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第6話 受けた恩を返せない!

「具合はいかがですか?」


 声を聞くと、その子は確かに少女なのだなとわかる。

 実際よく見ると、アーモンド型の目が美しい美少女と言ってもいいだろう。

 まるで少年のような姿をしているのは貧しいからだろうか?

 そう考えると、ジンは自分がお世話になっているのが申し訳ない気持ちになる。


「はい。もう大丈夫です。ありがとうございました」

「もしかしてキノコかなにか口にしました?」

「あ、いえ、虫に噛まれたからそれかな、と」

「ああ、噛み虫ですね。あれは少し毒を持っているんです。小さい子どもは熱を出したりすることもあります。あと、他所から来た方はあなたのように寝込んでしまうこともあると聞いています」


 噛み虫というそのまんまを意味する名前の虫が、本来小さな子どもが寝込む程度の毒持ちと聞いて、ジンは少々ショックを受けたが、旅行者が熱を出すなら免疫がない者には厳しい毒ということなのだろうと納得した。

 しかしここはどこなのか、なぜ言葉がわかるのかという根本的な疑問の答えは見つからないが。


「あの、助けていただいてお尋ねするのも何なのですが、ここはどこでしょう? あと、馬がいませんでしたか? とても大きな」


 ジンの問いに、少女は少し考えるようにすると、口を開いた。


「ここは精霊の傍らレクタールという村です。龍馬うまは見ていません。あなたは森の入り口に倒れていたのを子どもたちが見つけたのです」


 ジンは言葉の意味はわかるものの、なんとなく理解しにくい部分があることに気づいた。

 やはり外国語ではあるのだろう。

 

(これはあれかな、従兄弟が言っていた、外国語に囲まれていると、突然言葉がわかるようになることがあるってやつ。それにしてもいきなりだったけど、寝ている間に聞いて睡眠学習効果があったとか)


 自分でも納得していない理屈を無理やり飲み込むようにして、とりあえずジンは言葉の問題は忘れることにした。

 言葉が理解出来るのは便利だからだ。


「あの、日本、ジャパンの大使館とか、それか国連組織とかそういったところをご存知ないですか?」

「すみません、聞いたことないです」


 少女は申し訳なさそうに答えた。


「そうですか」


 ジンはがっかりしたが、すぐに気を取り直す。


「ええっと、助けていただいたお礼に何かできることはありませんか? あ、そうだ、名乗り忘れていました。俺はジン、ジン・カムナギと言います」

「ご丁寧にありがとうございます。私はここの年長徒弟でパレリ・ナクア(村の娘)と申します」


 またも理解しにくい言葉が出て来て、ジンは今度は聞いてみることにした。


「徒弟というと、どなたかの弟子ということですか?」

「はい、ヴィスナー教師の現在の第一徒弟になります。と言っても単に身寄りがなくて養ってもらっているだけなんですけどね」


 色々わかりにくいが、おそらくは孤児院のような場所なのだろうとジンは見当をつけた。

 そういった慈悲深い場所なので明らかな余所者の自分でも助けてくれたのだろうと理解する。

 そして、あの逃した馬は、ジンを人里に降ろしてそのまま去ったのだと考えた。

 自由になったのだと思うとほっとするが、人に養われていた馬が野生で生きていけるのかが心配だった。

 しかし今更どうにもならない。


「それで、何か手伝いをしていただけるとのことなのですが、まだお体も本調子ではないでしょうし、出来れば小さな子どもたちの相手をしていただけないでしょうか?」


 なるほど、肉体労働は無理と見て、ベビーシッター代わりとして働いてもらおうということかと、ジンは納得する。

 そう言えば、彼女を呼びに行った子どもにもお礼を言わなければならない。


「わかりました。お任せください」

「ありがとうございます。助かります」


 ジンはベッドから下りようとしたが、床が土間であることに気づいて裸足の足を下ろすことにためらった。

 見ると、ベッドの傍らにサンダルのようなものがある。

 これを履けというのだろう。

 足を入れてみると、やや大きかったが、サンダルタイプなのでそれほど問題ではない。


 しかし、ここはどこなのだろうとジンは改めて考える。

 言葉も違うし人種も違うので、間違いなく外国だろう。

 最初に会ったリリスたちは、暗がりでよくわからなかったが、明らかに白人種っぽかった。

 ここにいるバレリは、どちらかというと中東やインドといった雰囲気の顔立ちに見えた。

 ただし、肌の色はかなり赤っぽいので、もしかすると知らない民族かもしれない。


「あ、そうだ!」


 パタパタと、バレリが慌ててどこかへと駆け出す。


「少し待っててください」


 やや遠くから声がして、何かを探すような音がした。


「んん?」


 それほど時間もかからずに、バレリは戻って来ると、ジンに小さな壺を差し出す。


「これ、とてもよく効く虫除けなんです。体の出ている部分に塗っておくといいですよ」

「おお、ありがとう。あの、お返し出来るものが何もないのだけど」


 あまりにもよくしてもらって、ジンは戸惑った。

 薬というものはだいたい高価なものであるという認識がある。


「熱冷ましの薬はヴィスナー教師が、その虫よけは私が作ったものです。困窮している者には与えるのが世の理。働けるようになったら遠慮なしに返していただきますので、安心してください」

「なるほど、働いて返させていただきます」

「はい!」


 にっこりと笑ったバレリは、男のような格好でも十分可愛かった。


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