表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
997/1310

みずのにおい

西原と高石が風呂から上がると、すでにリビングはしんっと静まり返っていた。だが、薄暗い電球の下で1人だけ残っていた者が居る。


「…むつちゃん?」


「あ…西原先輩、高石先輩…」


「あ、むつちゃん。どうしたの?もしかして、風呂でるの待っててくれたとか?」


「い、いえ…」


がしがしと頭を拭きながら高石は、冷蔵庫からビールを2本出して、1本を西原に渡した。2人がビールを手にすると、むつは少し唇を尖らせた。また呑むのか、と呆れているのかもしれない。


「聞いてよ、こいつさ。背中に爪痕あんの。絶対に女の子にしがみつかれた跡だと思うのに、西原は否定するんだよ。むつちゃん、どう思う?」


「…どうって…彼女さんと仲が良いって事なんじゃないですか?」


「違うから。むつちゃんもまともに返事しなくていいから。で、どうした?皆は上だろ?」


「はい…ちょっと冷えたみたいで…」


むつは両手で包むようにして、マグカップを持っていた。西原はそれを見て申し訳なさそうに、がりがりと頭をかいた。


「外に居てくれたからだな…ごめんな、本当に…あれなら、もう1回風呂入るか?俺らの後が嫌じゃなかっただけど…まだ湯も暖かいし」


「いえ、そこまでは…大丈夫です。これ飲んだら上に戻りますので」


「なら、俺は先に部屋に戻るから。西原、むつちゃんおやすみー」


「え、お、おやすみなさい」


高石は缶ビールを片手に、さっさと部屋に行ってしまった。残された西原は、むつの斜め前に座って、缶ビールを開けた。ぷしゅっと音がして、少しだけ泡が溢れた。むつは何を飲んでいるのか、マグカップからは暖かそうな湯気が漂っている。会話もなく、西原とむつはそれぞれの物をゆっくりと飲んでいた。気まずく思っているのは、西原だけではないだろう。むつも落ち着きなく、長い前髪の下で、視線をさ迷わせている気配がする。


「…あの、わたしもそろそろ…」


「あ、寝る?うん…そうだな。あんまり遅くまで起きてるとお肌に悪いもんな」


「は…はぁ…」


うーんと首を傾げながら、むつはざぶざぶとマグカップを洗って片付けた。すぐに2階に行くのかと思ったが、むつは何だか落ち着かない様子で、2階にも行こうとしない。


「どうかした?」


「い、いえ…その…先輩も早く休んでくださいね。呑みすぎにも気を付けて…」


「うん、それ呑んだら寝るよ。ありがと」


「…お、おやすみなさい」


ぺこっと頭を下げたむつは、ぱたぱたとリビングを出て階段を上っていった。西原はぐいっとビールを飲み干して、缶を片付けると自分も寝ようと部屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ