異世界転移
「地獄?」
慈愛に満ちた笑顔の老人にいきなり地獄にようこそ言われも理解できない、仏教的観念から見た場合地獄とはもっと陰惨で残虐なイメージだからだ。
「ああ、ここはまだ地獄ではない、その入り口と言える場所じゃ、しかもお主はラッキーじゃ現世の肉体が仮死状態と言え存在するからの、魂だけで送られる事を考えば時間の短縮が大いに進む、つまり転生と転移じゃ転移者は成長する必要がないぶんすぐに体験できるお得仕様じゃ」
しかし守は転生と転移の違いなんか理解できない。
「成長を待ってから記憶を取り戻し行動するその期間の短縮が可能じゃ、さて琢磨守と言ったかの、現実が悲惨とはいえ自ら命を絶つとはいただけないぞ、地球神の介入があと少し遅れたなら魂の消滅の危機じゃった」
「地球神の介入?それはいったい?」
「おぬしの魂は輪廻の中で常に精神的につらい状況を選択し修行しておる。それはおぬしが精神的に選んだことゆえ神としても観察することしかせん、が、しかし今回は些かひどすぎた。あのまま傍観しておればおぬしの魂は消滅してしまうこともあり得た。地球の神が。手を差し伸ばさねば虚無の世界に散っておったじゃろう」
何故か理由はわからないが自分が自殺した瞬間に神的存在が何らかの救済処置をしてくれたのか?しかしいくら危機的状況とはいえ生き返っても現状は変わらず。義父のDVも変わらず。またいじめの問題も解決しない、いくら神の気まぐれとはいえ自分は虚無に飲み込まれて消滅した方が幸せだったかもしれない。
「このまま戻ってもあの地獄の日々はまた続きます。あなたはここが地獄の入り口とおっしゃりましたね?ならあんな地獄に帰還しても日常は変わらず、いや更に悪化して俺はあいつに殺されてしまいます」
慈愛に満ちた笑顔の老人は守の言葉に頷きながら。
「それ故に転生や転移じゃ、魂の置き場所を一端別の場所に移し替える。しかも肉体ごとの転移じゃから余計な、手前もかからんのじゃ、さて次はおぬしをどこに送り込むかじゃが」
老人の周囲にいくつもの球体が出現する。
それはまるでいくつもの地球を小さくして宇宙から眺めたように見えた。
「ふむ、エルシオンか……ここなら転移しても大きな影響は出ないか、あそこの神々も小さな変革を望んでいたしおあつらえ向きじゃな、ちと神々との話をつけるからしばらく待て」
老人は無数の星々から一つの球体を選ぶと目を閉じる。
「ふむ、受け入れについては全員の同意を得られた。特別にスーテジまで創造してもてなしてくれるようじゃ、ふははは、歓迎されておるな、創造神がギフトまで用意してくれるそうじゃ、他の神々も贈り物の用意があると申しておる。地獄にしては気が利いておる」
一方的に語り告げる老人、守はそう告げられても理解が追い付かない、ただこのまま地球に送り戻されないということは理解できる。
「俺を別の世界に送り込むということか?」
「そうじゃエルシオン、地獄とはいえ愉しい世界じゃぞ」
「楽しい地獄なんか存在するのか?」
「生命存在する世界は等しく地獄じゃ、生存と競争は常に行われており魂を昇華させることを目的としておる。昇華された魂は新たな世界を創造し神化する。そうして無限の世界が新たに創造されるのじゃ、わしはその世界を管理する管理者の一人として存在する。おぬしの存在していた地球もわしの管理する世界の一つじゃ、管理する世界に神化するに適した魂を監視し神々を通じて干渉しておる。おぬしは自分では自覚しておらんじゃろうが、神化するに適した魂の所有者ゆえこのような救済を行うとしたのじゃ、魂の神化には大きな試練が必要じゃ、神が手助けするとはいえそれは自分で乗り越えなければいけない壁じゃ、試練を乗り越え魂を磨き神化することをに期待しておるぞ」
魂?神化?試練?なんのことだかさっぱり理解できない。
「そんな大げさなことを言われても理解できない」
「理解する必要はない、人の身としては神意に到達するには大きな時が必要じや、今はただ目に迫る試練に挑んで行けばよい、おぬしがいずれ神になった時にでもゆるりと語り合おうぞ」
いずれ神になると言われても、単なる暴力吸収装置だった自分には程遠い話だ。
「さてエルシオンの受け入れも済んでおる。ここでわしと語った事はおぬしの記憶から一端消去する。近くに再会できる事を心待ちにしておるぞ」
そう告げる老人、目の前の球体が徐々に大きくなり始めて意識が吸収されそうになる。
『初めまして、僕は創造神バンデミオン、僕の創った世界エルシオンにようこそ、異界からの旅人よ、死にたがりの君のために特別なギフトを用意したよ、ユニークスキル『不死者』この力で僕の世界を思う存分楽しんでくれたらいいね、、死んで逃げられないから思う存分楽しめるかな?皮肉だね、地球の落後者さん、僕の世界は地球のゲームを参考に創造してるから地球出身なら馴染めるかもしれないね、さて最初は体験版チュートリアルの開始だよ、他の神達も協力するよ、僕達の創り上げた世界に初めてのお客様、ワクワクするね、君がこの世界で何をして何を考えどう行動するか、神でもそれはわからない、僕達にとっても楽しい見もの、さぁお互いに楽しもう、ステージのはじまりだ』
朦朧とする意識の中に神の声が響き渡る。
これは念話という物か?薄れゆく意識のなかでふとそんなことを考えている。
やがて意識は完全に途絶えて黒い霧のように思考が途絶える。、
こうして地球で自殺したはずの琢磨守は、異世界『エルシオン』に転移することとなる。
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