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第15話 魔法なんて子供だましだ!

「この世界には二つの全く違う相が絡み合って存在しています。一つが私達が普段目にしている不確定な世界。もう一つが普段は見えない確定世界です。不確定世界は人間や動物たちのような変化するものたちの世界です。確定世界は妖精や妖魔、神と呼ばれるものたちの世界となります」


 この時点で、ジンはすでに混乱し始めていたが、とにかく聞くと約束した以上は、理解しがたくても必死に聞くしか無い。

 ジンはとりあえず考えることはやめて、話の内容だけ頭に詰め込んだ。

 ヴィスナーはさらに話を続けた。


「不確定世界に住む私達は、可能性という力を持つかわりに、世界へ直接干渉することは出来ません。確定世界に棲むモノたちは、変化しないかわりに世界に干渉して世界を変化させることが出来ます。確定世界のモノが持つ力を私達は魔法と呼んでいます。魔のモノの法、つまりことわりによる力ということです」


 魔法!

 ジンはバカバカしいという気持ちと、薄ら寒いような心地を同時に感じる。

 魔法など、ジンの住んでいた世界では絵空事に過ぎなかった。


「異世界から訪れる勇者は、世界を越える際に、一度存在を解体され、この世界で存在を再構築すると言われています。その際に、確定世界のことわりの一部をその身に取り込むのだと」


 何言ってるんだ! そんな馬鹿げた話があるものか! と、ジンは叫びたいのを我慢した。

 約束したのだ。

 最後まで聞く必要がある。


「なぜなら勇者は魔法が使える人間の呼び名だからです」

「魔法が使える?」


 思わず聞き返してしまったジンだった。


「ええ。最初の、と言うか、最初に確認された勇者は、何の意図もなく、自然現象としてこの世界に吸い出されて来たとのことです。その勇者が創った国があの聖王国です」

「えっ」

「そう。あの聖王国の王族は、異世界の勇者の子孫なのです。そのため、彼らは魔法を使うことができます」


 思いもしなかった話に、ジンは絶句した。

 あのリリスは、異世界人の末裔ということになる。


「とは言え、王族の使える魔法は代を重ねるごとに衰えて、大きく世界を変えることは出来ません。大きな魔法は触媒や、確定世界の存在を利用してようやく使える程度です。ある意味、普通の人間とそうは変わらないのです。しかし、彼らのなかには祖先である勇者が持っていた、異世界との繋がりがあり、その繋がりを使って、新たに勇者を召喚する魔法を生み出しました。二代目以降の勇者は彼らの召喚によるものです」

「ちょっと、待ってくれ!」


 とうとうたまらず、ジンは声を上げた。


「あなたは俺がその召喚された勇者だって言うのか? だけど俺は普通の人間だ! 魔法なんて使えないぞ!」

「使えないのではなく、使い方を知らないだけではないのですか? 野菜を育てた力はあなたのものではありませんか?」

「そ、そんなはずあるか! 確かに俺は野菜が早く育つといいとは思ったけど、特別なことは何もしていない!」

「妖精や妖魔や神は、何かを思うことで現象を起こします。人間が魔法の力を借り受ける場合には儀式や印が必要ですが、彼らにはそんなものは必要ない。勇者もまた同じです」


 ジンは身を震わせた。

 自分が知らない何かに変わったと言われたことが恐ろしかったのだ。


「こ、言葉は、どうなっているんだ? これも魔法なのか?」

「言葉や、一部の縛めは、召喚の際に条件付けされるものと聞いています。再構築される際にその一部を書き換える。いえ、上書きすることで、勇者を扱いやすい存在にするためです」


 ゾクッと、ジンは全身が鳥肌立つのを感じた。

 我が身が分解されて再構築される。しかも、そこに他人の意思が紛れ込んでいる。

 そんな話を聞かされて、恐怖を感じない者がいるだろうか。


「ありえない。おとぎ話ですらもっとまともな話だろ」


 だが、一方で、ジンは自分の状態のおかしさも感じていた。

 思い出せない記憶、話せなくなった日本語、一夜で実った野菜。

 恐怖がヒタヒタと胸の奥を冷たくする。


「ジン」


 ヴィスナーの声が、ジンの耳の届くと、ふっと、その身の奥の寒さが和らいだように感じた。

 ジンはその声に釣られたように顔を上げる。


「恐ろしい思いをさせてしまって、申し訳ありません。しかし、知っておかなければならないことがあるのです。あなたの持つ魔法の力のことです」

「……はい」


 ジンは全く落ち着くことは出来なかったが、話の続きを待った。


「そもそも魔法の力は確定世界、変化しない世界のものです。変化するものが使えば、それは負担となる。魔法を使えば使うほど、勇者は変化出来なくなる。つまり未来を失います」

「未来を、失う?」

「ええ、命を失うのです」


 もうジンは驚かなかった。

 異世界に召喚された勇者であるということに比べたら、死ぬということは現実味があった。

 現実味があったからこそ、それは驚くようなものに感じなかったのだ。


「聖王国に召喚された勇者は、数年で命を落とします。彼らは勇者を使い捨てているのです。強大な魔法の力を使う兵器として」

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