プロローグ
妄想の変人の与太話、是非お付き合いしていただければ幸いです
死んでしまいたい、その渇望は日常を日々過ごすうちに次第に高まっていく。
学校に登校するという日常は守の精神を負の感情に塗り替えていく、理由は単純、いじめられているからだ。
日常の世界が常に灰色に塗り替えられ守の精神を削り取ろうとする。
陰湿ないじめ、暴力的ないじめ、それを抑止する存在がいないせいで日々エスカレートしていく。
クラスメートも教師もいやそれどころか両親まで自分の味方になってくれない、両親といっても父親は母の再婚相手であり、血のつながりのない自分に暴力的な教育を最善と考えている屑だ。
学校でのいじめ、家庭での虐待、元々気の弱い性格の守どれにも反抗できるはずもなく徐々に追い詰められていく。
この社会に自分の居場所は何処にもない、ならば最後の選択肢は死ぬしかない、日々死を意識した思考が頭をよぎる。
どうすれば楽に死ねるか、電車に飛び込み、高所からの飛び降り、パソコンで自殺サイトを検索する日々が始まる。
死んだらどうなるのだろう?これだけは実際に死んでしまわなければわからない、そんな最後の一線を越えられない日々がしばらく続き、破綻の日が訪れようとしていた。
その日は休日だった。しかし休日に関係ない母は仕事に出て家には義父と二人きりだ。
義父は不機嫌に朝から酒を飲んでいて何が気に入らないのか一人で喚いている。
義父の気が変わったらDVに発展しかねない緊迫した状況だ。
義父は仕事をしていない、無職で母親のヒモであり、そのコンプッレクスの捌け口に守に暴力を振るうのだ。
こんな緊迫した状況下では何も手に着かない、外出は禁じられている。
勉強?落書きだらけの教科書で出来るはずもない、ゲーム機なんて買ってもらったこともないから暇をつぶすこともできない、母親のお下がりでもらった古いパソコンで掲示板をぼんやり見るしかない。
リビングで酒を飲んでいた義父が喚きながら階段を上って来る。
DVタイムの始まりか?一気に気分が憂鬱になる。
ドアを開けて義父が部屋に入って来る。さっきまで喚いていたのに薄ら笑いを浮かべて何故か機嫌がよさそうだ。
「名案を思い付いた」
ニヤニヤ笑いながら義父は手に持ったロープを指示して見せる。
「名案?」
何を考えているのか疑問に思い訪ねてみる。
「俺は今からパチンコに行ってくるからその間にすましておけ」
何を言っているのか理解できない。
義父は天井に椅子に乗ってロープを吊り下げる。
「人一人ぐらいなら十分耐えられるな」
ロープの先を輪っか状に仕上げてグイグイ引いて強度を確認する。
「お前が死ねば大金が入って来る。そうすればお前の母親も喜ぶ、俺も厄介払いができるしみんな幸福になる。死ぬ前に遺書を書いておけよ、虐められていたんだろ?金蔓は多い方がいいからな、ただし俺の事は書くなよ、俺は優しいお父さんだからな、最後まで家族に負担をかけるなよ、まぁ遺書の内容をみてから警察を呼ぶからな」
どうやら守はみんなの幸福の中に入る選択肢は最初から除外されているようだ。
「睡眠薬があるが飲むか?意識が朦朧として来たら椅子に乗ってロープに首を入れて蹴とばすだけでいい、実に簡単で苦しまなくあの世に行ける。母さんとはパチンコ屋で合流する。夜まで誰も邪魔しない、?したいことがあったらそれまでにしておけばいい、さていろいろ段取りはしてやったんだ。今夜は俺達にとって忙しい夜になる。お前が死んでも死ななくてもだ。お前自身が自決できない場合は俺が引導を渡すことになる。その細工も考えてある。どちらにせよお前とは今日でお別れだ。最後に言っておくが逃げるんじゃないぞ、お前はもう死ぬしか道は残されてい無からな」
そう告げると義父は部屋ら出ていく、睡眠薬の錠剤を机に残して。
暫くして玄関ドアを開け閉めする音が聞こえてくる。
パチンコに行ったのだろう、天井にぶら下げられたロープを見つめて苦笑する。今まで死ぬために模索してきたことが馬鹿らしくなる。
もし今日死ななければいずれにせよ殺される。あの義父はそんなに甘い存在ではない、せめて自分で決めることを最大限の譲歩として提示してきたのだろう、もう進退窮まった。何よりも疲れた。虐待といじめのコンボに嵌り心身ともに疲弊している。
学習机に向かい鞄からノートを取り出す。落書きだらけのノートだが余白はある。そこに学校でいじめられて苦しいです。だから死にますと簡潔にそれだけ書いて机に置く、それから最後にしたいことがないか考える。外に出るのも億劫だし食べたいものもない、下に降りてコップに水を汲んでくる。
さて睡眠薬かどれだけの効果があるのだろう、とりあえず12錠を一気に水で流し込む、薬が効いてくるまでパソコンを立ち上げる、MMOタイプのゲームを検索してしばし眺める。
剣と魔法の世界、PCのスペック低いため固まって今ま出来なかったゲームだ。
もし来世があるのならこんな世界に行ってみたい、力があれば戦える単純明快なそのシステム、たとえ死んでも復活できる。仲間と共に最強を目指す。この画面の中の世界にはいじめもDVもないのだろう。
睡眠薬が効いてきたのか意識が朦朧としてくる。
さてこんな理不尽で残酷だった世界と最後の別れをしなくてはいけない、椅子に立って首にロープの輪っかの部分をくぐってみる、ちょっと腕を上にあげると絞まるように首に食い込む、さて守は背が高い180センチを超えた身長が床に着かないか試してみる。あの義父よく考えてロープを吊るしたみたいだ。足が床に着く心配はないのだろう、あとは椅子を蹴とばすだけだ。
後悔もない未練もないこの世界に居場所はもうない、だから思い切り椅子を蹴とばす。
ロープが首に食い込んで頸動脈を締め付る。
暗い暗いどこまでも暗い世界に意識が落ちていく、体の感覚が麻痺していく。
このまま暗黒に飲み込まれて消滅するのかな?それならそれでいいだろう、もう苦しまなくてもいいのだから、時間も空間も感じられない虚無な中で意識だけが異物の様に存在する。
死ぬということを体現して感じたことはただ空虚だった。このままやがて自分の意識も消滅していき無に帰るのか?。しかしやがて虚無の世界に変化が起こる。
それは一粒の光点だった。
やがて光点は大きく拡大し自分の意識がその中に飛び込む、そこには確かな存在がいた。
そして自分という存在も光りの中で再構築されていく、服も何も着用していない自分という存在が、最初から存在していた老人と向かい合う、
ローブを纏った老人は慈愛いを浮かべたように微笑んで。
「ようこそ地獄へ」
一言だけそう投げかけた。
読んでくださってありがとうございます