つかの間の休息
もう何時間歩いているのかわからない、迷宮の中をさまよい歩く、時々出現するスライム、それをマモルは強引に倒して行く、技能『耐酸性微小』はいつの間にか『耐酸性小』に変わっている。
それでもスキル『再生』が体を再生する速度が上がるだけで苦痛は今までと変わらない、いつの間にかにLVも3に上昇して、現在のステータスは、
『種族』人間
『LV』3
『HP』22
『MP』20
『SP』25-5
『俊敏』19
『器用』10
『知能』16
『防御』10+21
『攻撃』10+30
『技能』『耐酸性小』
『魔術』なし
『ユニークスキル』『不死身』
『スキル』『認識』『再生』『剣術LV1』
『言語』『エルシオン共通言語』
とそれぞれ上昇してきている。
まぁ『不死者』で『再生』スキルを持つマモルにHPが関係あるのかわからないが、攻撃に対するダメージ軽減ぐらいの目安かも知れない、現にスライムの触手攻撃によるダメージはLV1の頃より軽度になったと実感できる。
それでも攻撃されたら苦痛は伴う、ただダメージが蓄積されていないみたいだ。
しかし楽観視はできない、徐々にSPが減少しているからだ。
SP、これが文字どうりスタミナポイントだとすれば休息しないとじり貧になってしまい、いずれ疲れ果てて動けなくなってしまうのだろう、しかしこの試練の迷宮、通路しかなく休憩できるような部屋もないから、必然的に歩きまわる事しかできない、もし迷宮の床にでも寝るのならスライムが寄って来て苦痛の目覚ましになってしまうのだろう。
「しかしこの迷宮スライムしか出ないな」
スライムを一匹倒しながら素朴な感想をつぶやいてしまう、手にしたスライムの核はもう鞄に入り切らないから床に置いてブーツで踏んで砕く、ゲームのようなゲームとは違う世界、苦痛の存在がここが現実だと思わしてしまうのだ。
ただモンスターを倒せば経験値が手に入りLVがUPすることは実感できた。
焼けだられた手の再生が完了すると、とにかく歩き始める。
何時間前からさっきのT字路をただまっすぐ突き進んでいく、左側に曲がる通路はあってもく無視して前進する。
もう5㎞は歩いただろうか?やがて通路は直角に曲がる箇所に差し掛かる。
それを見てマモルは、実感する。
「間違いない!俺は迷宮の外延部を歩いている」
頭の中でマッピングしてきた感覚の解を得てそうつぶやいてしまう、ここが外延部なら上に行く階段もきっと見つかるはずだ。
しかし仮に上に行く階段が外延部にあるとはかぎらないが、取りあえず迷宮の規模を確認するのに外延部を探索するのが、現状把握できるだけの確信に繋がるのだろう、、マモルは初めて通路を左に曲がる。
通路を曲がっても見飽きた風景が前に続いているだけだ。
しばらく歩くとまたスライムに遭遇する。
マモルは素早く動いて、スライムが触手を出す暇を与えず体内に手を差し込んで核を握り引き出す。
酸の火傷の苦痛に顔をしかめるが、負傷した手は急激に再生し始める。
手にしたスライムの核を床にする置こうとして、始めてこれを認識していないことに気づいて認識してみる。
『スライムの魔石、極上品』とそう認識できる。しかし魔石とはどういうものなのか?しかも極上品、これは貴重なアイテムかもしれない、しかし今の自分にはこれを使う技術も売る場所もない、今は単なるガラクタでしかない、鞄にはもう10個も収納してるし、だからもう必要ないとばかりに床に投げ捨てて、ブーツで踏んで魔石を粉々に粉砕する。
ともかく外周部を巡って迷宮の規模を確認する。そのあとは内部の探索を行う必要があるだろう。
マモルはそう決めると長い直線通路を歩き始めた。
そこから5㎞も歩きはじめたのか、いや、遭遇するスライムを全て倒しながらだから多分3~4㎞ぐらいかもしれない、SPは減少を続けており、それにともない疲労感が体を蝕んでいく、途中で水分を補給したから水筒の残量はあとわずかしかない、ちょっとふらつく体に鞭打って通路を歩く、迷宮の暗がりの進んでそこに今まで見たことのないものが迷宮石の壁に存在する。
壁に扉がある。
人が一人入れるだけの長方形の木の扉、迷宮石の光に照らされてそれは招くように存在している。
これは何かの罠か?そんな考えがふと頭を巡る、とりあえず考えていても埒が明かない、恐る恐る扉の取ってを掴んで開いてみる。
中は十畳ほどの小さな小部屋、どこからともなく流れる水の音が聞こえてくる。
寝台に毛布が敷かれてるし、いくつかの道具がテーブルに乗っている。
水の音に引き寄せられるように部屋の奥の水場に向かう、小さなくぼみ、そこから水が上から流れて落ちていく、吸い寄せられるように水の流れに口を近づけて直接水場から水を飲んでみる。
美味い!乾いた喉に染み渡る清涼感、!ごくごくと渇きが癒えるまで貪るように水を飲んでいく、ついでに頭を突っ込んで髪を洗う、シャンプーなんてないけどすっきりするのが先決だ。
濡れた髪を頭を振って水けを飛ばす。
鞄に入っていた布を思い出して、それを取りだして頭と顔を拭く、サッパリした気分で部屋の中を認識していく、先ずはベットから『木の寝台』毛布は『ジュウギャージの毛布』ん?モンスターの名前なのか、それからテーブルの上のアイテムを認識する。
『紙の束、低品質』黒い棒状の物体は『グリュージュ炭筆』平べったい石は『砥石、品質中』やった!これで装備が手入れできる。さらに迷宮のマッピングもできる。
それにここなら一晩ゆっくりと眠れそうだ。
他に有益なものがないか、探してみても食料品は置いていないようだ。
食料はまだ食べていないからしばらくもつだろう、とにかく休めそうなので心がウキウキしてくる。
取りあえず腹ごしらえだ『固く焼き固めたパンと』」『干し肉を』鞄から取り出してテーブルに置く、15㎝の正方形の固形パン、これと一切れの干し肉が今日の晩餐だ。
パンに齧りついてみるとなるほど固い、しかし強引に咀嚼しながら水で流し込む、御世辞身も美味いとはにとても言えない感想だ。
非常食の乾パンをさらに焼き固めているだけのようで、まるで堅い餅を食べている感触だ。
干し肉を齧ってみると塩辛くて肉のうま味もなにもない、堅いパンに干し肉で取りあえず今夜の晩餐は終わりだ。
でも晩餐と言っても今が昼か夜だかわからないが、ここは迷宮の中だから外部から隔絶されている。
時間感覚は腹時計のみが頼みの綱だ。
食料の在庫を鞄をあさって確認すると、このペースで食べれば10日はもつかもしれない、そんな量だ。もちろん腹いっぱい食べなければの話だが、取りあえず飢餓感が襲って来ないように慎重に食べて倹約しなければいけない。
テーブルに置いてある紙束を手にする。
材質が悪いのか一枚一枚の厚さがまちまちだ。
一枚を机に広げ今日歩いた行程を思い出しながら、炭筆で書いてみる。
最後にこの休憩ポイント?、の記入をして溜息をつく、この試練の迷宮1Fは広大だ。
今日目覚めた時から結構歩き廻ったが、ほんの一部を探索したにすぎない、外延部から推測して10キロ四方はあるのではないか?
上に昇る階段を見つけるのは途方もなく困難に思える。
ただ救いとしてモンスターがスライムしか出てこないことだろうか、最初に苦戦したスライムとの戦闘は、遭遇しているうちに慣れてサクサク倒せるようになっている。
苦痛は伴うが、相手の弱点さえ把握してしまえば雑魚のように倒せてしまう、基本的に素手で倒せるので腰の鋼鉄の剣はまだ使う必要はないだろう、しかしスライムを攻撃したことで剣の表面が変色している。
剣を鞘から抜いて状態を見てみると、鈍く輝る剣の所々が酸に侵されて変色している。
砥石で研げば光沢が取りもどせるかもしれない、そう考えて砥石を掴んで水場に向かう、流れ落ちる水に砥石を付けて剣を研いでいく。
しばらく研ぐと剣に光沢が蘇ってくる。
最初の戦闘に使っただけなので表面しか酸化していないようだ。
もしこの剣を使い続けていたら、酸でボロボロになってしまったのだろう、スライム相手に使えない武器に思わず苦笑いしてしまう。
この剣を使い続けなければスキル『剣術LV1』は上昇しないのだろうか?
剣を片手で軽く振ってみる。
やはりふらついてまともに振れない、剣の重さは体感で10キロぐらいある。
60㎝ぐらいの両刃の鋼鉄の剣、やはり両腕で振るうしかなさそうだ。
両手に持ち替えて鋭く振ってみる。
俊敏が上がったおかげか最初より素早く振れる。
剣なんか今まで振った事もないが、何故か扱い方がなんとなく理解できる。
たぶんこれがスキル『剣術LV1』の効果なのだろう、それでも熟練とは程遠いスキル、振り方も大振りで洗練されているとはとても思えない。
しばらく剣を振ってたら、両腕に疲労を感じて振りが鈍くなる。
疲労感に伴ってSPも減少していく、SPを回復させるには休養を取るしかないみたいだ。
休養するには寝るのが一番だと思い、剣を鞘に収めて木の寝台に向かう、そこで皮鎧の装備を付けたままだと気づく、この部屋に敵が入ってこない保証も何もない状態だ。
しかしゴワゴワする装備を身にまとっていては安眠が得られるのか?しばらく思案する。
スライムボアの皮鎧一式、首から胸にかけて覆う胸当てと、腹から股間を守るスカート状の部分、膝から足は、脚甲とブーツの一体型、肩から腕を守る一体型の手甲、皮製で重さはそう感じないが、このまま装備した状態ではリラックスできそうにない、しばらく考えてから装備を外し始める。
もしこの部屋に敵が侵入してきてもたぶんスライムだろう、酸に焼かれる苦痛さえ我慢すれば倒せない敵ではないはずだと、外し方に戸惑いながら装備を脱いでいく、脱いだ装備は木の寝台の横に積み上げていき、自分の姿を見てため息をついてしまう。
自殺する前に着ていたTシャツにスエットのズボン、ズボンはスライムの酸に侵され穴が所々空いている。
体を確認するためにシャツを脱いでみたら、いじめとDVによって付けられた傷跡が生々しくまだそこに残っている。
どうやらスキル『再生』はこの世界で傷ついた肉体の傷しか再生しないようだ。
虐げられていた暗い履歴の傷跡、見ているだけで気分が憂鬱になっていく、取りあえず何か前向きな考えを思いつかないと、憂鬱に取り込まれて動けなくなってしまいそうだ。
せっかく神様に異世界に転移してもらったなら、この世界で何か楽しみを見い出せばよいと、不安な心に小さな希望を抱いて、毛布を被って寝台に横たわる。
未知の世界『エルシオン』いったい自分はそこの何処に存在しているのか?
自分と同じような人間という種族はいるのだろうか?
この異世界に転移してから情報も知識のほとんどないことを考えながら、いつしか意識は次第に途絶えていく。
こうしてマモルは異世界に転移してから最初の休息を取ることになる。
試練の迷宮、その過酷な現状をまだ認識できないまま、安らかとは言えぬ睡眠を取ることになるのだ。
読んでくださってありがとうございます。