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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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みずのにおい

風呂に入った西原は身体を洗いながら、帰りに見た女の事を思い出していた。それに、むつが水の臭いと言っていたのも気になる。


「…お、西原?お前どうした」


「え?」


隣で身体を洗っていた高石が、うわっという顔をしている。何が何だか分からない西原は、首を傾げるばかりだった。


「背中…引っ掻き傷?何か…あれだな…爪痕みたいなのがついてる。滲みない?」


「え?本当か?そんな怪我するような事してないはずだけどな」


「本当か…?」


「いや、本当に本当に…そんなに酷いか?」


「酷いってより…生々しいな。すっげぇ…あれだな…しがみつかれたんだなって感じだぞ?みかちゃんとは別れたんだよな?」


「…別れてだいぶ経つし、そのあと誰ともやってねぇよ‼右手が恋人ってやつ。嫌な事思い出させんなよ」


「悪い悪い…いや、お前すぐ彼女出来たりするだろ?だから、もしかしてって思ってな…珍しく彼女居ないのか」


「珍しくねぇよ。別れてもすぐに出来ないからな。出来てもすぐに別れたりしてるからな」


「…好きでもないのと、とりあえずで付き合うからだろ?寂しがり屋だよな」


高石は頭からシャワーで泡を流すと、ゆっくりと湯船につかった。西原も泡を流してから、湯に入った。ちゃぷっと肩まで入ると、ぴりっとした痛みを感じた。高石の言う通り、背中に傷が出来ているのかもしれない。


「来るもの拒まず、去るもの追わず」


「…うん、軽いなぁ。軽いってより、誰かに執着しないよな?みかちゃんは本当に好きだったのか?」


くつくつと高石に笑われると、西原は冬に別れた彼女の事を思い出そうとしていた。だが、1年付き合った彼女の顔がすでに思い出せない。


「あんまり思い出せない。俺は情が薄いのかも」


溜め息を吐いて西原がぶくぶくと湯に鼻の下までつかると、高石は笑った。


「まぁ過去は過去だよな。気にするなって」


高石はそう慰めてくれたが、気にしないでいられはしない。冬に別れてから、まだ4ヶ月ほどしか経っていない。それなのに、あまり思い出せない。学部は違えど同じ大学に通っているのだから、会えばすぐに分かるだろうが、思い浮かべるのは難しかった。それよりも今は、背中の傷と帰りに見た女、それからむつが何かあったのではと言った言葉。それが気になっていた。そのせいだからか、むつの顔はちらちらと脳裏に浮かんでいた。

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