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第8話 居候なんて恥ずかしい!

「みんな、ご飯にしましょう。ジンさんもどうぞ」


 バレリが子どもたちを呼びに来たときには、ジンはボロボロの状態だった。

 中身ではなく、外見がという意味で。


(子どもってなんてパワフルなんだ)


 三人の幼児の相手でジンはすっかり疲れ果てていた。

 なんというか、ずっとテンションが下がらないまま体当たりで遊ぼうとして来るので、まだ十六才であるジンですら翻弄されてしまったのだ。


「看病していただいて食事まで。すみません」

「ちゃんと子どもたちを見ていてくださったんですもの。恐縮する必要はありませんよ」


 そう言われて、自分の奮闘が報われたことをジンは知った。

 ただ恵んでもらうのでは卑屈になってしまうが、労働に対する対価としての食事ということなら胸を張って頂くことが出来る。

 間違いなくバレリの気遣いだが、それはそれで、納得の行く理屈だった。


「やった! ジン兄ちゃんも一緒に食べる!」「食べる!」「ごっはーん!」


 幼児組はとても元気である。


「まぁ。すっかりジンさんと打ち解けたのね。よかった」

「むしろ子どもたちに気を使われたような感じです」

「うふふ」


 バレリが屈託なく笑うと、ジンも嬉しくなる。

 そんなジンの脇腹を突然衝撃が襲った。


「いっ!」


 見るとバイスが知らんぷりで傍らを歩き去っていくところだった。


「ヤキモチかぁ」


 思わずジンが呟くと、振り向いたバイスがニィと笑って見せる。


(こいつめ)


 思わず胸中で唸り声を上げたジンだったが、そこは年長者の貫禄である。

 怒鳴りつけたいのをぐっと我慢した。

 

(まぁいきなり現れた余所者が大好きなお姉ちゃんに手を出そうとしているみたいな感じに見えるんだろうな)


 そう思うから怒れない部分もある。

 勉強家で生真面目そうなバイスを、ジンは嫌いではなかった。


 大きさの違う木材をつなぎ合わせたようなテーブルの上に木製の椀と皿とスプーンが並んでいた。

 テーブルの端に置かれた鍋、というか壺のような物があり、そこにスープが入っている。

 子どもたちはそれぞれ椀を持ってそこに行き、椀のなかにスープを注いでもらう。

 ジンもそれに習って自分の椀にスープをもらった。

 全員にスープが行き渡ると、今度はバスケットのようなものを持ったバレリがテーブルを周り、焼いたせんべいのようなものを皿のなかへ配っていく。


「みんなに食事が行き渡りましたか?」

「はーい!」


 子どもたちが元気よく返事をするが、さずがにジンは恥ずかしくて同じようには返事が出来ない。

 そんなジンの隣に座ったアンが、「お返事するの」と、囁いて教えてくれた。


「……はい」


 アンの優しさに応えない訳にはいかず、ジンは恥ずかしさを振り払って返事をした。


「それでは、大地の恵みを頂けることに感謝を」


 バレリは、ちょうど日本人的感覚では拝むような感じで両手を合わせて、そう口にする。


「かんしゃします!」


 何人かは我慢出来ないのか、薄いせんべいのようなものを掴んだまま、バレリに続くように応えた。

 ジンも、先程のことにこりて、今度は他の子どもたちに紛れる形で「感謝……します」と、小さく口にする。

 それが終わると、子どもたちはいっせいに手にした薄いせんべいのようなものをバリバリと音を立てながらスープのなかへと砕き入れる。


(なるほど、そうやって食べるのか)


 ジンも理解して、同じように真似した。

 薄いせんべいのようなものはスープのなかでふやけ、スプーンで掬って食べると、おかゆに似た味がする。

 薄い塩味で、せんべいのおこげの香りと、ほのかな酸っぱさがあり、味付けがあまり主張しない、素材の味がメインの料理だった。

 とは言え、長い間食事をしていなかったらしいジンは、その食事をとても美味しく感じた。

 空腹は最高のスパイスと言うが、その通りである。

 残念ながら量は大したことなく、ジンにとって物足りない内容だった。


 子どもたちはそれぞれの食器を抱えて、水を張った桶へ行き、順番に洗って行く。

 ジンも同じように自分が使った食器を洗った。

 洗った食器をバレリに渡して、ジンは改めて彼女に告げる。


「少し、相談したいことがあるんだけど」

「はい」


 バレリは頷いて再びテーブルへとジンを誘った。


「あなた達は寝具の準備をしておいてね」

「はぁい」


 子どもたちはジンが気になるのかチラチラと見ながらも、おとなしく与えられた仕事へと向かう。


「それで、相談って?」

「厚かましいことはわかってるんだけど。帰れる目処が立つまでここでお世話になる訳にはいかないだろうか?」


 ジンが子どもたちの面倒を見ながら考えて出した結論がそれだった。

 自分のいる場所についてほとんど何もわからず、頼りに出来る相手もいない。

 縁と言えばこの孤児院しかない。

 命を助けてもらいながら図々しいとは思ったが、他に選択の余地がなかった。


「ジンをここに受け入れるかどうかは、私では決めることが出来ないの。今は遠出しているヴィスナー教師が戻って来ないとどうにもならないわ。ごめんなさい」

「そっか」


 正直ショックだったが、仕方のないことでもあった。

 自分でも怪しい人間であることはジンも承知している。


「だから、それまではお客様として滞在してもらうってことでどうかしら? あ、もちろん、ちゃんと仕事はしてもらいます。お客様でも働かない者を食べさせる余裕はありませんから」


 だからこそ、続いたバレリの言葉は、ジンにとって嬉しい驚きだった。

 保護者のいない子どもだけの環境に、ジンのような訳のわからない人間を受け入れてくれるとは。


「ちょっと不用心じゃないか?」

「それって追い出されたほうがよかったってこと?」

「あ、いや、それは困る」


 慌てて否定すると、バレリは弾けるように笑った。


「あはは。自分が困るようなことを言うなんて、ジンっておかしい」

「あーうん、そうだよな」


 ジンは自分でもおかしいとは思う。


「でも、ありがとう。私たちを心配してくれたのね」

「だって、君やアンは命の恩人だし。他の子どもたちだって、俺は好きだよ」

「そう思ってくれるんだったら、足りない男手としてしっかり働いてね」

「了解しました!」

「あはは、何、それ」


 照れ隠しの敬礼をバレリが笑う。

 どうやら敬礼の習慣はないらしい。


 まだまだ先のことは不透明なままだが、とりあえず、ジンは留まる場所を得たのだった。


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