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第1話 拉致られた!

新しいシリーズです。

よろしくお願い致します。

 前後の記憶がはっきりしないまま、ジンはうっすらと目を開けた。

 身体がひどくダルく、まるで水泳を長時間した後のような疲労がある。

 なんとなく寝坊したような気持ちで、ジンは起き上がろうとしたが、なかなか身体が言うことをきかず、わずかに全身に力を込めることができたのみだった。


(これは、風邪でもひいたかな?)


 ジンはそんなふうに思い、学校を休む必要があるかもしれないと考えた。


(今、休める時期だったっけ? テストは大丈夫か?)


 高校生になって、いきなり授業が難しくなり、ジンは勉強の仕方を飲み込むのに必死だった。

 学校の授業は中学まではいわば基礎だ。

 高校になって応用が始まると戸惑うことも多い。

 高校一年のこの時期に一日休むということは、授業内容を一日分飛ばすということだ。

 復習メインの授業のときならともかく、新しいことを習う時期の空白は痛い。


 やがていつも風邪のときに痛む喉が痛くないことに気づき、段々と身体のダルさも抜けてくると、どうやら風邪ではなかったようだとほっとした。

 ふうと溜め息をつき、起き上がりつつ周囲を見回す。

 と、ジンはそこでやっと周囲の異様な雰囲気に気がついた。


「な、んだ?」


 周囲は薄暗い。

 夜明け前なら当然かもしれないが、それだけではない。

 切り取られた石をはめ込んだような壁に、松明のようなものが備え付けられている。

 もちろんジンの部屋にそんなものはなかった。

 よくよく見れば自分の横たわっている床も石だ。


「ここはどこだ?」


 冷え冷えとした空気が自分を包んでいることに気づいたジンは、寝起きの頭をフル回転させる。

 まずは自分が寝る前にどこにいたのかを思い出そうとした。

 しかし、上手くいかない。


「どういうことだ?」


 自分の名前、高校一年であること、それはわかる。

 しかしそれ以外のことが曖昧になっていた。

 ジンはパニックを起こしそうになった気持ちをむりやり飲み込んだ。


(落ち着け、異常な事態が起こったときほど落ち着かなければ間違える。最初の身体のダルさ、もしかして、薬かなにか使われた?)


 そう考えれば納得がいく、今の記憶の混濁もその影響なら有り得る話かもしれない。

 ジンの心にとっさに浮かんだのは「拉致、誘拐」という言葉だった。

 拉致と言えば地位のある人物、誘拐と言えば女子どもという認識があるが、高校生男子の身に降りかからないとは言えない。

 日本ではあまり聞かないが、海外ではティーンの少年の行方不明は多く、そのほとんどは変質者や殺人鬼の餌食となっている。

 もちろん幼い子どもや女性に比べれば少ないが、ないとは言えないのだ。


 と、そのとき足音が聞こえた。

 見通しの悪い闇の向こうから黄金の光と共に大勢の気配が近づいて来るのをジンは感じた。

 とっさに寝たふりをしようかとも思ったジンだったが、その状態でいきなり攻撃されては避けようがない。

 何が起こっても対処できるように構えておくべきだと判断した。


「目覚められたのですね」


 甘い、したたる蜜のような、肌をなで上げる甘さを含んだ声が聞こえた。


「誰、ですか?」


 カンテラか何かだろう、いきなり強い光に照らされて、ジンはその相手を確認することが出来ない。

 とっさに手で目を覆ったのを相手も気づいたのか、カンテラの灯りは他の人間に渡されて遠ざけられた。

 そう、他の人間もいる。

 ジンは視線を落として足の数を数えた。

 サンダルのようなものを履いた足が、十人近くいる。

 多い。


(殺人犯や変質者じゃなく、組織的な犯罪か?)


 そうなると目的はなんだ? と、ジンは考えた。

 世の中には人間を売り買いするビジネスもあると聞いたことがある。

 幼い子どもの誘拐は性風俗などのほかに子どものいない富裕層への提供などもあるらしい。

 しかし高校生男子となるとその線は薄い。

 

(そう言えば、人が死ぬところを映像作品にして売るというのがあるらしいが)


 胸糞悪い話を思い出して、ジンは冷や汗をかいた。

 人はいずれ死ぬものだが、死に方というものがある。

 いくらなんでも他人の娯楽のために苦しみ抜いて死ぬのは嫌だった。

 ふと、灯りが増えたことでジンは自分が着ているものに気づく。

 真っ白な貫頭衣で、それは病院の手術着を連想させた。


(まさか! 臓器販売か?)


 考えついた現実味のある危険に、ジンの喉がひくつく。

 昔観た映画で、拉致監禁され、注文が入ると生きたまま麻酔もかけられずに臓器を抜かれるという話があった。


(嫌だ! 冗談じゃないぞ)


「勇者さま、ようこそ我が聖王国ヴァルナへ。心から歓迎いたしますわ」


 甘い女の声がさらに続けて言い。

 ジンは改めてその声の主を見る。

 外国人だ。

 ぼんやりと暗いのに、なぜかその女性だけ浮かび上がるようにくっきりと見える。

 金髪に青い瞳。

 映画やグラビアなどで見る、いわゆる金髪碧眼の外国人とはどこか違った雰囲気だが、日本人ではないことは間違いなかった。


 ジンは昔、親戚の旅行好きのいとこに聞いたことがある。

 流暢な日本語を話す外国人には二種類いる。

 一つは、日本が好きで、その欲求を満たすために日本語を習得した外国人。

 そしてもう一つが、日本人を騙すために、日本語を習得した外国人だ、と。


 ジンの警戒意識が跳ね上がる。

 これまでも犯罪に巻き込まれたことを想定していたが、この目前の女性のうさんくささはそれを肯定するもののように思えたのだ。

 何しろ、その女性は美しすぎた。

 なにやら大層なドレスに宝石を散りばめたアクセサリーを身に着けている。

 どう考えても看護婦や婦警さんという雰囲気ではない。

 いわゆるハニートラップのたぐい、美人局のようなものかもしれないという警戒心を掻き立てる美貌だ。


「勇者さま、目覚めたばかりで戸惑っていらっしゃるのではないでしょうか? まずはゆったりと落ち着ける場所でお話をさせてください」

「勇者……さま?」

「はい。貴方様は私達が待ちに待った勇者さまです」


 ヤバイ。と、ジンは思った。


(最悪だ。ヤバイ宗教組織だ)


 総毛立つ。

 勇者と美女と言えば、その昔、生きたまま心臓をえぐり出され、神に捧げられたという話を思い出させた。

 ようやく慣れてきた目で見れば、うっすらと光っている美女の周りにいる連中は、ローブのようなものを着ている。

 その見た目でほぼ確定したとジンは考えた。


(逃げないと)


 しかし今いる部屋は石造りで、窓のようなものがあるようには見えない。

 美女とお供がやって来た方向が唯一の出口のようだった。


(まずは従順に従っているフリをするか? なぜか拘束されていないし、この部屋を出たら隙を突いて逃げ出す)


「わかりました」


 ジンがそう答えると、美女の顔がぱあっと明るくなる。

 まるでその美女にのみスポットライトがあたっているような不思議な光はおそらくはより女性を神秘的に見せるための演出だろうとジンは考えた。

 その美女に依存するように誘導しているのだ。


「申し遅れました。改めまして、自己紹介をさせていただきます。わたくしはリリス・ニダム・ファルナ。リリスとお呼びください」

「はい」


 ジンの短い返事に、リリスは一瞬不満そうな表情を見せたが、すぐに笑顔に切り替える。


「勇者様のご尊名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あの、ここ、寒いので、そういうのは後からでいいでしょうか?」


 誘拐犯に名前を教えるなど愚の骨頂だ。

 下手をすると家族にまで危険が及ぶ可能性がある。

 今、家族のことも思い出せないにしても、自分には家族がいるはずだとジンは考えた。


「あ、はい。考え至らず申し訳ありません」


 これほどの美女が下手に出て自分を立ててくれているという状況は、ジンからしてみれば、嬉しいどころか怖い。

 有り得ないという思いが大きいからだ。


(とにかくなんとか逃げ出さないと)


 ジンはリリスとその取り巻きから一歩半ほどの距離を開けてその後をついて行きながら、注意深く周囲を伺い続けるのだった。

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