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第11話 空腹は我慢ならない!

 この祠守の家の食事は本当に貧しい。

 いや、この村全体がそうなのかもしれない。

 毎食薄いスープとせんべいのような物を朝夕二回食べるのみだ。

 しかも量が少ない。

 ちなみにせんべいのようなものはラダと言うらしい。焼き飯という意味だ。

 スープのなかには野菜や普通の草みたいなもの、潰した木の実のようなものなどその時々で違うものが入っていたが、味付けは一緒だった。

 ジンがバレリに聞いたところ、これの味は、この村独特の発酵調味料の味らしかった。

 少し酸っぱいが、癖になる味だ。

 しかしそのせいで余計ジンはお腹が空いていた。食欲を増進させる味なのである。

 なにしろ慣れない肉体労働をしているのだ。育ち盛りということも合わさって、空腹は耐えられない程だった。

 常に腹がギュウギュウ鳴って、子どもたちに笑われたぐらいだ。


「腹減った」


 情けなくも呟くジンに、バレリが苦笑混じりに言った。


「今の時季は、冬に備えて備蓄優先になるの。あんまり食べさせてあげられなくてごめんなさい」

「いや、俺だってわかってるんだ。子どもたちだって文句言わずにいるんだし、ましてや俺に多めに食べ物を譲ってくれているのだって、知ってるし。だけどこればっかりは、どうにもならないなぁ」


 ジンは元々十分に一日三食食べていたのだ。

 いきなり粗食になって、我慢するのは辛いものがある。


「今年は野菜の育ちが悪いから。実をつけるものがもう少し生ってくれると違うんだけどね」

「うおおおおお! 早く育ちやがれ!」


 バレリの言葉を受けて、ジンは畑に走っていくと、叫ぶ。

 畑作業をしていた子どもたちがクスクスと笑った。


「肉とかはどうなの? 狩りとかするの?」

「罠で少しずつ獲ってはいるけど、それこそ肉は保存食として冬に備えるから」

「魚とかは、……ああ、水場がないか」

「うん」

「卵が採れる鳥とかは養わないの?」

「……昔は飼っていたんだけど」


 答えるバレリの顔が暗くなる。

 ジンは理解した。

 聖王国とやらの連中が全部奪って行ったに違いない。


「くっそ、まぁ仕方ないことをグチグチ言ってもどうにもならないからな。俺も森に入って収穫手伝うよ」

「お願い。私が採るものを覚えて見つけたら採ってくれればいいから。ううん、採らなくても荷物を持ってくれるだけで、随分違うわ」

「なんとかお役に立てると嬉しい」


 森の恵みはこの村の命綱と言ってよかった。

 村で養っていた獣や、備蓄していた食料などは、聖王国の兵が徴収して行ってしまったらしい。

 一部隠していたものが細々と残っているだけなのだそうだ。

 今、村には冬を越すには辛い蓄えしかない。


 森は今の季節にはキノコや木の実、山芋のたぐいや、食べられるハーブや球根などが豊富にあるとのことだった。

 しかしあまり奥へと分け入ると、大型の獣のなわばりに入ってしまう。

 ジンはバレリに絶対に自分から離れないように言い含められた。


「たくさん収穫がありますように」


 ジンは信じてもいない神に祈りを捧げる。

 いや、この地にはこの地の神が祀られているのだから、その神へ祈るべきだろうと考えたジンは、「森の神様よろしくお願いします」と、手を合わせた。


「ジンの国でもそうやって神様にお祈りするのね」

「ああ、うん。まあ宗派ごとに色々あるっぽいけど、こういうのが一般的かな」


 いわゆる合掌という形だ。

 バレリたちの村でも祈りの際にはこの形らしい。

 一方で聖王国の神への祈りはもっと大げさとのことだ。「あの人達は神様に身を投げ出すみたいな感じなの。なんだかちょっと怖い」とのバレリ談だ。

 バレリたち森の民からすると、神というのは敬う対象ではあるけれど、ある意味、交渉相手のような感じらしい。

 全てを捧げてしまったら、人間は生きられないということだった。


 その日の収穫は思ったより多かった。

 なんと鳥の巣を見つけて、卵も得ることが出来たのだ。

 地走りという飛べない鳥の卵らしい。

 大きさは鶏の卵よりも少しだけ小さい感じで、枯れ葉色をしていた。

 五個あったそれを、バレリは三個だけ採った。


「全部採ってしまうと、来年困るから」

「なるほど、そりゃあそうだ」


 鳥が減りすぎると食料が減る。実に合理的な理由だった。

 ちなみに地走りという鳥は肉も美味いらしい。

 ウズラの大きいみたいなものかな? と、ジンは思った。


 その日の夕食は、野草と卵をダシを使ってとじたような料理が一品加わり、子どもたちが歓声を上げた。

 もちろんジンも大喜びだった。


「これはジンが頑張ったから少し多めに配ります」


 とのバレリの言葉に他の子どもたちから羨ましがられたが、ジンとしても限界に近かったので、分けてやるということが出来ない。

 正直浅ましいと思わないでもないジンだったが、空腹には勝てなかったのだ。


 だが、この出来事は単に運が良いで終わるものだったが、翌日の出来事は、そんな話では終わらなかった。


「なに? ……これ」


 全員が唖然と見守るなか、畑では昨日まで苗程度の状態だった野菜が、ツヤツヤとした実をたわわにつけていたのだ。

 しかも、畑全体がそうなっていた。

 こうなるとさすがに気持ち悪い。

 困惑したものの、だからと言って野菜を駄目にするという選択もなかった。

 全員総出で収穫を終わらせて、足の早いものから食べることにした。

 ついでに村の人たちにおすそ分けもする。

 誰も答えることの出来ない疑問が残った訳だが、判断はもうすぐ帰ってくるはずのヴィスナー教師に丸投げすることにしたのだった。


 食糧事情が改善したものの、ジンはなんとなくよくわからない不安を抱くこととなった。

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