限界突破
試練の迷宮2Fの探索は順調に進んでいた。
毒に侵されても時間が経過すれば死んで、毒に侵されていない状態に復活出来るためだ。
更に毒の攻撃を受けるたびに耐性は上がっていき、探索し始めてから3日で猛毒耐性は超になっている。
そうなってしまえば毒による攻撃を喰らってもチクリとした痛みしか感じずに、頭痛や倦怠感に襲われることがなくなった。
必然的に雑魚のボイズンスライムとの戦闘はやり過ごし、通路が行き止まりの場合に出現するジャンボボイズンスライムとの戦闘が主体になっていく。
その戦闘も『耐酸性超』『猛毒耐性超』のおかげでたいした苦戦もなく、やり過ごす事ができるようになっている。
食料もまだ余裕があり安心して迷宮探索できるのだが、やはりこの迷宮は広大で走り廻って探索してもマップの未探索区域はまだまだ残っている。
だからまだ下に降りる階段は見つけられずにいた。
もう上に昇る階段の探索はあきらめている。
そんなものは存在しないと言わんばかりに目の前で消えてしまったのだから、活路が下にしか見いだせないのなら、この階を余裕のあるうちに攻略して3Fに降りた方が前向きな思考と感じるのだ。
そんな訳でマモルは、速足で迷宮未探索部を巡って、マッピングしていくのだった。
未探索部の一部を探索し終えてしばらく思案する。
このまま探索を続行するか、休憩部屋に引き返すか、体感時間は起きてから10時間ぐらい経過しているだろう、敵が出現しないときに素早く食料を食べることが出来るようになったから、まだ飢餓感に襲われていないし、LVが上がったことでSPも上昇してまだ半分ぐらいは余裕がある。休憩部屋に帰るにはかなりの距離を歩かなければならないし、なるべく早く未探索部を探索して戻ればいいんじゃないかな?
とりあえずマモルは様子を探るために未探索部に足を踏み入れた。
この時の行動が後の後悔になることに気づかぬままに、運命の通路に足を踏み入れてしまった。
通路を歩く事く10分ほど、そこには今日はまだ見たくない物が存在していた。
下に降りる階段、それは、今のぎりぎりの現状を待ち構えるように存在している。
食料は余裕がある。しかしSPが心もとない、このまま降りて行けば休憩部屋を見つけるより早くぎりぎりのSPは消費してしまうだろう、、階段をこのまま見なかった事にして引き返そう、そう決断して振り返ればボイズンスライムが大集合して巨大な壁が生み出されようとしている。
神様はどうしても自分を3階に降ろそうとしているみたいだ。
ボイズンスライムの集合体は壁の様に大きくなり通路全体を覆いつくしてしまった。
これではあのボイズンスライムの壁を突破して休憩部屋に帰還することもできない。
もう残された道は階段を降りるしか残されていないのだ。
後ろ髪引かれる気分で階段を降りていく、10メートルの階段を降り切って後ろを振り返る。
やはり降りてきた階段は消滅している。
ようこそ試練の迷宮3Fへ、そんな神様の声が聞こえて来るような気がする。
とりあえずマッピングして通路を歩き始める。
しばらく歩くと初めて敵と遭遇する。
薄い紫色の透明なスライム、今度は慎重に認識して見る。
『種族』パラライズスライム
『LV』5
『HP』35
『MP』0
『SP』15
『俊敏』30
『器用』12
『知能』5
『防御』19
『攻撃』22
『技能』麻痺液噴射、強酸消化
『魔術』なし
麻痺攻撃性のスライムさんだと認識できる。
この迷宮はスライムの動物園か?そんな事を考えてしまう。
通路は一本道だ。階段が消えた後は壁になっている。
前に進むしか道はない、まだ余計な戦闘は避けるべきだ。
そう思って、パラライズスライムを避けるように通路を進んだが、敵さんはまだ獲物を逃すのが嫌なのか、素早く動いて回り込まれてしまう、さらにパシュ、パシュと麻痺液を噴出してくる。
咄嗟に避けるも次々と吐き出される麻痺液は、運の悪いことに顔面にかかってしまう。
『麻痺状態になりました』
機械音声さんの無機質な声、麻痺と言われてもまだ動ける。
認識で自分の状態を確認する。
『種族』人間
『LV』22
『HP』70
『MP』65
『SP』58-25
『俊敏』40-5
『器用』20
『知能』20
『防御』18+21
『攻撃』15+30
『技能』『耐酸性超』『猛毒耐性超』
『魔術』なし
『状態』麻痺
『ユニークスキスキル』『不死身』
『スキル』『再生』『剣術LV1』
『言語』『エルシオン共通言語』
どうやら麻痺したら俊敏が低下するみたいだ。
ともかく動けるうちに目の前のパラライズスライムを倒すしかこの現状は変えられない、向かってきているスライムに右手を突っ込んで核を握り潰す。
パラライズスライムさんは水の様に変化して、迷宮石の床に消えていく、俊敏低下の効果は少ない、とにかく歩くのにはまだ支障はないみたいだ。
鞄を背負って通路を歩く、毒と違って麻痺は蓄積ていいかないみたいだ。
通路の十字路で小休止、『俊敏』-5が-4に変化している。休息すれば麻痺液は体内で浄化されるみたいだ。
さて迷宮3F休憩部屋まで残り半分のSPで辿り着けるか、十字路の向こうからスライムさんがぞろぞろ集まって来る。
進路を右に決めてパラライズスライムさんと交戦する。
麻痺液をかけられないように、素早く動いて敵を倒していく、それでも避け切れぬ麻痺液がかかり、俊敏低下で動きが鈍くなる。
『麻痺状態になりました』
機械音声さんの声が頭に響く、ともかく鈍くしか動けぬ体に鞭打って、残り数匹のパラライズスライムを次々と倒していく。
『麻痺耐性微小を獲得しました』
機械音声さんはそう告げるけど俊敏は低下して20を切っている。
担ぐ鞄が異常に重く感じる。
とにかく外延部に辿り着かなければ休憩部屋で休めない、重くなった足取りで迷宮の中を進んで行く、しかし曲がり角のたびにパラライズスライムが待ち構えて戦闘を余儀なくされる。
思うように動けぬ体、さらに運の悪いことにSPが大幅に減少している。
幾度の戦闘で俊敏は残り5にまで減少している。
立って歩くのがやっとの状態、SPも減少していき飢餓感が襲い掛かる。
とりあえず鞄から干し菓子を取り出してムシャムシャ食べる。
飢餓感は去ったけど麻痺状態はあまり回復しない、今日は休憩部屋に辿り着けそうにない、重い足取りでそう考える。それなら少しでも安全に眠れる場所が必要だ。
右に曲がる通路が見えてくる。
このパターンなら多分行き止まり、そう考えて、右に曲がってしばらく進むと思った通り行き止まり、それなら奴が出現するかも、そして振り返ってみてみればやはり巨大なパラライズスライム。
鞄を投げ捨て動かぬ体で巨大なパラライズスライと対峙する。
認識で確認すれば、
『種族』ジャンボパラライズスライム
『LV』20
『HP』48
『MP』0
『SP』25
『俊敏』40
『器用』18
『知能』8
『防御』32
『攻撃』39
『技能』麻痺液触手、強酸消化、押しつぶし
『魔術』なし
強敵である数字が並んでいる。
とにかく動けるだけゆっくりと動いてジャンボパラライズスライに接近していく、ジャンボパラライズスライは触手を繰り出してマモルを取り込もうとする。
麻痺を告げる機械音声さんの声が聞こえてこない、どうやら麻痺液は俊敏5を維持するために体内で急速に浄化してるのだろう、触手に絡み取られたマモルはジャンボパラライズスライの体内に吸収される。酸の痛みがマモルを襲うが、もう慣れた痛みほとんど無視できる。
ジャンボパラライズスライの体内を泳ぐように進んで目当ての核を両手で掴む、さてこれから体内から脱出しなければいけなのに力が全然湧いてこない、残りのSPは8俊敏は5とにかくこの状況でジャンボパラライズスライの体内から両腕を出せばまだ勝算はあると思うので、残されたわずかな力で腕を体内から出そうと踏ん張る。
奮闘の末に核を持った両腕をジャンボパラライズスライの体内から出すことに成功する。
しかし地面に投げつけて破壊する体力があともう少しだけ不足している。
ジャンボパラライズスライムは触手を伸ばして取り出された核を取り戻そうとして来る。
猶予はもうない!限界を克服しろ!歯を食いしばり腕を振り上げて、残された僅かな力で核を迷宮の床に叩きつけて粉砕する。
ジャンボパラライズスライは水の様に広がって、迷宮の床に染み込んで消滅する。
『麻痺耐性中を獲得しました』
『経験によりLVが上昇しました』
『スキル『限界突破』を取得しました』
どうやら自分の限界を超えたことで新しいスキルを習得したみたいだ。
ぼんやりした状態で自分を認識してみると、
『種族』人間
『LV』24
『HP』75
『MP』70
『SP』62-57
『俊敏』45-40
『器用』23
『知能』23
『防御』20+21
『攻撃』18+30
『技能』『耐酸性超』『猛毒猛耐性性超』『麻痺耐性中』
『魔術』なし
『状態』麻痺
『ユニークスキル』『不死身』
『スキル』『再生』『剣術LV1』『限界突破』
『言語』『エルシオン共通言語』
最初にこの迷宮に出現した時とくらべれば、格段に強くなっていることが実感出来る。
しかし今日はもう動けない、SPが減少しすぎている。
不本意ながら迷宮石の床に寝なくてはならない、それに俊敏も回復させなければ明日の行動に支障が出る。
焼き固めたパンと干し肉で簡単な食事を済ませ、マモルは床に寝転んで思いにふける。
この迷宮にはスライムしか出現しない、だから躊躇することなく倒せるがもし仮にゴブリンとかの人型のモンスターが出現するようになったら、自分はをそれを躊躇せず殺す事が出来るのだろうか?
今まで暴力を振るわれた事はあったが、他人に暴力を振るったことは無かった。
この世界が剣と魔法による力の世界、そんなゲームのような世界なら、この迷宮から出ればその闘争に必然的に巻き込まれてしまうのではないだろうか?
そんな中でいくら力をつけても目指す者も物もない、神の気まぐれでこの世界に来ることになった自分は何処に向かえばいいのだろう、いくら考えても答えのない思考の袋小路その思考は徐々に薄れていく、迷宮の通路の片隅でいつしかマモルは敵襲の緊張感の中で浅い眠りに落ち込んで行くのだった。
読んでくださってありがとうございます。