々上がってくれない、やはりLVや耐性が上がるのは大物を倒すのが効果的なのだろう、しかしそう考えてもジャンボパラライズスライムとの戦闘は今はしたくない、まず拠点の確保が優先だからだ。


だから行き止まりと思える通路は極力避けて、迷宮内を探索するしかない、やがて通路は待望のT字路に差し掛かる。


ああ!ようやく待望の外延部に到達したのだろう、喜んでも重い足取り、T字路に差し掛かれば右に左に曲がる場所に二匹のジャンボパラライズスライムがここは通行止めとばかりに立ち塞がって居る。


「なんでこんな所で出るんだよ!」


そう叫んでみても敵は消えてはくれない、一匹でも苦戦するジャンボパラライズスライムが、それも二匹を相手しなければ、外延部の道は閉ざされたまま、まるでマモルを嘲笑うかの様に2匹のジャンボパラライズスライムは触手を出して攻撃してくる。


まだ限界ではない戦える。


そう思って鞄を下ろしてまず一匹目のジャンボパラライズスライムと対峙する。


俊敏が低下してるせいでノロノロと歩いて近づき、麻痺の触手の洗礼を受ける。


『麻痺状態になりました』機械音声さんの声が聞こえるが、触手に取り込まれるままにジャンボパラライズスライムの体内に入り込む、痛い!熱い!強酸に焼かれる苦痛を感じるが、構わずに両手でスライムの核を鷲掴み、強酸の粘液と格闘して、両腕をジャンボパラライズスライムから突き出して核を力一杯床に叩きつける。


割れて床に飛び散る核、その瞬間酸の苦痛が嘘の様に引いて行く、ああ、ジャンボパラライズスライムが消滅したんだと考える。


ともかく一匹目は何とか始末することが出来た。


もう一匹はT字路の真ん中でいつの間にかにとうせんぼしている。


これでは右にも左にも進む事が出来はしない、麻痺の触手の影響で俊敏は最低ラインまで低下してる。


体が石で出来たように重い、しかしこのジャンボパラライズスライムを倒さねば休憩部屋への到達が実現できない、この動かぬ体に鞭打って一歩また一歩と歩み寄る。


触手に囚われてももう無視だ。


体内に取り込まれるならむしろ好都合、進んでジャンボパラライズスライムの体内に取り込まれていく、酸に焼かれる激痛が体内に侵入したことを告げる。痛い!熱い!呼吸が出来ない、三重の苦しみが体に襲いかかる。


苦痛を我慢して両腕を伸ばしてジャンボパラライズスライムの核を体で抱き込む、動かぬ肉体に鞭打ってゼリー状の粘液と格闘する。上半身が粘液から逃れれば触手が伸びてきて自分の体内に引き込もうとしてくる。


引き戻される体、ジャンボパラライズスライムの体内から抜け出せない、体内にから脱出して核を破壊できない、それならこの体内に囚われている状態で核を破壊すればいい、苦痛に耐えながら抱え込む核を全身の力を使って押しつぶそうと力を入れる。


力を込めてから二分ほど、抱え込んだ核からパキリとした感覚が手ごたえとして感じられる。


途端、苦痛の洪水は嘘のように治まっていく、ああ、スライムの核を破壊できたのだと座り込む体で感じとる。


『麻痺耐性が強に上がりました』『経験によりLVが上がりました』


機械音声さんの声を無意識に聞く、今は苦しい戦闘が終わって放心状態だ。


やがてこのままここにいても安らぎが無いことに気が付いて、鉄のように重い体を無理に動かして立ち上がる。


置いてある鞄まで行くのに2分もかかる。


麻痺して動けぬ体、脚が異常に重い、何とか鞄を担ぐと左右に伸びた長い通路、どちらに歩けば休憩部屋に辿り着けるのか?取りあえずマップを取り出して確認する。


大まかな迷宮の通路が書かれたマップ、現在位置を記入する。


迷宮の真ん中を進んでいたとすれば右に曲がるとこの通路は更に右に曲がり、その先に迷宮の休憩部屋があるはずだと、そう確認して重い足取りで歩き出す。


重い足取り、進まぬ距離、幸い敵は出現して来ない、皮のブーツは鉛で出来ているように足取りを重くする。


休息したいが休めば敵が湧いて来るような気がして躊躇してしまう、10メートルが100メートルの距離に感じてしまう、SPはまだ残っている。だからあきらめるな!心の中で自分に叱責する。


死んでしまいたいのに、死ねない体、苦痛だけが変わらず体と心を苛め続ける。


異世界に転移しても日常は変わらず、苦痛をもたらす相手が変わっただけだ。


ああ!神様が恨めしい、死ねない肉体なんか欲しくなかった。


そんなことを考えているとパラライズスライムの群れが出現する。


目の前で次々と合体していく、ああ、神様を恨めしいなんて思ったから罰を与える為に出現したのだろう、そんな事を考えてしまう。


合体パラライズスライムは麻痺液を浴びせてくるが、もう麻痺状態はこれ以上悪化することがない、相手が麻痺したと勘違いしたのか、合体パラライズスライムはマモルに近づき体内に取り込もうとする。


原始的な捕食の行動、このスライムには知性などないのであろう、それでも期待して語り掛けてみる。


「俺を殺してくれ」


しかしゼリー状の粘液の集合体であるスライムは返事もなくマモルの下半身を覆いを尽くそうと蠢くだけだった。


下半身に酸に焼かれる痛みが走るが痛いだけでマモルの下半身はまったく傷ついた様子もない、自分に苦痛を与えるが決して殺して楽にしてくれない相手、かってのいじめられた連中や養父を思い出して少し腹が立ってくる。


「お前じゃ俺を殺せない役不足だ!」


マモルはパラライズスライムの核を足で踏んで力を込める。


ピキッキと核が破壊された音が周囲に響く、パラライズスライムは水の様に変化して迷宮の床に吸収されたように消滅する。


少しだけ気分が晴れやかになる。


「誰も俺を殺せない俺は無敵なんだ!」


迷宮でそう叫んでも誰も答えを返してはくれない、マモルの叫びは迷宮内に虚しく木霊していくだけだ。


やがてマモルは重い足取りで歩き出す。


とぼとぼと歩くその姿はとてもじゃないが無敵の王者とは思えない姿だ。


暫く歩いて渇きを感じ始める。


水は残り少ない貴重品だ。


乾いたからと言って消費してしまえば、休憩部屋まで辿り着けないかもしれない、水分の補給は我慢してその代わり干し菓子を口に入れる。


唾液の分泌で一時的にも渇きが誤魔化される。


やがて通路は右に曲がっている。


マッピングして自分の考えが確信に変わる。


このまま直進すれば休憩部屋まで辿り着けるはずだ。


思わず駆け出したくなるが、麻痺しているため歩くのがやっとの状態だ。


気分は急かれるが体は言う事を聞いてくれない、もどかしく感じて深雪の中を歩くように一歩また一歩と歩いて行く、無理して歩いているためかSPの消費が大きく感じられる。


このまま行けば行動困難、渇き、体力切れの三重苦の状況になってしまう、もう迷宮の冷たい床で寝るのは嫌だ。


マモルは体力だけでなく気力も振り絞って歩くしかない、モンスターは現れないのが救いに感じる。


体感時間は4時間ほど距離にして5㎞は歩いただろうか、ようやく待ちに待った木の扉が見えてくる。


しかしここで問題が発生する。


木の扉の前にはジャンボパラライズスライムが、一匹まるで門番のように待ち構えているからだ。


あいつと戦わなければ休憩部屋に入れない、麻痺のせいで動きが緩慢、その上でSPが心もとなくなっている。


スキル『限界突破』に頼るしか方法はなさそうだ。


鞄を置いてから、ジャンボパラライズスライムに歩み寄る。


触手が出てきて勝手に本体の中に引きずり込まれる。


酸に焼かれる苦痛が体全体に広がる。


夢中で核を探し求める。


バレーボールぐらいの核を必死に抱え込む、頭の中で限界突破と叫んでみる。


しかしまだ限界を超えていなのか、スキルは発動しない、こうなったらさっきみたいに力任せに核を体全体で砕くしか方法がない、身体全体で核を抑え込み力を込める。


二分、三分経っても核が割れる気配がしない、酸に焼かれる苦痛が酷くなる。


今にも気絶しそうになってから『魂の締結状態が困難な状況に遭遇しましたスキル『限界突破』を発動します』


機械音声さんの声が聞こえて抱えこんだ核が割れる音がする。


酸に焼かれる苦痛が消滅するが頭痛と倦怠感、疲労に襲われて動けなくなってしまう。


『経験によりLVが上昇します』


機械音声さんのその声が聞こえてきてやっと頭痛と倦怠感が去り動けるようになる。


どうやら『限界突破』のスキルは緊急時以外は発動せず、しかも発動すればLVUP時以外は行動不能になるもろ刃の剣のようなスキルのようだ。


マモルはふらつきながら立ち上がり鞄を拾いに行く、目の前の障害はもう消えた。


後は休憩部屋でゆっくり休憩すればいい、鞄を拾い上げゆっくりした足取りで木の扉まで歩み寄り扉を開く、十畳ほどの広さの部屋、木のテーブル、木のベットに毛布、テーブルの上には食料と見慣れぬ書物が置いてある。


「何んだこれは?」


思わず意外な神様からの贈り物につぶやいてしまう、テーブルに歩み寄って書物を手に取る。


異世界の文字で書かれた書物、しかし読める表紙には『魔法講座初級編』と書かれていた。


「魔法も覚えろということか?」


自分はこの異世界の迷宮に転移させられてから、魔法はおろか剣でさえまともに使用して戦っていないのに、今はまだ魔法の必要性を感じない、でも確かに自分のステータスにはマジックパワーを示すMPがありLVUPと共に増大しているが、それにもし魔法が使えるようになったらスライムとの戦闘も今の肉弾戦よりましな戦いができるかもしれない、それに魔法を使うなんてロマンを感じるし……


そう思考しながら本を読み進んで行くが……


あ……これ車やバイクの操縦方法は教えるがなぜ動くのかが書いてないたぐいの書物だ。


読んでみてそんな感想を抱いてしまう、魔法が使える事を前提して書かれていてもマモルは魔法の発動条件がわからないからだ。


そんな事より今は喉の渇きを癒す方が先決だ。


まだ麻痺が抜けきらぬ重い足を引きずりって水場に向かう、流れる清水は清涼なる神の恵だった。


とりあえず今日は安心して眠れる寝床がある。


それだけでも心が安らいだ気分になる。


食事して体を水で清めて、それから寝よう、そう思いながら皮鎧の装備を脱ぎ始める。


すでにシャツもズボンもぼろ切れになり果てているから着ていない、皮鎧を脱いだらパンツ一枚だけだ。


食事をしながら今日一日を振り返る。


特に地獄の三重苦の行進は、マモルの精神を蝕んで痛い思い出になるだろう。





読んでくださってありがとうございます。

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